山賊と再会

「山賊どもはかしらを慕っている様子だったからな。頭さえ潰せばとりあえず何とかなるだろう」

「そう上手くいくもんですかね……」

「分からん。まあダメだったらその時はその時で次の手を打つしかない」


 日は少しずつ西側に傾き始め、周囲には少しずつ森が増え始めた。

 もうすぐ山賊に襲われた山道に差し掛かるころである。


「別の道とかってないんですか?」

「五日ほど掛かってもいいならあるぞ。まあそっちにも山賊が出る可能性はあるがな」

「よーし、さっさと突っ切っちゃいましょう! 山賊は任せてください!」

 自棄ヤケになった鳥地が張り切りながら叫んだ。


 やがて周囲が暗くなり、一昨日野宿した地点が目の前に迫った時。

 アタルカがぴたりと足を止めた。


「先生?」

「来たな」

「え?」

 鳥地がまさか、と思った時には、背後から荒々しい声が響いた。


「おい、なんでお前らだけで戻って来てんだ!!」

 間違いなく、山賊のメンバーの一人である。


「お前らについてった奴らは、どこ行ったんだ!!」

「さあな、どこぞへと吹き飛ばしてしまった」

「クソッ!! 頭!! 頭ー!!」

 山賊は叫びながら木々の間に駆けていった。


「ちょっと先生! 挑発しないでくださいよ!」

「心配するな、何ができる訳でも無い」

 アタルカが表情一つ変えずに歩みを再開する。


 その瞬間。


「おっと」

「ひええええ!!」

 アタルカの足元の土が音を立てて跳ね上がった。


 暗くてよく見えなかったが、影と音から鎖のような物が伸びてきたのだろう。

 幸い当たりはしなかったが、あのまま足に当たっていたら、しばらく歩くことすらできなかったかもしれない。


「走るぞ!!」

 アタルカは鳥地の返事も待たずに駆け出した。

 直後に二度目の鎖がアタルカ襲い、また近くの土をえぐったので、鳥地が情けない悲鳴を上げた。


「ここの山賊の頭は鎖鎌を使うと聞いたことがある。今攻撃してきているのは頭だろうな」

 アタルカは鎖の動きを冷静に観察し、鳥地に指示を出した。


「あそこだ! あそこに向けて撃ち込め!!」

 その声を聞いて、そこまで喚いていた鳥地が叫ぶのをやめ、腕に力を籠めだした。


 鳥地の小さな腕を白い光が包み、光はそのまま矢となってアタルカが示した方向へと目にもとまらぬ速さで飛び出した。


「うぐっ!!」

 木々の間から鈍い叫び声が響き、それを聞いたアタルカはそこで足を止めた。


「行くぞ」

「え、どこへ?」

「声が聞こえたところだ。あれが頭だったならよし、違うならば生け捕りにして人質にしてやる」

 鳥地はふと、もしかしたら山賊よりもこの人の方が怖いかもしれないと思った。


 ガサガサと木々を掻き分けて森の中に入っていくと、うずくまる大男のそばに数人の山賊が寄り添っていた。

 大男の腕には大きな鎖鎌が握られ、その先には赤い液体が滴っている。


「ほう、ちゃんと頭だったか。よくやったぞ学生」

 アタルカがゆっくりと男たちに近寄ると、山賊はそれぞれに刀や槍などの武器を構えてアタルカに向き合った。


「いい、どけお前ら」

 大男の低く威厳のある声が響き、山賊たちは素早くその場を避ける。


「どうやら厄介な奴を狙っちまったみたいだな」

「うむ。せいぜい後悔するがいい」

 鳥地は自分の力だとツッコもうとしたが、すんでのところで思いとどまった。


「山賊などするべきではなかったな」

 アタルカの冷ややかな言葉に、山賊の親分はフッと笑った。


「そういう訳にはいかんさ。俺達にはこうするしか生きていく道が残されていなかったんだからな」

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