転生ってなんぞ
「改めまして、僕はエス・カグラ。さっきの騎士たちが言っていた通り転生者です。元の名前は鳥地輝人」
短い足で床板の上に直接座った赤ん坊は、やはり見た目からは想像できないほど落ち着き払った様子で自己紹介をして見せた。
「エス!? ってことは、県主の!?」
赤ん坊と向かい合って同じように地べたに座った金髪の少女・トクロが驚くのも無理はない。
彼女とアタルカが住んでいるこの場所はウルバ帝国マヤガ県の、その端っこのジル村。
「エス」というのはマヤガ県とそこに住む約二十万人の民を統治する領主の名字である。
「つまりお前は領主の息子な訳か」
「あ、いえ、一応娘です。中身は男ですけど」
「転生してまで、そんな本来ならば言葉も話せないような女児の体が欲しかったのか」
「別に望んだ結果ではないですよ!」
「冗談だ」
トクロの隣で、やはり床に直接腰を下ろしまたもやアルマジロのように背中を丸めた青年・アタルカは、興味深そうに転生者を眺める。
青年はただでさえ目つきが悪く、更に険しい顔でしげしげと観察しているため、睨まれている鳥地はすっかり委縮していた。
「ならもっと冗談らしく言いなさいって!」
そんなアタルカの頭に、トクロの手刀が飛ぶ。
小柄なトクロは見た目通り力が弱いのか、それともこんなやり取りにはすっかり慣れ切ってしまっているのか、アタルカは少しも動揺しない。
「しかし、転生者など創作か政治のためのフカシだと思っていたんだがな。まさかこの目で実在を確認する日が来るとは」
「いやほんと、ラノベの中だけの話だと思ってたら自分が転生するんですもん」
二人は一層険しい顔つきであれこれと考えながら視線を交差させる。
何かを考えるように顔を歪めて向き合う背の高い青年と小さな赤ん坊。
その異様な光景に、トクロは座ったまま、二人から体二つ分距離を取った。
「まあいいか。出てきたものは仕方ない。実験の材料が増えたと素直に喜ぼう」
「まあせっかく異世界に来たんだし、ラノベの世界探検くらいに考えればいいか。魔法の才能もあるみたいだし」
二人は全く同時にお気楽な空気に切り替わり、立ち上がるとそれぞれに好きなことを始めた。
「領主の娘はやはり魔法の才能があるのか」
「ああはい。今も魔法で筋力強化してるから歩けてるんですよ」
「天才は教育開始も早いものか」
「いや、周りの人を見て覚えましたし、才能を自覚したのも最近なんですよ。なんせ案内の女神とか天の声とか一切ないんですもん。死んで目が覚めたらいきなりベッドの上ですから。状況把握に三日掛かりましたよ!」
さっきまでの空気はどこへやら、呑気に好きなことをしゃべる二人を見ながら、トクロは思った。
もしかしたらこの二人は似た者同士かもしれない、と。
とまれ、こうして物語は動き出してしまったのである。
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