第19話

 「こりゃダメだなぁ……」

 

 早速、俺は白井の無能さに頭を抱えていた。こいつは仮にも生徒会長から通達を受けて任務にあたっているはずなのに、重要な情報を何1つ持ち合わせていないからだ。それ故にこうして聞き込み調査を行っているわけだが、不自然なほどに裏生徒会の情報が出てこない。それどころか白井の暑苦しさと顔の圧のせいで女子生徒からは逃げられてしまう始末だ。


「おっかしいなー。会長の話では降格云々は結構騒ぎが大きくなってるって聞いたんだけどなぁ……」

「その会長が嘘ついてるってことは?」

「それはない! 会長は嘘をつくようなお方ではないぞ!」

「お、おう。失言だったわ」


 ええぇぇえ、こいつ歳上キラーだったん? つかガチ恋とかまじキツすぎでしょー。職場内恋愛なんて別れた後の居心地の悪さがトリガーとなって、どちらからともなく仕事を辞めてしまうくらい支障をきたす。


「先導者に尋ねてみる」

「先導者ってなんのことだ?」

「教師の事だよ。ちなみに俺は職員室に行くなんてごめんだ。白井が全部やるならいいけど」

「はっはっはっ、相変わらず優の先生嫌いは治らないな!」


 職員室ほど立ち寄りにくい場所はない。生徒を出向させる癖に、歓迎ムードなんて微塵もない。例えるなら、修学旅行の班決めであぶれて情けで余りの班に入れてもらう時と同じような空気感だ。嫌なこと思い出させんな。


「うーん、でも困ったな。このことはまだ先生方には伝えてないんだ」

「教師の犬の癖に反抗は良くないな」

「ん? 先生で犬飼ってる人いたか?」

「なんだか俺が悪い奴みたいじゃねぇかよ」


 古傷が痛む。性格がひねくれてしまった原因の一つに小、中学校時代の環境がある。公立小、中学校の教員はクズが多い。俺がいじめられたと訴えても、厄介者は御免とばかりに聞く耳を持ってくれなかった。彼らの大半は社会に出ていないから、子供がそのまま大人になったようなものなのだ。


「おっともうこんな時間か。そろそろ行かないとな」

「ああ、ジムで年下キラーの日々の残業でストレスたまった欲求不満お姉さんに狩られに行くのか」

「そんな夢みたいな話はない!」


 がははと高笑いして去って行く白井。冗談が通じないので、まるで俺がエロ漫画好き妄想非モテ童貞に仕立て上げられてしまった。え? 誰もそんなこと言ってないって? うるせぇよ。


「んで怪しいよな」

「うむ。彼奴からは竜の血の匂いがする。何かを隠しているに違いない」

「筋肉バカだから血なまぐさいだけだろ、血管バキバキだし」

「流石童貞は偏見が酷い」

「お前、童貞に対して当たり強いけど、もしかしてその歳でバージンじゃないとかいうんじゃないだろうな?」

 

 俺のウソ発見器がビンビンにいきりたっている。


「ふっ、愚問。ベッドの上でも初心は忘れない」

「ヤリ〇ンの発言で草」



 ● ● ● ● ●



 IQ3くらいしかない中身すっからかんの会話をしながらも、俺たちはしっかり白井の後をつけていた。陰キャはねっちこいし執念深いから、ただでは逃がさない。年上巨乳人妻といちゃいちゃするなんて許さない。出会い厨は死すべし。


「彼奴について何か分かった?」

「うーん、とりあえず歩き方がすげぇガニ股」

「それは見なくても分かる」

「いや、あれは小学生の頃内股歩きだったのを女子にバカにされて、それを気にしすぎた結果、過度な外股歩きになってしまった亡霊の姿だ……」

「息を吐くように自分の経験を暴露するなんてまるでピロートーク」

「あなたバージンで俺のこと好きすぎるって設定だからあまりにキャラから外れた発言するのやめようねお願いね!?」


 メインヒロインが他の男で汚れてるなんて処女厨のキモオタが咽び泣いちゃう。同じように俺も白井がきれいなお姉さんに食われる現実を知ってしまったら3日間寝込む自信がある。抜け駆けは許さないし、友達の幸せも願わない。陰湿で最悪な性格だが、行動原理としては十分だ。

 白井は隣駅で電車を降りると、河川敷に沿ってずっと真っすぐに歩き始めた。その先にタンクトップのエロいお姉さんがいると思うと自然に足が早くなる。しかし、嫉妬深いヤンデレ気質のかおるさんはそれを許してくれない。ちょ、違う違うつねるのは乳首じゃなくてほっぺ。満足げな顔もやめなさい。そこはぷく顔かジト目がお約束だろ。


「住宅街に入った。追跡を続ける」

「無線で喋ってるわけじゃないんだから、わざわざ実況しなくてもいいぞ」


 気持ちはいたく分かる。俺もこいつも立派な厨二だ。このドラマやアニメでありがちなシチュエーションに心が躍るのも無理ない。ニヤリと2人で顔を見合わせて笑う。どうだ気持ち悪いだろう。


「あれは……ちっ、勝ち組かよ」


 閑静な住宅街の中で異彩を放っている邸宅を見て、悪態をつく。お金持ちは持ち前の財力でブイブイ言わせているイメージが強いので苦手だ。大学生の癖に調子に乗ってビットコインに10万投資して4万にしちゃったどこぞのバカの方がかわいいものだ。


「白井氏が入っていく」

「その限界オタク女さんみたいな口調はやめようね?」


 やっぱり未亡人妻との密会なのか? たわわぷるるんぼいんなのか!? 脳内セクハラおじさんがうるさい。


「東雲」


 いつの間にやら表札の前でぼーっと突っ立ているかおるが呟く。


「ソシャゲで女体化してSSRくらいで出てきそうな名前だな、おい」

「東……四神……青龍?」

「いやそれこじつけすぎだから。龍の家系とか異世界モノでも上位種レベルだから」


 東雲かれん。おそらくうちの学校でこの名前を知らないものはいない。

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