第67話 冬雪の商売と、終わった後のこと
魔王城。
今やその土台部分だけは多くのプレイヤーが下から目にする魔境である。
浮遊する荒野には不釣り合いな和風の城が鎮座していることはあまり知られていないが、いずれ見た者を驚かせる事になるだろう。
基本的にここを訪れるのは四天王と、その直属に選ばれた幹部プレイヤーだけだったのだが、最近は来訪者に変化があった。
一般の魔王軍プレイヤーが姿を見せるようになったのだ。
これには”挑戦権“のシステムが勇者勢以外にも適用されているという理由がある。
挑戦権さえあれば誰でも魔王城には正攻法で進入できるため、意外にも幹部以外の魔王軍プレイヤーが足を運ぶことが多い。
では、ここを訪れた一般的な魔王軍プレイヤーは何を目的としているか?
彼らは魔王・四天王への挑戦には見向きもせず“買い物”をしているのである。
冬雪が店長を務める商店には、今日も客という名の魔王軍プレイヤーが姿を見せる。
「もしもし? ここでレア素材を買えると聞いたのですが…」
「レアかどうかは僕の知る所ではないけど、素材やアイテムの取引はここで行われているよ」
魔王城から外れた位置に建つログハウス。
かつては“仮の魔王城”としてヌルが使っていた建物は、今は小さな店へと変貌している。
「“真竜の湾曲爪”なんて売ってませんか…?」
その商店が取り扱うのは超貴重な素材。
「あー…あるよ? とはいえ在庫は3個しかない。1つ70万ユニだけど、幾つ必要?」
「3個も!? もちろん全部ください! 210万ユニ支払います!」
「はいはい、トレードメニューでの取引になるからね、よし、取引成立。毎度あり」
「ありがとうございました! また来ます!」
冬雪はヒラヒラと手を振って客を見送る。
客が視界から消える前に次の客が現れる。
「オウ、冬雪の旦那、秘密特訓メニューの予約に来たぜ! 人数は5でレベルは130から135でお願いしたいんだが…どうだ?」
「ふむ…。それなら3日後の今と同じ時間ならできると思うけど、それでいいかい?」
「ああ、魔王様によろしく言っといてくれ!」
「オーケー、じゃあそのようにするけど、一人750000ユニで5人だから3750000ユニだよ? 払えるのかい?」
「ハハハ、オレらの財布を甘くみんなよ? アンタのおかげでヨユーだぜ」
豪快に笑うと、この客も冬雪にトレードメニューで金額を支払って去っていく。
そしてすぐさま別の客が訪れた。
「あっ、あの! グランドケーキは在庫ありますか?」
「あー…今日は食べ物は売ってない日だねぇ。料理長が気まぐれで申し訳ない」
「そうですか…また来ます…」
トボトボと帰っていく。
こんなやりとりを連日見ることができる。
この光景には冬雪が仕組んだ経営戦略が関係している。
最初は小さな閃きだった。
あまねくが「レベルを上げたいが、四天王の役目を放棄して無闇に外を歩き回るわけにもいかない」という相談をヌルに持ちかけた事に端を発する。
領域・区画の作成が終わった四天王。
元々自由行動だった魔王。
すでに彼らは暇だった為、すぐに「あまねくさんのレベルアップ計画を考えよう!」と会議を始めたのだった。
その会議の中で、陽夏がヌルにとあるお菓子を出したことがキッカケで参謀に大いなるヒントを与えた。
“陽夏製特別チョコレート”。
効果は美味しいことと、経験値が10ポイント加算されること。
陽夏はゲーム世界におけるヌルとの接し方に悩んでいた。
現実とのギャップが原因だろう。
結局、会うたびにとりあえず手作りのお菓子や料理を渡してみるという不思議なアプローチに落ち着いた。
その流れで辿り着いたのがこのチョコレートだった。
彼女の主目的は味のクオリティであって、経験値アップは副次的なおまけである。
そう、そんなおまけの経験値加算。
同効果のアイテムはいくつか存在するのだが、一般的なプレイヤーはこのアイテムでレベルを上げるなら何千、何万と使用しなければならない。
このため経験値を10ポイント加算というのは一般的なプレイヤーにとってはゴミのような価値のない効果である。
しかし、ヌルにだけは意味が変わる。
「あ!」
チョコレートを頬張るヌルを見たハチコが何かを閃く。
「ちょっと実験してみてもいいですか?」
実のところ、魔王の権能についてはヌル以上に熟知しているハチコ。
そんなハチコ主導のもと、おそろしい試みが行われたのだった。
ーー
『エナジースフィアのカケラ』というモンスターが存在する。
最序盤の駆け出しプレイヤーにとっては経験値が非常に美味しいレアモンスターであるが、あくまでも序盤のモンスターであり、今更見るべき点はない。
これをヌルの「魔物作成」でレベル51の状態で作成する。
次にほとんどヌルが忘れていたモンスター『転ショッカー』の能力で『エナジースフィアのカケラ』を上位の存在へと転職させる。
『カケラ→破片→残骸→1/4球→半球→真球』へと進化し『エナジースフィア:真球』にする。
真球は最上位モンスターであって、あまねくが狙って倒すほどのモンスターである。
しかし、レベルは51のままのため多少はマシという程度の経験値しか落とさない。
そこにヌルが忘れていた能力「魔力供与」によって、チョコレートで得た経験値10ポイントを『エナジースフィア:真球』に与える。
レベル255のヌルが与える経験値10はレベル51のモンスターにとっては100万以上の経験値であるため、一気にレベル100程度まで上昇する。
そして、もちろんチョコを複数個食べれば、効果も数倍である。
これでレベル150の最上位レアモンスターを任意で作成できるようになったわけだが、ハチコの計画はここで終わらない。
魔王城の地下に新しく「練武場」という部屋を増設した。
この部屋自体に「経験値を通常よりも多く獲得できる代わりに、ドロップアイテムを拾うことができず、敵が通常より強くなる」という効果を追加した。
レベル100を超える超レアモンスターに経験値アップのバフまで追加されていればレベルアップの道のりは限りなく平坦なものになる。
あまねくは強敵と戦う方法じゃない事に文句を言いかけたが、レベル150になってからが本番だと思い直した。
そうして彼はこの経験値を大幅に獲得できる部屋でひたすら『エナジースフィア:真球』と戦い続けメキメキとレベルを上げた結果、魔王を除き最初にレベルが150に到達したプレイヤーとなったのだった。
ちなみに真球はレアアイテムをドロップするのだが、あまねくは部屋の効果で拾うことができない。しかし、アイテムは部屋自体に回収されるため結局魔王軍のものになる。
踏み倒せるデメリットなのだ。
突如としてプレイヤーレベルのリストで最上位に躍り出たあまねく。
情報屋たちの間で瞬く間に“あまねく・わかつ”に関する情報が高騰するが、何せ本人は魔王城から出てこない。
こうなると、魔王軍プレイヤー達が何かレベル上げの良い方法があるのではないか?と探りを入れ始めるようになった。
そして最初の話に戻るのだが、この状況に冬雪が商機を見出したのだった。
探りを入れてきたプレイヤー達に対し、あたかも特別に明かすような素振りを見せる。
「…魔王城には、あの四天王最強のあまねくさんも認める究極の修練場があるんだ。
おっと、僕も四天王とはいえ、あまねくさんは先輩だしなぁ…。
魔王軍に多少の利益は無いと話せないなぁ。
いやいや、情報料だなんて。
でもせっかくだから貰っておくよ。
なんだか続きを語りたい気分だなぁ。
挑戦権があれば魔王城に行く事は可能だよ?
そう。四天王に認められた証。
あー…僕のダンジョンはちょっと特殊で…そうだなぁ105万ユニもあったら簡単にクリアできちゃうからなぁ…。
実のところ考え方次第でスロットを一度も回さずにクリアできる仕組みに…いや、これ以上は言うまい。いくら自分の担当でもダンジョンの攻略情報なんて貴重すぎて声にできない情報というか…」
などと情報を盾に魔王軍プレイヤーを強請る。
結果として、冬雪のダンジョンに山ほどのプレイヤーが大挙して訪れ、カジノに金を落としていく。
暇なプレイヤーが多いのだ。
軍勢対抗戦で魔王軍が勝利して以降は、魔王軍所属の一般的なプレイヤーはやることがなくなった。
本来、運営が想定していた流れでは、魔王と勇者の勢力は拮抗しているはずで、現状のように“魔王に挑戦”がこんなに明確化する予定ではなかった。
もっと魔王軍に所属しながら反旗を翻して下剋上を目論む革命軍や、自発的に勇者勢に殴り込みをかける血気盛んな鉄砲玉のプレイヤーなど、もっと抗争が激化する予定だった。
例えば、ヌルが魔王じゃなければ、あまねくは革命軍のポジションについていたことは想像に難くない。
しかし、ヌルがあまりにも強すぎたことや、ハチコの戦略がほとんど一般プレイヤーの助けを必要としなかった点など、運営の想定外の事態が発生し続けた。
結果として、大量の暇人が生まれる結果となってしまったのだ。
この暇人たちをどうにかして動かして利益に還元したいと目論んだのが冬雪だった。
彼は四天王としての自分が、あまねくの武芸、ティオのカリスマ、ハチコの知識に並び立てる何かを持ちうるのか模索していた。
そして辿り着いた一つの答えが“経営”だったということになる。
彼自身、現実世界で将来の話題が友人間で持たれたことも理由の一つだろう。
彼が将来的に親の会社を継ぐにしても、AIが作成した経歴書に『大型MMOブレインゲームで一大勢力を用いて経済を支配した』と書かれるのはメリットとなる。
暇を持て余すプレイヤーは自身のカジノで遊ぶだけにさせておき、魔王城に来る目的を持つプレイヤーには高額で攻略法を教えることで大金を稼いだ。
それを元手に全プレイヤーを相手として商売を始め、戦闘系プレイヤーにはレベルアップ手段を提供し、生産系プレイヤーには素材を売ることで金策を始めたのだった。
根幹にはヌルのスキルがあるからこそできる方法なのだが、ヌルもスキルを持て余すよりはいいだろうと積極的に働いている。
「冬雪さん、お疲れ様です。順調そうですね?」
「今日の分の素材を持ってきたよ」
冬雪の商店をハチコとヌルが訪れる。
言うまでもなく2人は客ではない。
冬雪に情報共有のために訪れたハチコをヌルが護衛しているといったところだ。
ハチコは最も弱い四天王であるため、万が一にも下克上を狙われるわけにはいかない。
出歩く際には基本的にヌルが同行するのだ。
ハチコとしても自身の弱さを自覚していて、急襲された場合は『アマルガム』によって死亡させて欲しいとヌルに提案する程度には対策している。
冬雪は2人の姿を認めるとトレードメニューを出してヌルからアイテムを受け取る。
「ありがと。元手になってるのは9割方ヌル君の働きだし、僕は労ってもらうほど働いてないと思うけどね」
「いやいや、窓口になってくれるのもありがたいって思ってるんだ。それに俺、最近は『魔物作成』とか『魔王のカリスマ』を腐らせ気味だったから有効活用できてちょうどいいさ」
「はは、そう言ってくれると助かるよ」
「それにしても売れ行きが想像以上に好調だよな。聞こえてたけど“真竜の湾曲爪”がもう売り切れなんだろ? 追加で生産したほうがいいか?」
「いやいや、それには及ばない、あれはウソさ。本当の在庫はあと40ほど余裕がある」
「うん?」
ヌルは冬雪に言葉の意図がわからず首を傾げる。
彼が相手に応じて在庫個数を変えて商売しているということだろうが、その真意をヌルが推察する前に答えが示される。
「“真竜の湾曲爪”の入手元である“真竜”は一つ前のバージョンのラスボスだからね、普通に取りに行くとかなり時間がかかる。
だけど僕らのダンジョンなら配置モンスターも設定できるから、いくらでも出現させることができるし沢山取れる。
そのことを悟られないように流通量を絞ってるわけだけど、希少アイテムの需要コントロールによって今のうちに生産系の人たちに競争をさせて、仕入れ先が魔王軍だって違和感を潰しておこうかなって」
「ええと?」
冬雪が答えを示したものの、ヌルはもう一度首を傾げた。
言われてもイマイチ理解できない。
「冬雪さんは野心家ですね」
「あはは、せっかくだから身の丈に合わないことに挑戦してみたくなりまして…」
「ハチコさんは分かるんですか?」
ハチコはゆっくり頷く。
「ええ、なんとなくですけど。
簡単に言えば魔王軍という会社を設立した上で依存する人を増やして、既存のアイテムショップのシステムを蹂躙するつもりなのではないかと。
端的に言えば…ユニバース運営にケンカを売った。ということになりますね」
「うぐえっ!? それって大丈夫なのか?」
ハチコはにっこりしながら言ったが、ヌルの反応は劇的であり、驚いた拍子に伸び上がった触手が天井に穴を空ける。
さすがに運営チームを敵に回すような行いは容認できないため、思わず冬雪の両肩を掴む。
冬雪にダメージが出なかったのはヌルが自身の体のコントロールを完璧にできていたからだろう。
「だ、大丈夫! 大丈夫だからね? ちゃんと担当のGMさんに相談した内容だから!」
天井とヌルを交互に見ながら慌てて釈明する。
「僕がカジノを立ち上げる時に今後の展望とかも相談したんだよ。ホラ、いくら四天王のダンジョンと言っても詐欺を働くわけにはいかないじゃないか。ちゃんとアドバイスを受けて公平性のあるカジノにしたんだよ。
その際に、この商売についても問題ないか聞いたんだ。そしたらちゃんと“プレイヤーが発案で新しい仕組みが誕生するのは歓迎したい”って言ってくれたんだよ。
規模は違うけど、既存になかった商売って意味なら“ユニバース新聞社”だって同じことだしさ?」
新聞社ができるまで情報自体に価値をつける仕組みはあったものの、自ら売れる情報を取りに行って商品化する組織は存在しなかった。その点を指摘したのだろう。
「大丈夫そうなら、まぁいいんだけど」
ヌルは所持品から木材を取り出すと、器用に触手で天井の修復を始める。
「影響が出ることをヌルさんが心配しているのはわかりますが、もはや情勢は魔王であるヌルさんと四天王である私たち次第でどうとでも動かすことができます。
いまさら外野のプレイヤーが騒いだところで基盤が崩れるようなことはないでしょう。
むしろヌルさんも何か面白そうなことにチャレンジしてみる…そのくらいの気概で良いのではないでしょうか?」
「あはは、僕は個人的な事情が絡んでるから、遊んでいると捉えてくれていいけどね」
「遊び…ねぇ」
上を眺めながら呟く。
天井の修復作業は建造物修復アイテムを使用して完了だ。
「うん、遊びだよヌルくん! 僕の稼ぎの半分は魔王城に振り込んでるから、ぶっちゃけ魔王軍にお金が溜まってしょうがないんだ。
君がパーっと使って経済を回してくれてもいいんだよ?
今後ひっきりなしに挑戦者が現れるようになるわけだし、時間に余裕がある今のうちにさ!」
「うーん…」
ヌルは考え込む。
義務に拘束され続けた後に、いきなり解放されると自由には動けなくなるものである。
ある意味ずっと自由ではあったのだが、魔王就任から魔王としての責務に追われてきたのだ。
やりたい事、と言われてもそう簡単に思い浮かべることはできない。
「ハチコさんなら、どんなことにお金を使いますか?」
「もちろん、買えるだけ本を買い込みます。
私の幸い私の区画の書庫にはまだ空きがあります。スペースが足りなければ増築しますし、まだまだ理想の空間と呼ぶには蔵書が足りません!」
即答だった。
最近読書に時間を割けてないのかもしれない。
爛々と目を輝かせる様子には狂気じみたものがある。
「ふふ、もっともっと欲しいんです」
「おおぅ…」
「あは、は…」
ヌルと冬雪は気圧され気味に愛想笑いで応えたのだった。
ーーー
────魔王城地下二階。
あまねくのレベルアップ計画に合わせて作られた『練武場』の他に、『武芸の間』というシンプルな闘技場も新設していた。
ヌルの攻撃に耐えうるレベルで頑丈に作られた場所であって、基本的にあまねくとヌルが入り浸っている。
「……あんな様子を見ちゃうと、いっそハチコさんに融資するのもアリかもなって思えちゃうんですよね…っと!」
ヌルが腕の動きに合わせて触手をあまねくに差し向ける。
それを最小限の動きで躱しつつもあまねくが触手を辿るように距離を詰める。
「それは、贅沢な悩みであるな…ハァ!」
あまねくがヌルに刀を振り抜くと見せて、明後日の方角に振り下ろす。
同時に斬撃がヌルの体内に発生する。
「うわっとっ! ぜ、贅沢ですか?」
それを斬撃がダメージに昇華する前に体内硬化によって被害を最小限に対処する。
さらに振り下ろした一瞬の隙に合わせて触手をあまねくの腕に絡ませて刀を奪い取ろうとする。
あまねくは刀を身代わりにして腕に絡んだ触手を刀に押し付けると刀を手放し、距離をとって別の刀に持ち替える。
ヌルは強奪した刀が手中から消えたことを知覚する。
「そうだ、俺も含めてほとんどの人間にとって金は余らないものだ」
距離を取ったあまねくだが、新しく装備した刀を抜刀する気配がない。
ヌルは相手が対話を優先する気配を出していることを読み取り、戦闘の構えを解く。
「本来、戦闘能力はどれだけ究めても頂点に届くことがない。絶対の強さなど存在しないからな。
故に際限なく高みを目指してより良い武器、装備、スキル…あらゆる手段で挑み続けるべきだが、それを叶えるには大いに金がかかる。
よって金が余るというのは、現状の強さに満足しているということに他ならない。
俺より弱い者であれば…他人に融資など上達を諦めた軟弱者と切って捨てるのだが、ヌル殿は既に俺より強いにも関わらず、今日も俺に付き合ってくれている。
満足いく強さを得られている故に金の使い道に迷うというのは……なんとも贅沢な悩みではないか?」
と高説を吐くが、戦闘狂の暴論である。
お金の使い道は多岐に渡るし、ユニバースは戦闘だけのゲームではない。
もちろんヌルはあまねくが無茶苦茶なことを言っているとは気づいている。
そして不器用な彼が言った言葉をどう受け取ればいいのかも理解していた。
「……つまり、お金を自分のために使えと?」
「………」
あまねくは目を閉じる。
おそらく当たりだろう。
「…ヌル殿が仲間や立場のために労力や私財を投じるのは好きにしたらいい。
確かに俺も助かっている部分がある。
しかしだ、全てが終わった後に後悔しないようにだけは注意するべきだろうよ」
「えっ? ああ、全てって…。そういうことですか…」
“全て”とは、この状況のことだろう。
魔王とはVer3.0のイベントで出現する存在である。
仮に魔王として勝利を収めた後はヌルも、四天王たちも今まで通りとは行かない。
普通のプレイヤーに戻るのだ。
その時、ヌルがどんな状況で居たいのか?
ティオであればイベントを踏み台にして更なる跳躍を目指すだろう。
冬雪は件の商売によって先立つものを用意しておく心づもりだろう。
あまねくはきっと変わらないだろう。
ハチコと陽夏は知れないが、二人にだって魔王城以前に存在した居場所に戻ることができる。
この視点で言えば、最も魔王軍に依存しているのはヌルだ。今の状況を今後のために利用するのが賢い生き方なのだろうが、それをしてこなかった。
そのことを後悔しないか?と問われたのだ。
ヌルは軽く頭を振る。
「今を思いっきり楽しむことを優先します」
「フ、いい顔をするようになったな。…さて、そろそろ休憩とウォーミングアップは終わりにして本気の試合と行くか!」
「いいですね。ちょうど頭を空っぽに出来るくらい暴れたいと思ってました」
二人は構えると衝突する。
こうして修行という名の死闘は続いていく…。
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