転生者の想い
焚火の前に並んで座るアタルカと鳥地の周囲に、山賊の気配がじりじりと迫ってくる。
「どうしますか、先生」
「待て、今考えている」
そうは言うものの、アタルカは目つきを険しくするばかりで、動き出す気配は微塵も無い。
実際、山賊が出て来ても鳥地の魔法で撃退する予定だったアタルカの頭には、新たな策など思い浮かばなかった。
二人がそのまま動き出すことも出来ずにいると、茂みの中から、大柄な男がのそのそと現れた。
ステレオタイプな山賊だ、と鳥地は思う。
「ん? お前と赤ん坊だけか? もう一人は?」
「もう一人などいないぞ」
「話し声が聞こえたと思ったんだが……まあいいか。逃げられる訳無いしなぁ」
どうやら山賊は、鳥地が流暢に喋っていたところは見ていなかったらしい。
最初の男に続くように、続々と山賊たちが姿を現し、二人はあっという間に十人ほどの男に取り囲まれてしまった。
「先生、こうなったら仕方ないです」
鳥地が子供らしく怯えたふりをしてアタルカに抱き着き、山賊たちに聞こえないよう小声で話し出した。
「普通に歩くくらいの魔力は回復しましたから、僕が歩いて喋ってアイツらの注意を惹きます。先生はあいつらを突破して逃げてください」
「お前……」
「先生の体力なら逃げ切れるでしょう?」
「それはそうだが……」
鳥地はアタルカの胸に顔を鎮めたまま柔らかく微笑んだ。
「先生は死んでも守りますよ。実家も出てきちゃったんだから、先生に死なれたら僕も死ぬしかないです」
鳥地は顔を離し、アタルカを見つめる。
鳥地は既に、覚悟を決めた目をしていた。
「僕、この世界では先生しか頼れないですから」
寂しげな笑みを残して、鳥地はアタルカから飛び退いた。
「オラー! 山賊どもかかってこい!」
鳥地は小さな「あんよ」を懸命に動かしながら、山賊に向かって突撃していく。
「うおっ!? なんだこのガキ!?」
言葉もしゃべれない様な赤ん坊がいきなり叫びながら走って向かってきたことに、山賊たちは動揺したようだった。
鳥地は狼狽える山賊たちを罵りながら暴れまわったが、魔力も力も無いのですぐに捕まり、抱きかかえられてしまった。
(短い転生生活だったなぁ。でも、先生は無事逃げられたかな)
やり遂げたという思いでさっきまでアタルカがいたあたりに目線を向ける。
…………まだいる。
「ちょ、先生! 何やってるんですか!!」
「荷物が多いんだ。どの道逃げられん」
「そんなぁ……」
鳥地の決心は泡と消えた。
やはり、もう少しアタルカのそばに居て策を思いつくのを待つべきだったか。
アタルカは軽くため息をつき、やれやれというようにおもむろに立ち上がった。
「山賊諸君、我々は金品を持っていない」
「それはお前らを殺してからしっかり確認させてもらうさ」
「そいつはもったいないな」
アタルカが呟くと、山賊たちは一様に怪訝な顔をした。
「我々はあるお方の使いで輸送任務の途中なのだ。我々を送り届けてくれれば、奪うどころか謝礼が出るぞ」
それは明らかなハッタリだったが、アタルカの策だと分かり、鳥地はまたもや小さな「おてて」で口をふさいだ。
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