第70話 演技と駆け引き
ダークネスシャークと過ごした時間について、大学の同輩に根掘り葉掘り聞かれようとしている平和。
答える義理はないのだから誤魔化して逃げればいい。
敢えてその選択肢を手に取らないのは、この出来事が彼にとって、誰かに聞いて欲しいと思うほどに強く印象に残っているからだろう。
「さてさて、どう説明したもんかなぁ…」
ーーーーーーーー
ピースフルはユニバースをログアウトして、ロビーサーバーへと移行する。
ロビーサーバーは端末機器で言うところのホーム画面である。その意味ではユニバースは知名度の差はあれど多数あるアプリケーションの一個に過ぎない。
ユニバースに打ち込んでいるプレイヤーのほとんどはログアウト選択時の行き先を現実世界に設定しているため、ユニバースから出る際にはロビーサーバーを経由せずに現実世界で肉体が目覚めるが、一方で、別のゲームでのフレンドとやり取りがあるプレイヤーや、ブレインゲームズ社からのお知らせを確認する人物などは毎度ロビーを経由している。
ピースフルこと「
もっとも、プロゲーマーとしての道が開かれている彼はロビーサーバーで連絡を確認しなければならない立場であるため、額面通りの几帳面というわけでもないのだが。
「よし、まずはルーム作成からだな」
ピースフルはアバターを操作してゲームルーム作成のエリアへと向かう。
ピースフルのアバターは菱形を立体にした八面体であり、つるりとした表面には手足どころか模様も何もない。
と言っても、これは彼に限った話ではなく、ブレインゲームズ社の用意したパブリックエリアにおいては全ての人が同じ姿をしている。ロビーサーバーでは表層から読み取れる個人情報を完全に遮断しているためだ。
ゆえに個人情報は、本人の言動によってのみ開示できる仕組みであり、生体情報とアカウントが紐づいている以上、もちろんなりすましは不可能である。
「ゲーム用の個人ルームを作成…ルーム名は“ピースフル”でいいよな? 目的はチェスに…。
おー! しばらく見ないうちにチェスの種類も増えたんだなぁ。シャークが興味持ったらやってみっか」
ルーム情報に記載するチェスの種類を選ぶ際にオーソドックスなものに加え、「透明チェス」「ランダム配置チェス」「将棋vsチェス」などの一風変わったもの、「デンジャラスリバーチェス」「無人島チェス」「百人一首チェス」など名前からルールが想像できないものまである。
ルーム設定を完了したことでキラキラと景色が切り替わり、中央にチェス台が置かれた小部屋に変化する。
ピースフルを中心に世界が再構成されるような見た目だが、実際のところはしっかりと専用のルームに転移している。
シームレスに景色が切り替わるのは、ロビーサーバーを運営するブレインゲームズの技術と容量がそれだけ高度な仕組みで設計されているということだ。
「どんなチェスが増えたんかな? …っと、それより先に入室制限を一応かけないとだな」
チェス台を調べようとした所で思いとどまり、設定を変更する。
ピースフルは界隈ではそれなりに有名人であるため、こんな時間でもルームの主催者がピースフルであるという理由だけで部屋に入ろうとする人物がいないとも限らない。
とりあえず入室できるプレイヤーの制限を『ユニバースで100時間以上交流がある人物』にしておく。究極英雄であれば確実に入れるだろう。
「まあ、この条件だとプロミネンスや雲ちゃんが野次馬に来る可能性もあるけど、それはそれで気が楽かもしれないよな」
無意識にピースフルは“気が楽”という言葉を使った。
彼は多少鈍感であっても馬鹿ではない。
自分に対してダークネスシャークがどのような想いを抱いているのかをわかっているつもりだ。
その上で、今まで2人っきりで何かをしたいと言ったことはなかった彼女が、ユニバースの外で2人で遊びたいと勇気を出してきた。
であれば、どのような展開につながるかは予想がつく。
「俺もどうするべきか、そろそろ決めとくべきだろうなぁ…」
幸い…というわけではないが、ピースフルには交際中の女性はいない。
そして自分に好意を抱いてくれる相手を嫌いになるような特殊な嗜好はしていない。
状況だけ見れば進んだ関係を持ってもいいはずである。
親友にも彼女ができたことだし、自分も後に続けばいい。とはいえ、今まで自分の方から距離を詰めなかったのも事実だ。
「まずいな、意識すると緊張してきた…」
彼が仲間達の乱入を“気が楽”と感じたのはこの点に集約する。
ピースフルは広く浅い交友関係を築くことに長けているが、深い関係を個人と構築することが非常に苦手なのである。
ユニバースでは社交性があって広い交友関係を持つ
気まずくなったら本当に誰か召喚してうやむやにするべきかもしれない。
…と、そんなことを考えだした途端。
[参加者が1名、追加されました。]
無味乾燥としたメッセージが表示される。
ロビーサーバーは個人情報を明かさないシステムであるため“誰が”とは表示されないのだ。
「うおっと」
入り口に視点を変えると自分と同じ菱形のアバターが来訪している。
来訪したアバターもピースフルの存在に気づいたのだろう、音もなく地面を滑りピースフルの正面に至る。
今のピースフルには顔が付いている訳ではない。正面と言っても相手が偶然、自分の前に立ったに過ぎないはずである。
なのに、どうにも目が合ったような気がする。
「………。」
「………。」
不思議な沈黙にピースフルは背中に汗をかいたような思いをする。
アバターには手足の感覚もなく、ドローンを操作して外を見ているような状態なので、そんなことはありえないし、感情を表現できるのは声がせいぜいだ。
それでも、まじまじと観察されるような圧力を感じてしまう。
「ああ、あの!」
来訪者のアバターは、突如電源が入ったかのように声を発する。
「ピッ……ピ(↑)ースフルさんですかっ!?」
女性の声だが、ダークネスシャークが普段話す時よりずっと細い…あるいは特徴的な高音が印象の声だった。
緊張しているのだろうか、イントネーションが狂っている。
ピースフルは彼女の挙動不審さに驚くも、話しかけられること自体は当然想定していた。
心構えをしていたこともあり普段通りの態度を保つ。
「おっおう。そういうアンタはダークネスシャークか?」
「はい! ようやくゲームの外で会えましたぁ〜。私、あなたに興味深々だったんです!」
「!?」
これは緊張しているのではない、テンションが異常に高いのだ。
そう気づいたピースフルはいきなりな言葉にたじろぐ。
そんなピースフルの動揺を知る由もなく(アバターに表情はないので当然だが)、ダークネスシャークらしき人物は喋り続ける。
「うふふ…この感動を歌にしたい気分…なーんて、歌うのはプロミネンスさんの専売特許ですよね。
それにしても、ああ、ようやくあなたに気兼ねなく話しかけられる…。
好きなゲームジャンルは?
好きな食べ物は? 犬と猫どっちが好き?
普段、どんなことに喜びを感じてます?
好きな映画は?
あなたのことを教えてくださいっ!」
てっきりゲーム内の態度の延長線……話しかけられないもどかしさを全開にしてくるのかと思いきや、ガンガンと詰め寄ってくる。
「ストップ、ストップ! こんなことを言うのはおかしいかもしれないが、あんたホントにダークネスシャークか?
あまりにも雰囲気が違いすぎるんだが」
こんな時間のこんなタイミングに偽物が現れるわけがないとわかっているのに、普段との落差があり過ぎて確認してしまう。
「ああそうでした。まずは自己紹介をしなきゃでしたね! 私は『皆里ヒナタ』。
あなたたちがダークネスシャークと呼んでいる女の正体です」
そう言ってネーム公開設定を操作をしたのだろう、菱形アバターの頭上に名前が表示される。
『⚫︎皆里ヒナタ』
その文字列とアイコンにピースフルは仰天して声を上げる。
「待った! ちょっと待ってくれ!」
ピースフルが驚いた理由は、彼女が本名を突然表示したから……というわけではない。
ここは遊びのためのルームであるために本名は表示できない。
ビジネス目的でロビーサーバーを使用する場合には秘匿された設定上で本名の公開が可能なのだが、ピースフルがそんな設定を入れるはずもないので彼女に表示されているのは間違いなくニックネームである。
それでも驚き慌てたのは名前の前に付いている「⚫︎(認証アイコン)」のせいだろう。
これはなりすましを防ぐ目的、すなわち有名人につけられるマークである。つまり。
「あんたは女優の…あの皆里ヒナタだって言うのかい? いや、認証アイコンが付いてる以上疑いようはないんだが…」
「アラ嬉しい! 私のことを知っているの?」
「知らないはずないだろうよ! 去年だかに“今年の顔”に選ばれてた1人だし、そうじゃなくてもゲーム好きなら絶対知ってる。だが、なんであんたが…」
「私みたいな女優が同じギルドにいるのかって?」
「いや、いやそうじゃない。誰でも遊べるゲームなんだから誰がユニバースのプレイヤーであってもおかしくない。おかしくないんだけどよ、その、なんていうかな………そうだ!
あんたが女優であること以前に、あまりに別人すぎるんだ」
ピースフルはしどろもどろになりつつも答えを導く。
驚きに驚きを重ねられて思考を乱されていたが、このやり取りの本質は『ここにいる人物がダークネスシャークの人物像と一致しないことの説明として、彼女の正体が皆里ヒナタだからという理由は因果関係をもたないこと』にあるのだ。
「わぁお、本質をちゃんと見抜くなんて、ますます興味が湧いちゃいますね」
その答えに対してヒナタは品定めしているかのような、底知れない声を返す。
目の前にいるのは菱形のアバターそれだけ。
なのに声だけで身震いするようなゾッとする反応だった。
ピースフルの記憶では、この女優は年齢は数個上でそう変わらない。それでここまでの凄みがあるのかと圧倒される。
それでも実力でもってプロゲーマーを志した者の矜持がピースフルを受け身なまま終わらせることを許可しない。
「こっちの質問に答えてくれ。ダークネスシャークとあんたでこんなにも態度が違うのはなんでだ? 本当の本当にダークネスシャーク本人なのか?」
「ええ。ええ。それは当然、本人ですよ。
ダークネスシャークはあくまでも私が再現した…いいえ、ダークネスシャーク・メタルスコーピオンという女の子の設定を完璧に演技したものなのですから」
ピースフルのアバターは動いていないが、普段であれば首を傾げていただろう。
「完璧に演技…?」
「ダークネスシャーク・メタルスコーピオン。15才。親に逆らわない利口で器用な生き方をできる反面、刺激のない日々に対して味気なさを感じていてユニバースを始める。
大抵のことはソツなくこなせるからユニバースもゲーム進行は簡単にできる反面、身分を守られた“子供”が山ほどの他人との交流の波に晒されて
短い人生しか生きていない割に世界を知った気になっている子供が、少し年上の強烈なカリスマに出会えば、それを恋だと勘違いしてしまうでしょう。
彼女の設定はこんな感じですが……実際あなたの目にはそのとおりに映っていたんじゃないですか? どうでしょう?」
「うぐ…」
言われてみれば彼女の語った人物はピースフルがダークネスシャークに抱いている人物像に非常に近く、当てはまる部分が多い。
納得する他ないが感情がついていかないピースフルに対して、ヒナタは態度を急変させる。
「…突然でゴメン…。私のこと、軽蔑する?」
「なっ!」
声の抑揚とイントネーション、喋り口がダークネスシャークそのものであった。
そのリアルさにピースフルは思わず憔悴した彼女の姿を幻視して、頭から振り払うが、この人物が彼女の正体だと理解してしまった。
「今ので伝わりましたよね? 私がダークネスシャーク本人です。
それでもきっと“なんでダークネスシャークになりきってユニバースにいたのか”については疑問のままですよね?
まぁ、とても個人的な理由なんですが、こうやってあなたを巻き込んだ以上はちゃんとお話ししますよ。
でも、ここに来た理由、果たしたいですよね? というわけでお話しはチェスをしながらにしましょう!」
矢継ぎ早に捲し立てられて、気づけばヒナタの意向でチェスの開始カウントダウンが始まっていた。
「わかった。とりあえず約束通り対戦と行こうや」
チェス盤を挟んで菱形のアバターが向かい合う。
アバターにはコマを動かすための手がないが、そこはブレインゲームと呼ぶだけあって意思決定をするだけで自在にコマを動かせる。
「じゃあ、聞かせてくれ」
やるべきことが目の前にあるというのはありがたいもので、先手のピースフルは冷静さを取り戻しつつポーンを前に動かす。
相手はほんの少し間をおいてから初手でナイトを前に出す。
ナイトが出てきた意図を探ろうと考えるが、最序盤ではまだ何かを読み取るのは難しい。
「オーディションに落ちちゃったんですよ。恋する女の子の役の」
「うん?」
相手の突然の言葉。
その意味がわからずピースフルは一瞬だけ呆けた反応をするが、すぐに彼女がダークネスシャークとなった理由を話し始めたのだと理解する。
「ああ…なんでもない。続けてくれ」
音声同士がぶつかって、一度話を中断したが、ヒナタに続きをうながす。
話を聞きたいという思いが強かったのに、いざゲームが始まってしまえばゲームに完全に集中してしまう。
そんな自分の性分をおかしく思うと同時に、ピースフルは平常心を取り戻したことを自覚したのだった。
「ホラ、私ってこんなんじゃないですか? だから引っ込み思案な女の子が恋に落ちる気持ちとか全然わかんなくて、それなら女優としての演技の幅を広げるために実際に空想上の人物になりきったらいいんじゃないかなって思ったんですよね。
そしたら大当たり! すっかり恋する女の子の気持ちを設定に落とし込むこともできましたし、みんなダークネスシャークがそういうコだって信じ込んでくれるようにもなりました。
いやー…それでも最初は大変でした。
無口でコミュニケーションが下手なキャラでどうやって意思疎通をするのかとか、人前に出なくて済むような位置付けの人物をゼロから作り上げたりするのは全部手探りでしたから。
人に話しかけるのを躊躇したりとか、赤の他人に強く入れ込んじゃったりとか、ロマンのある武器を効率度外視で使っちゃうのとか、今も全然理解できないですけど、そういう人に見せかけることは完璧にできたんじゃないでしょうか?」
1人でペラペラと喋るが、明らかにダークネスシャークの人格を下に見るような、そんな発言も混じってくる。
仲間を貶されれば腹を立てるのが直情的なピースフルだが、なぜかヒナタの言葉に反論することはなく言うに任せている。
ピースフルは明け方の泉のように凪いでいた。
その理由の一つは“チェスに集中しているから”であり、コマは途切れることなく交互に動いている。とはいえヒナタの言葉を聞いていないわけではない。
「二重生活って呼ぶんですかね? こんなにもお喋りな自分を隠してユニバースで内向的な人物の演技をするでのは結構大変で……」
そしてピースフルの心が静かであるもう一つの理由───。
「それは嘘なんじゃないか?」
───ピースフルが違和感に気づいたからである。
「えっ?」
それまで澱みなく語られていたヒナタの“セリフ”がピタリと止まる。
途切れた言葉に連動するかのようにチェスのコマも動きを止める。
そのまま動き出す気配がなく、ヒナタが電源を落としたように反応しない時間が訪れる。
「………。」
盤面に目を向けてみれば形勢は一目瞭然で、ヒナタが圧倒的に劣勢である。
ピースフルのゲーマーとしてのスイッチが入ったと考えることもできるのだろうが、真の原因はピースフルにはない。
格闘家が拳を交えることで相手の気持ちがわかってしまうように、ピースフルのゲーマーとしてのセンスが対戦相手の状態を悟った。
言葉にするなら“勘”と呼ぶ以外に何もない直感だったのだが、それでも確信に近い思いがあった。それは。
『今のヒナタには余裕が一切ない』ということである。
ヒナタのコマの動きに集中が感じられず、いっぱいいっぱいになっているようにしか見えないのだ。
彼はこの直感を天啓のように信じているが、これが真実なら現状と矛盾している。
彼女の本性が今のペラペラ喋る物怖じしない姿であると言うなら、コマが緊張した動きを見せているのは何故なのか?
論理的な思考とはかけ離れているが、直感と読みが一つの答えを導き出す。
「あんたは今、演技してるんじゃないか?」
「っ!」
反応は劇的で、息を呑むような声がする。
「や、やだなぁ…何を言ってるんですかぁ。
それじゃこの明るい私が演技ってことは…ダークネスシャークが私の素顔って言ってるみたいじゃないですか…あんなコミュ力が雑魚雑魚の引っ込み思案で誰にも好かれないタイプが私の本質なだなんて考えているんですか?」
読み込みを中断していた動画が急に再生されるようにヒナタは突然喋り出す。
「みんなに好かれるスーパー女優としての演技を続けるうちに、現実とのギャップで生活に疲れてしまったとでも!?
それで、本来の自分でいられる逃げ場としてユニバースを選んだって言いたいんですか?
ただただ素直な自分でいられるユニバースで元々の私を受け入れてくれて、優しくしてくれる貴方が気になったけど結局怖くなって世間受けがいい方の自分を見せれば好きになってもらえるって思っただなんて、そんな…、そんな情けないこと、私にあるわけないでしょう?!」
徐々に感情が抑えきれなくなってしまい、早口で捲し立てる。
これが演技だとするなら大した役者であるが、言っている内容が内容である。
ほとんど墓穴を掘っているに近い。
「えっと、そういうことなのか?」
「えっ?」
ピースフルは直感によって察したのは『彼女が活発な自分を演じていて、そちらに集中しているためにチェスの操作が疎かになっている』ということだけである。
「俺はてっきり、あんたは元気なフリをしてるだけなもんだと……。
これから魔王城に行くんだし、俺の前で空元気を出してんなら肩の力を抜いたらどうだ…?って話をするつもりでいたんだけど、結構深刻な話で驚いたな……その……聞かなかったことにした方がいいか?」
「あ、あ…」
ヒナタのアバターがワナワナと小刻みに震える。
今になって勢い任せに何を口走ったのかを自覚し始めたのだろう。
彼女にとってこの場所が、完璧な演技を見せるための“
現実におけるコンプレックスである本性を曝け出してしまったどころか、ピースフルに対する好意も言ってしまったような気がする。
「あ、あの、あのね…ええと…」
自分の発言に追いかけられてビクビクと言葉がつっかえてしまい声が出なくなる。
「その…」
ここで、もし彼女が本性であるダークネスシャークのままだったなら、この状況に耐えきれず逃げるように無言でログアウトを選択しただろう。
しかし、ヒナタとしての演技を振る舞ったことで中途半端ながらも言葉に勇気をこめる“フリ”ぐらいをする気力が残っていた。
「あと一回っ! 一回だけ話す機会が欲しい…です。会ってから演技したり嘘ついたり、怪しいと思われるかもしれないけど、お願い。自己紹介をやり直させて?」
気が強いのか弱いのか浮き沈みの上下が激しい態度で希望を述べるヒナタ。
初対面のやり直しとは不思議な願いであり、人によっては不信感を覚える提案であるが、ピースフルは了承する。
「OK。いつにするかはまた話し合おうぜ。でもってそん時は無理して飾った態度は取ってくれるなよな? 俺は気遣いはそんなに上手じゃない自覚があるんだからよ」
彼が寛容な人間であること、細かいことはあまり気にしない性質であることが幸いした。
なにより、一度変な態度を取られたからといってこれまでダークネスシャークとして共に過ごしてきた時間と信頼がなくなるわけではないと理解しているからだろう。
「…っと、ヤベェ15分経っちまった! 遅刻だ! 片付けるぞ!」
「えっ? はいっ……いや、うん! 急ごう!」
あと3手あればチェックメイトまで進んだであろうゲームを中断してゲームルームを閉じる。
そうして2人はユニバースに接続したのだった。
ーーーーー
────ということを思い出す。
平和は興味深々といった顔で自分を見つめる3つの同級生の顔を見回す。
どう語ればいいのだろうか。
ダークネスシャークが実は有名女優で、自分に好かれようと演技したけど無理があって、本性を自爆してしまって、それを許した。
自分も彼女との関係性を進めることは望んでいる。で、もう一度会う約束をした…?
これをダークネスシャークの個人的な情報を漏らさないように語るのは骨が折れるだろう。
つまり。
「……………………何にもなかった」
砂漠の熱気に耐える爬虫類のような顔をしながら平和はそう断言した。
直後に同輩たちから不満と怒号が飛んだが彼は沈黙を貫くのだった。
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