第12話
最近のミスコンというものはぶっつけ本番ではなく、中間発表を経てファイナリストに選ばれなければ、学祭本番に出場することは出来ない。
「すごい。ぶっちぎり」
放課後。皆がそれぞれ部活や帰路に向かう中、他に誰もいなくなった教室でいつものように2人で向かい合ってスマホを注視していた。SNSの公式アカウントに掲載された結果は、以下のように示されていた。
『日南彩沙ー 375票
成瀬せなー 158票
高麗瑞希ー 66票
小森歩美ー 48票
満田美穂ー 40票
宮野みゆー 20票
無効票ー 13票』
「まじかよ……」
「驚いた」
「あいつ、せなって名前だったのか」
「……そこじゃない」
人の名前を覚えるのは苦手だ。そもそも苗字を知っていれば事足りる。決してフランクに名前呼びする友達がいなかったわけではない。
「ファイナリストは上位3人」
「中間発表の結果は本戦には持ち越されない。だから、問題は無い」
「本当にそれだけ……?」
「馬鹿野郎。俺が嘘ついたことあるか? そもそも嘘つけるほど他人と関わったことがない」
「その自虐は私の胸にも急所を与える」
やはり、ぼっち同士は群れるべきではない。同族嫌悪とか共感性羞恥とか自己顕示欲が湧いてきそうだ。最後のは違うか。
「ミスコン本戦は現場での投票で行われる。内部外部関係なく来場者の数で左右されちまう。つまり、番狂わせも起きやすい」
実際そんな手間は要らないのだが、かおるに言うとややこしくなるので、口を紡いでおく。敵を騙すもまず味方から。
『ミスコン運営委員会は、投票数操作を行っている』
『日南彩沙と運営委員会には体の関係がある』
『ミスコン運営委員会には、セクハラ発言や行動があった。当初、参加者は9人だった』
『そもそも容姿や外見に優劣をつけるのは如何なものか。人間性や内面も見るべし』
もちろん、これらは真っ赤な嘘だ。実際、似たような話はどこかで聞いたことはあるが、気のせいだと思ってもらえると助かる。
そもそも、噂の真偽はどうだっていいのだ。騒ぎが大きくなったり、反対の声が上がれば学校側も無視できない。PTAに話が伝われば、そういう類の物にうるさい保護者が学校に苦情を入れたりもしてくれる。
「物は使い用。人はこき使われ用。便利な世の中になったもんだ」
「突然、炎上発言。さすが、強欲の優」
「俺、大罪なんて犯してないぞ」
大方、最近七つの○罪で夜更かしでもしたんだろう。厨二病は直ぐにアニメに影響されるから困る。
「私も喜んで加担する」
「ばっか、自分から共犯者になる奴がいるか」
「大丈夫、あなたの幸せは私の幸せ」
「あわよくば、甘味を吸おうとすんなって」
時たま自然と零される重い発言にはうんざりするが、無碍にはできない自分もいる。クズ男はこういう場合、上手くやり過ごして女をキープし続けるのだろう。ある意味、その手際には尊敬する。俺の場合、罪悪感が靄のように広がって苦しい。けれど、俺も男の端くれだ。我慢するのには慣れている。
⚫️ ⚫️ ⚫️
一方、その頃。一階の職員室では会議が行われていた。
「どうでしょう皆さん。色々と騒がれていますが」
「ふんっ、馬鹿馬鹿しい。ミスコン? 今時そんな前時代的な文化にこだわる必要はないと思いますがね」
校長の一言に悪態を付く教頭。
「最近は父兄もうるさいからな」「出し物だけでも十分盛り上がるし」「しかし、今から中止なんて納得しないのでは?」「確かに頑張ってきた参加者には気の毒よね」
それに続くように皆、口々に自分の意見を述懐する。
「ご静粛に。皆さんの意見は大体分かりました」
校長の言葉に固唾を飲む一同。賛成、反対それぞれ思うところはあるだろうが、それよりも校長が匂わせる厳格な雰囲気を本能が感じ取ったのだ。
「PTAからの苦情……失礼、ありがたい提言もいただいています」
「それで、あちらはなんと?」
聞かずとも、予想の付くことを嫌味たらしく尋ねる教頭。毛嫌いしているミスコンの顛末を自分で確かめたいらしい。
「心身とも発達が未熟な高校生に危険の潜むSNSを使って活動させるのはいかがなものかと。デジタルタトゥーの原因になったらどう責任を取ってくれるのか、と。他にも、噂で囁かれていた通り、内面を見ず容姿だけで優劣をつけるコンテストはいじめや誹謗中傷の対象になるのではないか、と。耳が痛くなる意見を多数頂きました」
事が起きてからでは遅い。学校側が慎重な判断に迫られるのも無理ないだろう。
「そして、わが校としても世間に不名誉な印象を抱かせるわけにはいきません。ミスコンは——中止の方向で検討しています」
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