第1話
どうやら気温は暑すぎず寒すぎずといったところでお粗末な麻袋でも一応快適に眠ることはできるようだった。
とはいえ、ここはぼろ小屋。窓もなく板材の隙間から入ってくる光だけが小屋の中を照らしている。なんなら、この隙間から隙間風もびゅうびゅうと入ってきそうではある。
というか、異世界転生して連れてこられた所がボロ小屋とかどういう処遇なんだ、俺は島流しされた囚人か?
という疑問を心の奥にぐっとこらえながらボロ小屋の扉を開けてみた。
——————————森の中のようだ。
若干湿ったような空気の森だが、特別密林というわけでもなさそうだ。
木々の間からは木漏れ日も落ちているし、ある意味落ち着いた場所ともいえるかもしれない。
俺の他に人がいるような気配はなく、危害を加えそうな動物も近くにはいなさそうだ。
とりあえずぐぐっと背伸びをした後に、家の周辺を探索する。どうやら森の中にぽつりとボロ小屋だけが建っているらしく、もしかしたら伐採した木の一時保管場所として使われていたのかもしれない。
ともかく、ここ数年は使われてはいなさそうなのか、だいぶボロボロになってきている。
「スマホとか、無いよなぁ」
当然のことながら、スマホも財布も何もない。着の身着のままというやつだ。
それに着ている物もおそらく綿のような材質で出来た茶色い長そでシャツと所々に縫った痕のようなもののあるズボン、ただそれだけだ。
「これは……、異世界転生ってこんなものなのか?それとも何らかのペナルティーが科されているのか?」
というような疑問を投げかけてはみるが、誰かが答えてくれるわけではない。
とりあえず家周辺は何もないことが分かったし、少し範囲を広げて探索してみるのもアリかもしれない。そうと決まればさっさと行こうか。
俺はめぼしいものがないか周辺の探索を始めると、小さな石像のようなものを見つけた。
「こんな場所にお地蔵様か?まあ、せっかくだし祈ってでもおこうかな」
と吸い寄せられるように石像へと向かっていく。
—————聞こえるかい?
なんだ?誰か近くにいるのか?と俺は咄嗟に周りを見渡したが、誰もいない。
どころか、その声は耳から入ってくるのではなく頭の中で響いているような感覚がした。
—————石像だよ、キミの目の前にある。
嘘だろ……。今まで直接脳内に語りかけられたことはないから使う機会はなかったが、今なら言える。
「こいつ、直接脳内に!」
—————まあいいさ、そういう事でも。ところでキミは、さっき転生してきたはずだね?
強引に話を進めてくるな。まあ、ボケをかましているような時分じゃないということだろう。
俺は語りかけられている声に諭され冷静になると、「ああ」とだけ言った。
—————やっぱり。話は聞いているよ、多分これからどうすればいいのか分からないんじゃないか?
確かにこのまま探索していても人のいる場所にたどり着くという自信はない。
—————それに、人に会えたとしても基本的な常識くらいは知っておかないと生活していけないだろうからね。手短ではあるけど説明させてもらうよ。
まあ、言われてみれば異世界で元々の常識が通用するようには思えない。
俺が静かにうなづくと、脳内に語りかけている声は説明を始めた。
異世界に来たので引きこもります -神から与えられた無能力- 夏樹 @natuki_72
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