第八章 事件

 ライルがユグドール少年院に来てちょうど2か月がたった日、その事件は起きた。

 ライルの午後の日課は、共通講座の魔術基礎理論で、エリスと同じ教室で授業が受けられることにドキドキしながら机に向かっていた時だった。

 ズウゥゥゥゥン、という轟音が中庭で響きわたり、衝撃が実科棟を揺らした。

「なに⁉︎」

 真っ先に反応したのは講師をしていたミオで、子供たちと一緒に窓の外を見る。中庭には土煙が立ち込めており、その中に何か蠢く影が見えた。

「みんなはここにいて。キズナ、貴方が最上級生だから、ここを任せるわね。危険だと感じたらみんなを連れて修練場に避難すること。あそこが一番頑丈で安全だから。いい?」

「わかりました」

 ミオがいつもとまったく違う緊迫した表情でそう言い、キズナが冷静にそう応じる。さすがは我らが委員長、いつだって冷静だ。

 キズナの返答に満足そうにうなずくと、ミオは教室の窓を開けて飛び出していった。教室は2階にあったが、浮遊の魔術をかけていたのだろう、軽やかに着地すると、土煙目掛けて走り出す。

 土煙は徐々に収まりつつあり、その中の影が姿を現し始める。あれは・・・。

「魔物じゃないか、あれ・・・!」

 教室内で誰かがそう言う。身の丈3メートルを超える石の巨人が、身じろぎして辺りを睥睨していた。混沌の化身である魔物を見るのは、ライルも初めてだった。魔物が人の住まう領域から駆逐されて久しく、今では人の立ち入らない深い森や山奥、迷宮などにしかいないと言われているが、その魔物が、一体なぜ、どうやってここに。 

「ストーンゴーレムだ。魔物図鑑で見たことがあるよ!」

「さっきのはあいつが降ってきた音ってことか?でもどこから?」

 子供たちの声で教室は騒然となる。

「みんな、落ち着こう。先生方に任せておけば大丈夫だ」

 キズナの声が響き、子供たちは静かに、しかし緊張した表情で中庭に降り立った巨人を見る。

 足元にはさっき飛び出して行ったミオと、レン、サルマン、そしてショウ先生が集結しつつある。戦いが始まるのだ、と言う予感に、ライルは鳥肌が立つのを感じた。


 *


「ストーンゴーレム⁉︎なぜこんなところに、一体どこから⁉︎」

 駆けつけたミオが叫ぶ。

「考えるのは後だ、ミオ。まずは奴のコアを探知してくれ。探知後はレン、サルマンが連携してコアを引きずり出せ。俺が破壊する。ゴーレムは鈍重だが一撃は重い、生身で食らえば危ないぞ。散開して戦え」

「わかりました!」「はい!」「承知!」

 愛用の木刀(普段は生徒たちの剣術の修練に使うものだ)を携えて魔物に向き合うショウの言葉に散開する三人。ミオが立っていた場所にストーンゴーレムが振り下ろした拳が突き刺さり、土煙を上げる。ミオが走りながら探知魔法の詠唱を始める。

「こっちだでかいの!」

 レンが風の魔術を巧みに操り、風に乗って自在に身体を左右に振りながらストーンゴーレムの注意を引く。石の魔物はレンの動きに翻弄され、闇雲に腕を振り回している。

 サルマンは両拳を地に付け、地の魔力を集約する。

 ショウは辺りを見回し、子供たちが出てきていないことを確認する。院長室にいる客人も、大人しく待機しているようだ。

 サラ検事の突然の来訪に、ストーンゴーレムの襲撃。両者のタイミングが合ったのは偶然か、それとも・・・。

「探知できました!右腿中央部、それに頭部にも反応ありです!」

 ショウの思考はミオの言葉に遮られる。

「レン殿!「追い風ブースト」を頼みます!」

「了解!」

 レンがサルマンに「追い風」の魔術をかけ、疾風に乗ったサルマンが高速でストーンゴーレム目掛けて突貫する。

「まずは、一つ!」

 叫ぶサルマンが、地の魔力を乗せた右ストレートを魔物の右腿中央に打ち込む。

 右腿部を構成していた大きな岩石が砕け、青く光る魔石でできたコアが露呈する。痛烈な一撃に石の巨人がバランスを崩し、膝をつく。

「よし!ミオ、「魔力付与エンチャント」だ!」

「もう詠唱できてます!」

 ショウの持つ木刀に、耐久、そして破壊力が格段に向上する魔力が込められる。

 狙うは一点。

「とあああああァーッ!!」

 裂帛の気合いを込め、魔物目掛けて疾駆したショウの、渾身の突きが炸裂した。

 魔石が砕け、ゴーレムの体が青白く明滅する。魔物は苦悶するかのように両腕を振り回し、ショウはすぐにその場から飛び退る。

 右脚を根本から失ったストーンゴーレムは、しかし腰から下部をその場に振り落とし、上半身のみで宙に浮かぶと、自らを傷つけた人間に狙いを定め、空中から拳を繰り出し始める。

「頭部のコアは浮遊の魔力が込められているようです!気を付けて!」

「・・・なかなか厄介ですね。あの高所にある頭部をどう攻略するか」

「ショウ先生を魔法で飛ばそうにも、補助魔法も一切効かないからなあ。サルマンはデカすぎるし、僕の風はあいつとは相性が悪いし・・・」

 思案する三者に、ショウが攻撃を避けつつ指示を飛ばす。

「ミオはサルマンに「剛体ストロングボディ」の魔法をかけろ!俺がサルマンを踏み台にして奴の頭部を打つ!レンはあいつの注意を引いて隙を作れ!」

「なんと!」

「わかりました!」

「人使いが荒いなあ、全く」

 サルマンが驚きの声を上げる中、ミオとレンが詠唱を開始する。ゴーレムは執拗にショウを狙って拳を振るっている。

 ショウはゴーレムの攻撃を避けつつ、子供たちがいる建物に万が一にも向かわないよう敵を誘導する。

 ミオの剛体の魔術が完成し、サルマンがそれを受ける。レンが風に乗って飛翔し、ゴーレムの周囲を飛び回る。ゴーレムはうるさい羽虫を追い払うように、両腕を振り回し始めた。ショウから狙いが逸れる。そして四人は、その好機を見逃すような者達ではない。

「ご主人様、いつでもどうぞ!」

「ご主人様はやめろと、言っている!」

 ショウはそう叫ぶと、踏ん張るサルマンの肩を踏み台に、高く、宙に浮くゴーレムを悠に越えて高く跳躍した。

「メェェェエエエエエン!!」

 魔力を帯びて緑に光るショウの木刀が、レンの動きに翻弄されていたゴーレムの頭部に猛烈な勢いで振り下ろされる。

 木刀は頭部をコアごと粉々に砕き、更には胸部を構成している最も大きな岩石をも砕いて、ゴーレムを両断した。砕かれたゴーレムは、バラバラと中庭に崩れ落ち、石の小山を築いた。

「・・・なんと、あの堅固な魔物を・・・。魔力付与されていたとはいえ、木刀の一撃で両断するとは・・・!」

「さすがショウ先生!すごい!カッコいい!」

 サルマンが目を丸くし、ミオが目をハートにする。

「・・・終わったな。レン、ミオはすぐに生徒たちの安否を確認し、寮に連れて帰れ。サルマンは念のため、庁舎に異常がないかどうか見て回れ」

「えー?休憩もさせてくれないんですか?ブラックだ、ブラック企業だー」

 魔術を立て続けに行使し、ヘロヘロになっているレンが文句を言う。

「疲れているところすまんが、生徒たちが最優先だ」

「全く、しょうがないなあ。今度非番の日になんか奢ってくださいよ」

「レン殿、この程度でへばるとは情けないですな」

「全くよ。飛び回ってただけでしょ」

「ええー?飛びながらあいつの攻撃かわすの結構神経使うんだよー」

 口々に言いながら、教官たちはそれぞれの役目を果たすために持ち場に戻っていく。

 いいチームだな、とショウは思う。しかしまだ絶対的に人数が足りない。せめて後一人教官がいれば、子供たちの守りに手を回せるのだが・・・。

「さて、お客人のお小言の続きを聞かねばな・・・」

 そう呟き、ショウは庁舎に足を向ける。

 しかし、一体この襲撃は何だったのか。アルバの放ったライルの暗殺のための刺客かとも思ったが、あのゴーレムは生徒を狙うそぶりは見せなかった。それに派手すぎる。これは何かの始まりに過ぎないのではないか、という嫌な予感が、ショウの胸を黒雲のように覆った。


 *


 その少し前。

 中庭の轟音と共に、グイドの仕掛けた「騒ぎ」とやらが始まって、ショウは予定通り院長室にサラ一人を残して飛び出して行った。

「鍵を探さなくちゃ・・・」

 あらかじめ予想していたよりも、規模の大きそうな「騒ぎ」の様子(特に人的被害の有無)が気になるサラだったが、中庭に面した窓のない院長室にいてはそれを知る手立てもなく、自身に与えられた任務を果たすべく、彼女は応接スペースを立った。

 かつての司令室だった院長室は広く余裕のある作りだったが、今の使用者の性格を反映しているのだろう、大きな執務机と書棚、応接スペースを除けば家具らしい家具もなく、内装も至ってシンプルだった。

 鍵があるとすれば、執務机しかないわね。そう検討を付け、サラはあらかじめ用意していた手袋をはめると、執務机の引き出しを注意深く開け始めた。

 まずは左袖、上から順に調べていく。筆記用具に、几帳面に日付順にファイリングされた手紙、書類・・・。鍵らしきものは見つからない。

 次は右袖。上段の引き出しには鍵がかけられている。ここかもしれない。でも、この鍵を見つけなくては・・・。

 中庭からは断続的にショウ達の声と、何か大きなモノが暴れていると思わしき地響きが聞こえてくる。グイドは一体、何を仕掛けたの・・・?

 いけない、早くしないとショウが戻ってくる。サラは焦り始める。手袋の中が汗で湿る。

 私がショウなら、執務机の鍵をどこに隠す?サラは、これまでの事件捜査で培った感覚を研ぎ澄ます。書棚の本の中?誰かが本を取ったときに偶然発見されるかもしれない。執務机のどこか、普段は誰も触れないような場所・・・。

 サラは、左袖の引き出しを再度開け、今度は引き出しの中ではなく、天板を探り始めた。

「あった!」

 上段の天板に、小さな鍵が貼り付けられている。大きさからして、求めているトンネルの鍵ではなく、執務机のものだろう。

 予想通り、その鍵は右袖上段の鍵穴にピタリとおさまった。かちりと音を立てて鍵が開く。

 中を開けてみると、そこには探していた鍵はなく、しかし一枚の紙切れだけが入っていた。古く、ぼろぼろになっていて、何度も修繕した跡がある。

「絵・・・?それにしては、随分精巧な・・・」

 そこには、今より少しだけ若いショウと、同年輩の髪の長い美しい女性、そして彼の腕に抱かれる、ショウによく似た目をした幼い男の子が描かれていた。皆一様に笑顔で、いかにも幸福そうな家族のワンシーンだ。

 しかし、まるで風景をそのまま切り抜いてきたような・・・異界の技術?彼がこちらに来る前の、家族、かしら・・・?いけない、早く鍵を探さなくては。

 サラは手にした紙切れを注意深くもとに戻す。ここにないはずがない、サラは開けた引き出しを注意深く観察する。そして違和感に気付く。引き出しの底が、浅すぎる。

 よく見ると、底板の最奥に小さな突起がある。サラは、その突起をつまみ、底板を持ち上げた。

 果たしてその下には、銀色に鈍く光る鍵があった。これに違いない。サラは急いで鞄からグイドに渡された魔道具を取り出し、その鍵を上段に収めて蓋をした。

 小箱が淡く光り、そして消えた。複製が終わったということだろう。サラは蓋を開ける。下段には、上段の鍵と色、形、そして重量までも寸分違わぬ複製が出来上がっていた。サラは思わず安堵の吐息をついた。

 と、中庭が静かになった。グイドの仕掛けた「騒ぎ」が収まったようだ。急がなくては。

 二重底の引き出しの下にオリジナルの鍵を戻し、鍵を掛けて左袖の天板に机の鍵を元どおり貼り付ける。今の状況を見咎められれば申し開きはできない。ともすれば震えそうになる手をどうにか抑えつつ、サラは冷静に作業を進めた。

 サラが一連の作業を終え、応接スペースに腰かけるのと、ショウが戻ってくるのはほぼ同時だった。ギリギリのタイミングだったようだ。

「失礼しました、サラ検事」

「一体どうしたのですか?すごい音がしましたけれど・・・」

「襲撃ですよ。一体誰が企んだのか、塀の外からストーンゴーレムをこの中に撃ち込む、という荒っぽいやり方でしたが・・・。それも、まるでサラ検事の来訪を待っていたかのようなタイミングで」

 ショウが持っていった木刀を壁掛けに戻しながら、鋭い視線をサラに向ける。

「まさか、私を疑ってらっしゃる?心外です」

 サラは本気で怒ったふりをしてそう応じた。

「いえ、失礼。突発的な事態が重なると、そこに関連があるのではないかと勘繰ってしまうのです。悪い癖ですね」

 そう言ってショウは頭を下げた。

「まあ、お気持ちはわからないでもないです。きっと後処理もあるでしょうし、検事長の要望はお伝えしましたので、私はこれで失礼させていただきます」

「ご配慮いただきありがとうございます。時間があれば、この中を案内させていただこうと思っていたのですが。お茶も出す暇もありませんでした」

「今度また、機会があればゆっくり見学させていただきますわ」

 そう、機会があれば、ね。そう心中に呟くと、サラは複製した鍵の入った鞄を手に院長室を退室した。

 これが上手く行けば、あなたも、あなたの少年院も、おしまいだから。

 少年院を出て、グイドとの待ち合わせ場所に向かう道中のサラの心中に、しかし達成感はかけらもなかった。むしろ、自分が憎み、撲滅すると誓った犯罪行為に加担した、それも冷静に事をやり遂げたという事実が、じわじわと心を蝕んでいくのをサラは感じた。

 これで良かったの・・・?サラは自問自答する。

 自身が信じてきたものが、曇り一つなく輝かしいものと思ってきた何かが、地に堕ち、薄汚れてしまった、というイメージが、サラの脳裏を離れなかった。

 でも、もう戻れない。


 *

 

 待ち合わせ場所は先日と同じ高級レストランだった。

 先日と全く同じ席に通されると、グイドはすでに席に着いて待っていた。

「そのご様子ですと、首尾良く事は運んだようですな」

「そうね」

 サラは鞄から複製の小箱を取り出し、中から鍵を出してテーブルに置く。

「素晴らしい」

 グイドは満面の笑みで、鍵を灯りにかざして確かめると、そそくさと懐にしまう。

「これであの子を取り戻せます。ようやく、この日が・・・!」

「ずいぶん嬉しそうね。エリスがあそこに送られてからまだ1年も経っていないでしょうに」

「・・・1年も?245日です。245日も、経っているのです!あの子がいなくなってから、245日も!面会に行ってもあの子には会わせてもくれず、私は、私は・・・!」

 突然感情を昂らせ、体を震わせるグイドに、サラは驚く。父親の愛とは、そこまで深いものなのか。しかしそれにしても、これは少し、常軌を逸しているのでは。

「貴女にはわからないでしょうね、サラ検事。幼い日に両親を悪漢に殺され、以来犯罪者への復讐のみを生きがいにしている貴女には、肉親に会えない辛さなど」

「・・・!」

 サラの表情が変わる。なぜこの男が、そのことを知っているのだ。

「これは失礼。いえ、ビジネスパートナーとなる方のことですからね。少々調べさせていただいただけのことです」

 そう言って口の端を吊り上げて笑うグイドは、冷静なグイドに戻っていた。この男は危険だ。気を許してはならない、とサラは改めて自戒した。

「いかがでしたか、私のプレゼントは。奴らも随分驚いていたのでは?」

「・・・ストーンゴーレムを送りつけるなんて、聞いていなかったわ」

「貴女も尋ねませんでしたから。あれも結構値が張ったんですよ。ゴーレムのコアとなる魔石の値段、一ついくらかご存知ですか?」

「知りたくもないわ。用が済んだのなら、私はこれで失礼させてもらうけど」

「おや、今日の食事はご一緒してくれないのですね。残念です」

 ちっとも残念そうに聞こえない、感情のこもらないその言葉を聞き流し、サラは鞄を持ち直して立ち去ろうとした。ショウ達の活躍で怪我人こそ出なかったようだが、魔物を子ども達の住まいに撃ち込むなど、常軌を逸している。この男と一度でも食事を共にしてしまった事実を、サラは激しく後悔していた。

「ちょっと待ってください。今回貴女には素晴らしい働きをしていただいた。是非そのお礼をさせてください」

 そう言うと、グイドはテーブルの下に置いてあった包みをテーブルの上に置いた。

 どうやら、札束が入っているらしい。それも、多額だ。

「・・・私はお金のために貴方に協力したわけじゃない。私の正義のために協力したのよ。そんなものは必要ない」

 そう行って、サラは踵を返し、グイドの粘つくような視線を振り切り、足早に店を出た。

 正義、私は今、正義と言った?

 サラは、反射的に口に出していたその言葉が、自らが信じ、己を律してきたはずのそれが、今となっては、驚くほど空虚に響いた事実に、慄然としていた。


 *


 その日の清心寮の夕食時は、突然現れたストーンゴーレムと、それを見事な連携で退治したショウ達の話でもちきりだった。いつもは一人で黙々と食事をするライルも、初めて見た魔物退治に興奮し、珍しく話の輪に加わっていた。

「サルマンの一撃、凄かったよな。素手であのでかい岩を砕けるなんて」

「あれは地の魔力を込めてたんだよ。でもサルマンも魔術を使えるなんて知らなかったな」

「ミオ先生も普段ふわふわしてるくせに、やる時はやるよなー」

「でもやっぱりショウ先生の最後のあれだよ、木刀でゴーレムを一刀両断!ハンパねー」

 そんな子供達を面白くなさそうに見ている男が一人。レンだ。

「こらー。食べながら話すんじゃないよー。それに僕も戦ってたのに、さっきから僕の名前が出てこないのはどういうことだー」

「いや、レン先生は飛び回ってただけじゃん」

「・・・君たちもそれを言うのか。ストーンゴーレムは風に対する耐性があって僕の魔法とは相性が悪いの!だから補助に回ってたの!飛び回ってただけって、飛行の魔術は高度で消耗も激しいんだぞ!」

「はいはい。大変だったねー」

 ライルの言葉に、ぐぐぐ、と拳を握りしめるレン。

「まあまあ、レン先生が一番危険な囮役を務めることで、ショウ先生の一撃を作るチャンスが生まれたんだし。先生方のコンビネーションの勝利だよね」

 キズナのフォローに、レンの表情がぱぁっと晴れる。

「そう、そういうこと!さすがキズナ、よく全体を見ているなあー」

 うんうん、とうなずき、満面の笑みを浮かべるレン。

「で、でもレン先生。ど、どうして僕らの少年院に、あ、あんな魔物が」

 アルが不安そうに尋ねる。その言葉に、子供達がレンの方を見る。安全だと思っていた場所に突如現れた魔物。彼らは少なからず不安に思っているのだ。

「・・・そうだね。それは今ショウ先生が調べてくれている。一体誰が、何のためにあんなことをしたのか。でも、みんなは大丈夫。今日みたいに僕たちが守るからね。安心して生活してくれ」

 レンは笑顔でそう答えた。アルがホッとした表情を浮かべる。

 しかし、今日みたいに先生達に任せっきりでいいのか。今日はゴーレムが一体だけだったから、先生たち4人でなんとかなったけど、もっとたくさんの敵が来たらどうするんだろう。

 その時は、俺も闘えばいいんじゃないか。

 ライルは、ふとそう思った。俺の力、今まで自分のためにしか使ってこなかったこの破壊の力を、誰かを守るために振るう、そういうこともできるんじゃないか・・・?

 ライルは自分の両の手を見る。今日の襲撃は、何かの前触れのようにしか思えなかった。俺の力を使う時は、遠くない。そんな予感がライルにはあった。

 そしてそれは、すぐに現実になる。

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