帰り道
目的を果たしたアタルカと鳥地は、昼前にはナラバの家を発つことにした。
のだが。
「もうちょっとゆっくりしていけばいいのにー」
「先生お言葉に甘えましょうよー」
「お前いつの間にそんなに懐いたんだ。話し方まで似てきているではないか」
アタルカは、鳥地の言葉に苛立つように顔をしかめる。
荷物をまとめ終えたアタルカは、ナラバと鳥地に引き留められていた。
「だってナラバさん優しいんですもん。先生みたいに怒鳴らないし」
「研究もゆっくりさせてもらおうかと思ってねー」
最初に強く迫られた動揺と、その後打って変わって優しくもてなされた落差からか、鳥地はすっかりナラバの仲間になっていた。
「俺も研究があるのだ。これ以上時間をかけている訳にもいかん」
いつもならもうとっくにナラバの家を出ている時間である。
鳥地のために行きにも時間かけているので、これ以上ゆっくりされても困るのだが。
「じゃあカグラちゃんだけ置いてっちゃおうー。アタルカは帰ったらいいよー」
「そ、それって二人っきりってことですか!」
「貴様は俺の手伝いをするんだろうがダメッカス!!!」
ぐずる赤ん坊を単眼の少女から引きはがし、アタルカは帰路に就いた。
「また行きましょうね……」
「まあ数か月経ったらまた行くことになる」
「数か月かぁ……」
鳥地がいかにも残念そうにアタルカの肩の上でため息を吐く。
「そんなにアイツが気に入ったのか」
「なんて言うか、そばに居るとドキドキするんですよねぇ」
それは恐怖ではないかと思ったが、アタルカは敢えて口には出さなかった。
数時間しか話していないというのに簡単に落ちたものだ。
それだけインパクトが強かったのかもしれない。
アタルカはふと、自分がナラバと初めて会った時はどうだったかと考える。
トクロも一緒にいたような気がするが、昔のこと過ぎていつのことだったかすら記憶がおぼろげだった。
「しかし、浮かれていていいのか」
「何がですか?」
アタルカは行きと変わらないハイペースでスタスタと歩きながら、肩に乗せた鳥地に向けて口を開いた。
「このままだとまた夜に山賊と遭遇するぞ。準備しておけ」
鳥地の体が急速に硬直した。
つい昨日あんな目に会った所だというのに忘れていたのだろうか。
全く呑気なものだとアタルカは呆れる。
「あの、やっぱり僕ナラバさんのところに戻りたいんですけど」
「いつもなら山賊が出るあの一帯は夕方までに通り過ぎるんだがなぁ。散々引き留められて出発が遅くなってしまったからなぁ」
「うう……」
鳥地はしゅんとした様子でアタルカの細い肩に深くもたれかかった。
「安心しろ。今度は魔力も満タンだからな。使う魔法も考えてある」
「そのために最初から肩に乗せて歩いてたんですね……」
アタルカの計画性に感嘆しながら、鳥地は観念して素直にアタルカに魔法の使い方を教わった。
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