わるものといっしょ

 夜は明け、雲一つない青空の下。

 むさくるしい男たちの集団が、威圧感を放ちながら、荒れた野道を不揃いな足取りで進んでいた。


 その一団の中央には、男たちの中では浮いてしまうような細身の青年と、その肩に乗る赤ん坊が……


「おい、本当に一日で着くんだろうな!」

「俺はいつも一日で行っていると何度も言っただろうが。まあお前らの体力が俺より劣っていたら分からんがな」

「なんだとテメエ!?」

「怒鳴って余計な体力を使うな。もっとペースを上げねば間に合わんぞ。こんなやせっぽちに体力で負けてどうするのだ」


 取り囲まれているのも関わらず強気な態度を崩さない青年・アタルカは、五人の山賊たちなどお構いなくハイペースでずんずん進んでいく。

 男たちはなんとか彼を囲んだ状態を保とうと足を速めているが、三時間以上も歩きっぱなしですでに疲労の色が見えている。


「先生! 挑発しないでくださいよ!」

「安心しろ。少なくとも俺達から金を奪うまでは手は出せん」

 コソコソと耳元に囁きかけてくる赤ん坊・鳥地に、アタルカは微笑すら浮かべながら返す。


 そう、少なくとも目的地にたどり着くまでは山賊たちは二人の「護衛者」である。

 昨夜、彼らを襲った山賊たちに、アタルカはこう言い放った。


「我々はあるお方の使いで輸送任務の途中なのだ。我々を送り届けてくれれば、奪うどころか謝礼が出るぞ」

 その言葉に、山賊たちは少しざわついたものの、そのまま二人の身ぐるみを剥がそうとにじりよってきた。


 しかし、それを止めたのは山賊たちの親分だった。

 茂みの奥にいて姿は見えなかったが、深く、重い低音で賊の親玉はこう言った。


「胡散臭ぇが、金品を持ってねえのは本当らしい。向こうに着いたら荷物とガキを人質にしてたんまり報酬をもらってこい」

 その言葉で、一旦その場は収まった。


 その後は山賊に囲まれた状態で何とか睡眠をとり、翌朝には山賊の一部が二人の護衛に着けられ今に至っている。


「で、どうするんです? 囲まれちゃってるし、本を捨てて逃げるのは絶対嫌なんでしょ?」

「まあ案ずるな、考えはある。お前は黙って魔力を温存しておけ」

「言われなくても満タンですよぉ」

「さすが、子供は回復が早いな」


「テメエら、何ぼそぼそ言ってやがる!」


 話の内容までは分からなかっただろうが、二人が何やら相談していたところを見つけた山賊にどやされる。

 二人は一応黙ったが、アタルカは腹いせをするように足を速めた。


「あ、こら待て!!」

「このままでは日が暮れる! お前らともう一泊などごめんだぞ」

 結局、日が傾き始めるころには山賊たちはへとへとになり、アタルカが先頭に立ち山賊たちがそれを何とか追いかける構図になっていた。


「今なら逃げられるんじゃないですか?」

「一本道だからな、俺達の目的地は分かるだろうし、街中で暴れられたら厄介だ」

「やっぱり昨日逃げとけばよかったじゃないですか」

 鳥地が抗議するように唇を尖らせる。


「自分しか頼るものがいないというものを見捨てられるほど、人でなしではない」

 アタルカは少し表情を和らげながら、鳥地にも聞こえないほど小さく呟いた。

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