第3話

 異性のいとこと同居生活。言葉だけ聞いたら大変けしからんフレーズだが、思春期の悩み多き高校生には少し苦しい。


「そんで、なんでうちで居候する流れになったわけ?」


 彩紗とその一家が帰った後、「あとは若い二人で~」という母親の粋な計らいのせいで、夜も深まる時間帯に自室にて二人きりにされてしまったのだ。


「ちょっと……一身上の都合で」

「その一身上の都合の内容を聞いてるんだけど」


 ベッドの上でふんぞり返る俺に対して、それまで正座で俯き加減だったかおるがおそらく上目遣いの状態でこちらを見つめてきた。


「な、なんだよ」


 舐められないように無駄に語気を荒げる。対してかおるは不気味な笑みを漏らしながら、とんでもないことを口にする。


「ふふふっ、あなたにずっと会いたかったんです。ぐふふふっ」

「いや、俺の方は全然覚えてないんだけど」


 身の危険を感じながらも、生まれつきの馬鹿正直が勝り、失言してしまう。取り消そうにも、時すでに遅し。


「覚えてない……? 私はこんなにもあなたを想ってるのに……?」

「悪い。俺は頭も膣も緩そうなギャルが好きなんだ。地味なヤンデレ系陰キャは地雷観やばい」


 大方、成就しない高望みを暴露し、それとなく諦めさせようとするが、彼女は俺の発言の意味をあまり理解していないようだった。小首を傾げる仕草に少し萌えてしまった自分が恥ずかしい。


「大丈夫。あなたに嫌われるくらいなら、無理に好きになってもらわなくても構わない」

「参考までに聞くけど、俺のどこがいいんだ?」


 パワ〇ロなら、「怠け癖」、「コミュ障」、「協調性×」などの赤特が付きそうなステータスの陰キャのどこに魅力があるのだろうか。かおるの回答は次の通りである。


「つむじから指の先まで」

「狂気過ぎる」

「狂おしいくらい好き」

「パーツ限定かい? それ生き物じゃなくて良くね?」


 確かにこの世のクズを体現したような性格ではなく、外見に魅力を感じたというのならわからない話でもない。


「あなたの残念な一重の釣り目も、自分を省みない他人の批判も刺激的で好き」

「なぜだろう。あまり褒められている気がしない」

「本当は女の子が好きなくせに、自分に縁がないから他をけなす逃げの姿勢も魅力的」

「あれ、俺のこと好きなんじゃないの?」

「好き。あと百個は言える」


 今時一途なのは大変喜ばしいことだが、一人の時間を大切にする俺にとって束縛の強い彼女は願い下げだ。断腸の思いだが、彼女の好意はばっさり切り捨てるしかない。


「悪い、かおる。お前の好意は受け取れない」

「大丈夫。三番目の女でもいい」

「それは俺が大丈夫じゃないんだよ」

 

 彼女の将来が甚だ心配だ。大学のサークルで悪い先輩に回されてそうだ。しかし、だからと言って俺が彼女を守る義理はない。


「学校と家でずっとそばにいてくれさえすればいい」

「一番目の女並みの要求!」

「その……言いにくいん……だけど」

「なんだ?」

「私、重いの」

「知ってた」

「生理が」

「それは知らなくてよかった」


 女子の生々しい裏事情までは知りたくなかった。


「私たちの間に隠し事はない」

「まるで積年のカップルみたいだな」

「じゃあ、添い寝から始める?」

「飲み行く? みたいなノリで聞くのやめろ」

「体を清めてくる」


 かおるは耳まで赤くしながら俺の自室を後にした。ドアが閉まるのを確認し、やっと一息つけると思ったのもつかの間、控えめにドアが開かれ、かおるがそっと顔を覗かせる。


「一緒に入る……?」

「入らんわ!」


 勢いでツッコミを入れると、びっくりしたのかかおるは慌てて去って行った。

 この調子ではいけない。明日には、かおるは俺のクラスに転校してくるらしい。家の中でならまだしも、学校で女子と同居していることがバレれば、学生生活はお先真っ暗だ。あそこまで陰キャで厨二臭いと、かおるが女子として皆に認識されないという希望的観測を抱きながらベッドで葛藤していたら、疲れのせいか、夢の世界へ旅立っていたのであった。

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