第11話
昨今のミス・ミスターコンテストは、SNSを活用して大規模に行われる。大学等では、交流の幅が広く、外部からも多くの人間が足を運ぶため、ファンを繋ぎ止めるにはSNSを用いるのが有効なのである。青い鳥のアプリや音楽に合わせて腰を振るはしたない違法アプリでの投稿で注目を集める手法が主流となっている。
一方、高校の場合、規制が厳しく規模は大学ほどではない。しかし、両者にも共通点がある。それは、大人が運営に携わっている、という点である。生徒の自主性を重んじて……などと謳う学校もあるが、そんなものは虚構である。大人の監視は避けられないし、規制も多い。社会に出る前に、学校という箱庭の中で生徒は生き地獄を味わうのだ。
「……油断をしていると、ブラックシャドウが不意打ちをくらわせる」
「痛くしないでね」
「大丈夫。化身は虚構。実体はないから安心して。甘々にする」
「まぁそれはさておきSNSの話をしよう」
いつもの掛け合いは尺をとるので省かせてもらう。かおるは俺の部屋にある無個性のクッションを胸に抱きながら、「むぅ」と不満を零すが、今はあまり構ってられない。
「いいか。お前のツイ廃具合が社会の役に立つ時が来たんだ。心してかかれ」
「しかし、私の技能スキルは闇討ちすべき代物ではない。来るべき時をーー」
「ーーなるほど、自信が無いんだな」
「……ふっ、我を愚弄するとは愚か者め」
「じゃあこれから俺の部屋は立ち入り禁止な」
「さ、さきのはほんの戯れだ。私は前世からの契りによりあなたに忠誠を尽くす。だから、嘘だって言って……?」
上目遣いで迫られれば、言葉を詰まらせるに他ない。女の色仕掛けはずるいが、それに動揺してしまう男の本能も憎たらしい。
「まぁ反省したようだから、この資料の通りのことを呟いてくれ」
「恐るべき変わり身の早さ。私でなければ見逃してしまう」
すぐにネット流の口調に流されるところは危ういが、逆に言うとネットの海では真価を発揮するやもしれない。
「……本当にこれを呟いていい?」
「ああ。ネット民っぽく大袈裟に騒いでくれたらオールオッケーだ」
「ふむ。確かにあなたは男の子」
「え? 何、俺今まで男として認識されてなかったの? じゃあ今までのラブアタックは何」
「静かに。ツイートするから」
「ええ、私語厳禁かよ……」
呆れつつも、自分の仕事に取り掛かる。といっても、大役ではない。ただ、学内のフォロワーが1人もいないかおるのために拡散リツイートするだけだ。そうすれば、俺のフォロワー欄に蔓延るフォロワー稼ぎ目的の野次馬連中の目に晒すことが出来る。大丈夫、最近の若者はSNSでバズることだけを生きがいにしてるみたいなところあるからね。きっと彼らは人の黒い噂とかセンスのあるツイートが大好物だ。早速ネタツイの考案に取り掛かるだろう。噂に尾ひれがつけばつくほど、俺達サイドは万々歳だ。
・・・・・・
『……このように、敵勢力の画策が見られます。我々も早急に手を打った方が良いのでは?』
『いや、泳がせておいていいわ。どうせただの遠吠えに過ぎないんだから』
『しかし、あまり騒ぎが大きくなってしまいますと彩紗様の活動に支障が……』
『いいのよ。別にミスコンにこだわってるわけじゃないから』
必要なことだけ告げて、一方的に電話を切る。相手は、私の親衛隊の男子だ。
「ほんと、最低な女」
興味のない奴にはとことん塩対応。めんどくさくて、地雷が多い高飛車な女。売れ残っても不思議じゃない。
対して、表の私は完璧だ。猫被ってるから愛想いいし、先生からの評判も上々。友人も沢山いて、うちの学校で私を知らない人はいない、と思うのは己惚れだろうか。
「仕方ないじゃない。嫌われないためにはこうするしか……」
あいつは私の本性を知っている。だから、私の好意を受け入れない。けれど、本当の私を知らないみんなは私を腫物扱いしない。つまり、この循環は止まらない。
別に好き好んで、あいつの邪魔をしているわけじゃない。こうでもしないと、関わる方法がない。多分、私から離れたらあいつはもう戻ってこない。昔からそうだから。
『もしもし、突然連絡してすみません。ミスコンのことで少しお話があります』
私は容赦しない。一番になれる道があるのならば、ミスコンだって手を抜いてやるつもりはないのだ。
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