第69話 夜が明ける前に踏み出して

「うぇーす…」

「おお、きたきた……」

ある日の学食。

無流、平和、優華、優希の4人がいつも通り学食の常連のテーブルに集まっている。

いつも通りの昼食だったのだが、普段と少し違うのは平和がこの集まりに遅刻してきたことだろうか。

この集まりというより、大学そのものに遅刻してきた。

平和は進路以前にしっかりと卒業することを大前提としているため遅刻は珍しい。

しかしながら時間は正午。

無流の記憶している中で午前中の講義を全部休むほどの大遅刻を平和がしたことはなかった。

その遅刻した当人は精魂尽き果てたような顔をしている。

「一体どうしたんだ? 午後の講義はレポート提出だから出ないと単位取れないし、そろそろ電話かけようかと思ってたんだ」

「まさにそれよ」

「うん?」

「さっきのさっきまでレポート書いてましたわ」

平和はやり切った!という顔をしているが褒められたことではないだろう。

「いやいや、野島君よ。あの講義のレポートにこんなに時間をかけるなんて、もっと早くに僕を頼ってくれてもよかったんだよ?」

と言うのは優希である。

所属する学科の関係上、畑姉弟は去年に同じ内容を履修しているし優希は成績もいい。

「それには及びませんわぁ。なんてったって手をつけ始めたのが今朝ですからなぁ」

「今朝ぁ!?」

無流は理解できないという声を上げる。

つまり平和は午前の講義の時間をまるまるレポート作成に充てていて、それまで別のことをしていたということだ。

「そんなになるまで一体何に時間を……あ! まさか…」

根が真面目な平和が宿題を後回しにするほどの事情はそう多くない。

無流は平和が朝方までユニバースにいたことを察する。

おそらく自分の預かり知らないところでユニバースの状況が動いたと予想をつけるが、無流より先に優希が口を開く。

「何か面白いものでも見つけて徹夜したのかい? ダメだよ、学生としての自覚をしっかり持たないと卒業できないよ」

優希は無流ほど平和の性格を把握していないため、遅刻理由に心当たりがなかった。

そんな優希の言葉に平和は「ニィ」と得意面を浮かべると、少し声を落として優希に答えを返す。

「いやはや、たしかに普通じゃ味わえない経験をしましたわ。……ところで、お城の玄関に『ユニバース富士』の絵を飾ったのは畑くんだろ? ちょっと内装と合ってないと思うぜ?」

「いやアレは、あまねくさんが飾ったんだよ。流石の僕も………ん?」

優希は一瞬何を言われたか理解できない顔を浮かべる。

だが、すぐに言葉の意味を理解する。

「いや、あの絵は取材の時に見えない位置に移動したはず……そんなまさか……君は!」

「へへっ」

平和の遅刻の理由をとがめる状況にいたはずの優希は、今や愕然とした顔で平和を見上げている。

平和はその顔を満足げに眺める。

「先程ワタクシ魔王城に到達しちゃいました」

「嘘だろ…?」

「へっへっへ。せっかくだし“究極英雄”の大活躍を聞かせてあげるとしますか……」


ーーーー


───少し時間は遡り、ギルド「究極英雄」アジト。


時刻は深夜を過ぎて日が昇るまで1時間弱といったところ。

普段こんな時間までログインしていることのないギルドだが、ヤクトの呼びかけによって全員が顔を見せている。

ノ・ヴァが抜けた今、全員と言っても5人だが。


「ヤクト氏のことは信用してるが、そんなにうまくいくもんかね?」

ピースフルはヤクトが打ち出した作戦『明け方に魔王城襲撃』に懐疑的な態度をあらわす。

というのも“究極英雄”も中身は一般的なプレイヤーである。

今までも新しいことに挑戦した時には失敗を重ねて経験を積んできた。

トライ&エラーを繰り返すのは他プレイヤーと一緒で、それを経験値として活かすセンスや再起を図るまでのサイクルが非常に優れているに過ぎない。

そんな究極英雄の頭脳であるヤクトが「今回はたった一度、最初の一回で作戦で完全に成功させる」と言ったのだ。

普段と異なる攻略スタイルにピースフルが不安を持つのも頷けるというものだろう。


ピースフルの疑問にヤクトは余裕を持った態度でなだめるように話す。

「そのお気持ちは分かりますが、今回は準備に多くの時間を割きました。

ですのでこの一回に“賭けた”のではなく、一回で確実に成功する状況が整うまで“待った”のですよ」

「その確実な状況とやらについては俺どころか誰にも明かしてくれなかったのも作戦なんですかねぇ? 言ってくれれば手伝えるってもんでしょうに」

そうピースフルが不満を表す。

実のところ、四天王ダンジョンが公開されてから今に至るまで、ギルド“究極英雄”は表立った活動を大幅に控え、ひたすら水面下でのレベル上げと、徹底した情報収集のみに集中していたのだ。

その上でレベルを150まで上げたために外からは活動していないように見えてしまい、「魔王討伐を諦めたのではないか」という噂が流れるほどであった。

その噂を背負ってまで情報収集に撤した甲斐あって、彼らは四天王ダンジョンの全容を正確に把握している。

この作戦を決行する直前になって、ヤクトが冬雪のダンジョンで挑戦権をきた。

ゆえに現時点に限って言えば、究極英雄が挑戦権を獲得したことを知っている者は誰もいないだろう。


「今回は完全な情報封鎖を目指しました。

我々のことを敵だと思っている連中は魔王軍に限りませんし、そういう人の耳はどこにあるかわからないものです。

…我がギルドは最上位と雄名を馳せる割に、聞かれたことを正直に答えるお人良しの方がいますからね」

ヤクトはピースフルと雲ちゃんとを交互に見る。

2人とも嘘はつけない性格だし、大きなイベント攻略の前には口に出さずともウキウキしている事が多く、見る人が見れば察せる情報は多いのが現状だ。

「…あー、なんだ、否定はしませんとも」

ヤクトの本音を訊ねれば原因は自分にあったと言われ、ピースフルは気まずそうに目を泳がせる。

一方で桃色のローブの女性は照れ照れと頬をかく。

「えへへ、褒めてもらっちゃった、ねぇ?」

「いや、雲ちゃん。何にも褒められてないんよ」

すかさずピースフルはツッコミを入れる。

この緩さは彼女の美点であるが、今回の作戦において最大の障害として排除された要因でもある。

「そうなんだねぇ。やっくんも、大変だねぇ」

「そうだな…まぁいいか」

ヤクトが攻略の為に無言で仲間を使い、それを他人事のように済ませる。

このチグハグさと奇妙な精神性も究極英雄がトップを走る理由の一つと言えるだろう。


「コホン。それで今回の作戦ですが」

ヤクトは咳払いで弛緩した空気を修正する。

「私が得た情報によると、もうすぐギルド“山崩し”が魔王城へと侵攻を開始する事が判明しており、これに乗じて中級ギルドの集まりも攻勢をかけるようです。

我々はさらにその後に突入して、美味しいところをいただく予定です」

ちなみに中級ギルドではなく中堅ギルドなのだが、ヤクトにとっては有象無象の一つである。

ピースフルは腕を組む。

「ま、ヤクト氏がそう決めたんなら従うけど、山崩しといえば、あの警戒心の強いシモンズ氏だぜ? 狙い通りに事が進みますかね?」

「ふふふ…そのために状況を用意したんです。

先日山崩しが魔道通信機テルフォンを大量に買い占めたという情報を掴みました」

「え…まさか通信機を買ったから魔王城を攻略すると読んで動いたってことですかい? それは計算が浅いんじゃね?」

「誰もそんなことは言ってませんよ。彼らが通信機を使用している相手はです」

「うん!?」

通信機はもちろん通話するアイテムである。

さすがにヤクトが敵と密通する状況は考えられないのだが、言葉の意味が掴めない。

「ホラ、今も通話をかけようとしています」

ヤクトがメニューを表示させると、通話を受信した旨のメッセージが一瞬表示されて消える。

これは認可していない相手からの着信で、ゲーム設定で他人からの通話を「誰でもOK」にしない限り、ヤクトのように一瞬だけ表示されて通信が解除されるものだ。

ログには残るので、通話を希望するなら受信した側が通信を許可するのがゲーム内の基本的な流れである。

「確か今名前が表示されてた人、山崩しのサブリーダーじゃなかったか? …なんでヤクト氏に電話をかけてんだ?」

「私がログイン中か確かめてるんですよ。

魔道通信機テルフォンは1度使うと1時間以内なら何度でも掛け直せますし、私がログインしてない場合は電話がそもそもかからないで不発になりますからね。

そうやって私のログイン状態を確認して、我々がこの時間までログインしている理由を探っているのでしょう。

我々が挑戦権を得たという情報は出回ってないはずですが、こんな時間までログインしているのは魔王城が目的と考えることもできます。

であるならば、向こうは我々に便乗されないように日を改める心づもりなのでしょう。この臆病なほどの慎重さ…いかにもリック・シモンズ氏らしいですね」

「なるほどな。すると俺らはこの後…」

「ええ。もちろんログアウトして彼らを騙す予定です。

我々がこの時間までログインしていたのはただの会議であったのだとアピールしましょう。

そして彼ら山崩し、そのあとの中級部隊が乱戦を極めた頃に大手を振って乱入…と言うのが今回の作戦の骨格となります」

ヤクトがようやく作戦の全容を明かせたことに少なくない安堵を見せる。

「…んじゃあログアウトすりゃあいいんですかね?」

「はい、15分ほどしたら戻ってきてください。お三方もそれでいいですか?」

ヤクトは会話にほとんど混ざらなかった雲ちゃん、ダークネスシャーク、プロミネンスに尋ねる。

3人は今更遠慮するような丁寧な人物でもない為、作戦に特に文句がなかったから口を挟まなかっただけだろう。

「はぁい」

「ん」

「いいわ。このあとの詳しい流れを説明しないってことはアナタが臨機応変を最上としたんでしょ?」

「ご理解いただけて何より…ああ、ログアウトはしてもロビーからは落ちないことをおすすめします。ではお先に」

その言葉を残してヤクトの姿が消える。

アジトはセーフゾーンであってログアウトは瞬時に行えるのだが、ヤクトはゲームは終了してもブレインゲームとの意識接続リンク機は遮断しないように忠告していた。

短い時間でブレインゲームとの接続切断を繰り返すと睡眠障害などの弊害が出やすくなってしまうためだ。



「それじゃあ俺も…」

「あ、ま、まって」

ログアウトしようとするピースフルを、少し慌ててダークネスシャークが引き止める。

「うん? どうした?」

「その、チェ、チェスとかで遊ぶ時間あるんじゃない? せっかくの待ち時間だし? この時間ならできるから」

「………ううん?」

ピースフルは首を傾げ、ダークネスシャークはみるみるりんごのように顔を真っ赤に紅潮させていく。

この時、言葉足らずながらに彼女が勇気を振り絞って提案したのは、

『ログアウトした後に、ロビーサーバーで待機するだけでは時間が勿体無い。ユニバース以外のゲームで時間を潰してみてはどうか? 例えばチェスはブレインゲームに標準機能で備わっているし、この時間帯ならIDの交換を行わなくても、部屋を用意すれば一緒に遊べる』

という意図の内容だった。

説明が何もかも足りないが。

そして残念ながらピースフルには伝わらない。

返った答えは、

「これからログアウトするんだけど…?」

と、期待に添えないものである。

「……あぅ…」

ダークネスシャークはフードを目深く被り、逃げ出したくてログアウトメニューに触る。

ここ最近、彼女はピースフルをもう少し親しくなりたくてチャンスを窺っていたわけだが、声をかけるあと一歩が踏み出せなくて、もどかしかった。

そうして勇気を出したものの空回りの蛮勇。

もう一度言い直せば済む話だが、その勇気はもう湧いてこない。

心が枯れ草のようになってしまった。

頭の中では「よりにも、こんなところで勇気を出すくらいなら、一息ついてからにすればよかったのに…」とか「戦闘だったらハッキリ喋れるのに、どうして個人としてだと上手く話せないのかな…」などと後悔がグルグルと巡っている。ロビーで1人になったら少し泣くかも…なんて考えていた。

すっかり意気消沈してログアウトする刹那。


ガタンと飛び上がるように立ち上がる人物。

恋する乙女を見捨てられない女神が存在した!


ちょっぴり意地悪でオトナな救いの女神。

そう、プロミネンスが声を上げる。

「あらいいじゃない! じゃあ雲ちゃん、あたしたちロビーのジオサポートからイルミネーション観光にでも行きましょ!

こんな朝の時間帯に散歩する人はいないけど、アナタどうせロビーでも迷子になるし、1人で行ってもツマラナイでしょ?」

「それ、さんせい〜。うふふ、どこに、行こうかしらぁ」

キャッキャとじゃれ合いながら早々に2人揃ってログアウトする。


いきなり大声で次の予定を宣言したプロミネンスと雲ちゃん。

そんな2人を驚き眺めたピースフルとダークネスシャークだったが、言葉が妙に引っかかった。

強烈な印象のゆえにピースフルの頭の中でキーワード同士が繋がっていく。

『ロビー』と『ジオサポート』と『時間帯』そして『チェス』。

それらのワードからピースフルは先程言われた言葉の真意…すなわち答えを導き出す。

「じゃあよシャーク。ログアウトしたらロビーで立体チェスでもするか?

頭の体操してから魔王城に行った方が良い結果になりそうだしよ」

そう言ってダークネスシャークに顔を向ける。

もうアジトにはこの2人しかいないので、そのような動作は会話に不要だが、メニューを前にして『ログアウト』と『もしかしたら』の間で揺れていたダークネスシャークは大いに反応する。

「う…うんっ! えーと、ロビー、私そのっ、パスが…」

「ログアウトしたら俺がチェスのルームを立てとくから、ピースフルで検索してくれや」

「わ、わかった!」

穏やかな顔でログアウトしたピースフルの後を追いかけるようにして、ダークネスシャークも嬉しそうに姿を消すのだった。



────それから15分と少し。



アジトには再び究極英雄が姿を見せていた。

メニューと睨めっこをしつつ、魔王城転移に最適なタイミングを計るヤクト。

万全な動きができるように精神をニュートラルに戻すピースフル。

どうあっても自然と漏れ出す笑みを抑えられず、戦闘用マスクを装着して表情を隠すダークネスシャーク。

そんな少女の様子を微笑ましく見守るプロミネンス。

いつも通りの雲ちゃん。


「さて、そろそろ行きましょうか。

基本陣形はシャークさんが敵城門から内部への侵入を試みるものとして、我々がそのサポートです。

ピースフル、プロミネンスさん両名は山崩し含め広範囲の注目を浴びるようにアピールしてください。私が集まった相手をシャークさんの邪魔にならない位置に再配置するようにジャミングを仕掛けます。

行動の詳細は現地で状況を見ながら指示することになるかと思います」

「りょうかい」「ん」「いいわ」

3名から返事があるが、1名は疑問を呈する。

「……わたしはぁ?」

「あなたは最初は待機です。予想通りなら手が空くことは無いでしょうが」

ヤクトはニヤリと笑うと挑戦権を掲げる。

アイテムとして使用すると豪華なチケットのようなものが出現し、他のアイテム同様握りしめることで効果を発揮する。

握りられた挑戦権が光の粒となって空気中に溶けてなくなり、それと入れ替わるように究極英雄のメンバーたちが光に包まれる。



「これが…!!」

視界が開けた時、ヤクトの視界に広がったのは禍々しい荒野であった。

遠方に立派な日本建築の城が見えており、そこに至るまでのエリアで攻め入る者と押し返す者が入り乱れての大混戦が繰り広げられている。

「これはすんなりとは行かなそうですね」

山崩しなら15分もあれば戦況を傾けるくらいはするだろうと予想していたのだが、なるほど魔王軍もよくやると言うのがヤクトの感想だった。


片や、獣化することでギルドメンバーのパフォーマンスを最大限に引き出すリック・シモンズ率いる山崩し。

暴走して敵に襲いかかるだけの猛獣と化したプレイヤーたちが理性を保って戦い、ダメージが一定を越えた瞬間に下がって回復に専念する。

猛獣が起立正しく行動する異様。

一方で魔王軍プレイヤーは死亡して消滅するそばから付近のログハウスから湧いて出る。

リスポーン地点をそこに設定しているのだろうか。永遠に補充の効くゾンビのような不死の軍団となっている。


「しかし、この配置は好都合です! シャークさんは空から! ピースフルさん、プロミネンスさんはあの激戦区に突撃してください!」

「待ってました!」

「ライブスタートォ!」

生き生きと駆け出していく2人とは対照的に、ダークネスシャークは音もなく飛翔していく。

ヤクトは雲ちゃんを後ろに控えたまま戦況を見渡す。

山崩しと魔王軍で拮抗するなら、中堅ギルド群の参加によって優先になるはずだが、魔王軍は足りない分の戦力を魔物で補っているらしく、門番型のモンスターがいくつも目に入ってくる。

「では、我々も仕事をしましょうか」

「うん! う…? やっくんと私は、なにを、するのかな?」

「ふふふ…我に秘策ありですよ!」

あの混沌とした戦況にもう一手間加えてやれば、ダークネスシャークが門に到達するのを阻む者はいなくなるだろう。

ヤクトは自身の罠師スキルを用いて────。



「───ちょっとまった!」


ーーーーーーー



「───ちょっとまった!」


ギルド“究極英雄”が魔王城に至る武勇伝。

それを雄然と語っていた平和は急に現実に引き戻される。

「え?」

はどうでもいいの!

それより、ダークネスちゃんとはどうなったのか言ってないじゃない!」

平和の話に割り込んでぶち壊したのは優華であった。

「ね、姉ちゃん…ここは野島くんの話を…」

「お黙り! 今のお話のキモはダークネスちゃんと野島くんがどうなったか、でしょ?

野島くん意図的にそこ言わなかったじゃない!

きっと何かあったに違いないわ!」

確かに平和は律儀に一つづつの事柄を臨場感たっぷりに語ったのだが、ダークネスシャークとは「時間までチェスをした」としか言わなかった。

「あ、いや…そのですな…」

平和が言えないことがあるかのように言葉に詰まる。言外に優華の言葉が図星であると態度が示している。

「まぁ、とりあえず今朝の魔王城攻略の話を聞いて欲しいんだけどなぁ」

「その話は結果がわかってるでしょ! それに、あたしたちに聞いても攻略のヒントはあげないわよ?」

「ああ…」

姉の言葉に優希は少しだけ感心する。

あの荒野を越えて魔王城エントランスに至ったということは、間違いなく内部の様子も観察しているはずだろう。

直接的に攻略法を尋ねられることは無いだろうが、それでも「手強い造りだ」などと言われれば自分は慢心して情報を与えてしまうかもしれない。

何が攻略のきっかけになるかわからない以上は避けるに越したことはない行為だろう。

「…僕もやっぱり野島君とダークネスシャーク氏の関係性について聞きたいかな。

ホラ、僕らだって“友達”だろ?」

優華は完全に興味本位で訊いているのだが、優希は戦略的にそうすべきと判断し姉の調子に合わせることにした。

「ぐぬ…」

優華は自分の恋愛話にはヘタレな癖に、他人にはここまで追及してくる。

そのことを理不尽に思いつつ、最後の救援を求めるべく隣に座る親友に声をかける。

「ムーさん、カノジョに首を突っ込まんように言ってくれないかね? あんま首を突っ込むもんでも無いぞってさぁ」

「あはは、ピンの方こそ観念しなよ。

優華は本当に無関係の人が相手なら口を挟んだりしないよ。それに、せっかくピンに“いい話”があるんだから、俺だって聞きたいよ」

「マジかよ…」

そう絶句する親友に無流は心のうちで謝る。

無流は平和の恋愛話に興味がないわけじゃないが、それよりも魔王城の話を聞く際に“何も知らない一般プレイヤー”の演技を通せる自信がなかったというのが理由だ。

「へいへい、あんまり面白い話じゃなかったからって文句言うんじゃねぇぞ?」

観念した平和はそう言って、敢えて言わなかった15分間の出来事について話し始めるのだった。

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