第65話 ある妖精の決別
ギルド『ティオ後援会』。
言わずと知れたアイドル、ティオ・フォルデシークのファンクラブを自称するギルドチーム。
今日はその定例会議が行われていた。
ギルドマスターであるティオと直接話し合う機会を持てるのは幹部だけであり、12人の通称“円卓”と呼ばれる彼ら幹部が出席者である。
「みんなおつかれ〜! ボクたちの活躍で軍勢対抗戦はだいっしょーりっ! だったね」
ティオが明るく皆に語りかける。
彼女をはじめ、このギルドのメンバーは囮の役割を果たして消滅したため、敵を倒すような直接的な活躍や、迫り来る敵から味方を守るような英雄的な働きはしていない。
それでも満足気に大勝利と断言したのは、自分の役割をしっかりと果たしたという実感があるからだろう。
仲間のために環境を整えることを自身の活躍と認識できるあたり、ティオの人間的成長が窺えるものだった。
「でねっ! 今日はお祝いの時間を取ろうと思うんだ!」
普段ならティオが次にやりたいライブ、面白いと思う企画を提案するのが定例会議のパターンである。
その提案を幹部達が現実的なプランに落とし込むという作業が行われるはずだったが、今日は別の内容としたのだろう。
ティオの発言を真っ直ぐ受け取ったメンバー達は、この状況を純粋に受け入れる。
多少頭を働かせたメンバー達は、タイミング的に魔王軍の最終状況に向けての決起集会のような側面も持たせたのだろうと推測した。
いずれにせよ、この時のティオの真の狙いに気付いた人物は誰も居なかったと言える。
初めからティオに聞かされていた一人を除いて。
「ぱんぱかぱーん! まずは、お祝いドリンク! デス!」
その言葉に合わせてティオが両手を広げると、ティオと幹部達の前にグラスが出現する。
透明なワイングラスに、虹色の層になったカクテルだった。
カクテルなのにワイングラスに入っているあたり、彼女が酒に疎いことがよくわかる。
「おおっ!」
と数名から歓声が上がる。
ティオの関連グッズは多いが、こうしてティオ本人から何かが貰えることは稀である。
「これは魔王軍の協力者の方に作ってもらったドリンクで、新しいパフォーマンスの予行演習も兼ねてますデス」
ギルドメンバー達はティオがニコニコしながら楽しそうに告げる姿を目にして「やはりただ祝うだけではなく次の計画の仕込みもしているんじゃないか」と彼女の
虹色のドリンクを注視すれば『ティオちゃんレインボー』というアイテム名が表示される。
グッズ展開も想定しているのだろう。
そんなお祝いムードの中、メンバーのうち一人がさらにグラスを注視する。
「ん?」
怪訝そうな顔をした後、驚愕の表情を浮かべたまま凍りつく。
「っ! ティオちゃん、これは…!」
その人物はアイテムの“効果”を目にしたのだろう。
彼の驚きや焦りとは対照的に、ティオは楽しそうな様子のままである。
「おっ! 気付いたデス? そう、何を隠そうと実はコレ、“真実薬”なんデス!」
胸を張って高らかに宣言するティオ。
一拍の沈黙の後。
「「なんだって!?!?」」
対照的に、目の前に雷が落ちたような顔でギルドメンバー達が同じ言葉を口にした。
ザワザワと俄かに騒がしくなる。
真実薬。
飲むと名前の通り真実を口にしてしまう薬であり、聞かれた問いにだけは絶対に嘘がつけなくなる。
本来はとあるミッションにて、嘘しか言えないNPCに本音を言わせるために用いるのだが、プレイヤーに対しても効果がある。
当然の如くプライバシーに関わる質問を行えば罰則に直結してしまう。
そのためにプレイヤー間で使用する際には制限が設けられており、『予め質問内容を明かしておき、服用する側がその問い不満がなければ服用後に答える』というルールによって運用されるアイテムとなった。
取り扱いが難しすぎて、ローカルルール的に準禁制品となっているアイテムである。
「ちょ、ちょっとティオちゃん! 流石にコレは危険だよ!」
「そうでござるよ、どこのギルドでも手を出すべからずって言われているでござるよ」
あちこちから諫言が届くが、ティオはこれを手を挙げて制する。
メンバー達はそれを受け、彼女の真意を確かめるべく黙る。
意図する部分が何処にあるかを見極めなくてはならない。
「確かに恐ろしいアイテムです。でも、ボクが何を聞くかによるんじゃないデス?」
ニッと悪戯っぽい笑顔を浮かべる。
「みんな、今からボクに『ユニバースのNo.1アイドルは〜?』って聞いてみてほしいデス」
その言葉にいくつかの顔がハッとした表情に変わる。
未だティオの言わんとするところが分からず、半信半疑の表情も混じりつつ、それぞれが顔を見合わせる。
しかし、ティオに請われれば、応えるのが彼らの役目である。声を揃えるために互いの息を合わせる。
互いに頷き合う。
そしてティオに声を投げかける。
「「「ユニバースのNo.1アイドルは〜?」」」
ティオは待ってましたと言わんばかりに椅子から立ち上がる。
目の前にあるグラスを手に取ると一気にクイッと飲み干す。
突然の行動に目を見開く顔がほとんどだが、彼らが声を発するよりも先にティオが動いた。
「このボク、あなたの癒しを司る妖精、ティオ・フォルデシークちゃんデス!」
馴染みのある、見慣れた動きでクルッと回って決めポーズをとる。
そして、ティオを中心にキラキラとエフェクトが出るのだが、ドリンクのエフェクトと相まって煌めきが増し加わる。
その一連の動き、決めポーズに「おお〜!」と感嘆の声が上がる。
ティオが行ったのは『コール&レスポンス』だ。
ライブを盛り上げる際の一種の演出、お約束のようなものである。
それを敢えて嘘のつけない状態で行うことでティオが隠しようのない“本心で自分をNo.1アイドルだと思っている”事を明示する。
さらには真実薬というスリリングなアイテムを用いることで、観客の興奮がより一層に盛り上がるというものだった。
現に見ていた幹部達も口々に
「これは…良いものだ…」
「クールだねぇ」
「感動でっ、涙がっ!」
などと称賛の声をあげている。
「こういうわけデス! ねっ? いい感じでしょ〜? 少し難しい部分はあるけど、きっと盛り上がるデス」
ティオが周りを見渡すと、頷き返す者や感涙している者、感慨深く微笑んでいる者と様々だ。
「でねでね、今度はボクがコールして、みんなが応える番なんデスけど、少し悩んでマス。
ボクが順番に一人づつに声をかけていくのと、ボクの掛け声にみんなで一斉に応えるのはどっちが盛り上がるのかな? って感じデス」
ティオの問いによってメンバー達は再びザワザワと騒がしくなる。
といっても先程とは別の空気であり、どちらかの方がより楽しいか、嬉しいかで話し合っている。
そのためか表情に喜びの色が浮かんでいるものが多い。
「一人づつ声をかけてもらえる方が嬉しいな」
「まぁな」
「俺も同じだ」
ティオに名前を呼んでもらえる=特別扱いされるというのは当然に価値がある。
その方向で決まりそうな雰囲気だったが、その流れを遮るように一人の大男が挙手する。
動きが大振りなのもあってか、自然とその人物へ視線が集中する。
和装兜にティオのグッズTシャツというチグハグな組み合わせの人物”ゴザえもん“であった。
「拙者は全員でレスポンスする方がいいと思うでござるよ。我々が一致団結して返事をする。その方がティオちゃんに喜んでもらえると思うでござる」
挙手してまで述べた意見にしてはシンプルで短い意見だったが、その分意図は伝わる。
「一理あるな」
「確かにティオちゃんのためなら…」
この流れを良しとしたのがルークであった。
丁寧な口調でゴザえもんの意見に追従する。
「そうですね。むしろ一人づつの場合の方には弊害があるかもしれません。
ライブ本番でも同じことをするとしてもティオちゃんが全員を呼んで回るわけにはいかないでしょう?
だとすると、抽選によって今回のコール&レスポンス参加権を取得することになりますが、選ばれなかった人からの遺恨を残さないのは難しいでしょうし、ティオちゃんに名前を呼んでもらえたかどうかで格差が生まれる可能性もあるでしょう。
そのように軋轢を生むくらいでしたら、全員で同時にコールに臨んだ方が管理がしやすいのではないでしょうか?」
理路整然と呼ぶに相応しく、聞くものを納得させる。
今後の見通しについても現実的な予想ができているとして、ルークの意見が採用される。
すなわち、ティオが全員に声を投げかけ、全員で応答するというものだ。
「せっかくなら同じ言葉で統一したいよな?」
「たしかにな」
「どんなセリフなら映えるかな?」
「じゃあじゃあ、誰かお試しで飲んでほしいデス。その人をお手本にする感じで!」
ティオの提案に一拍の沈黙が訪れる。
あれほど乗り気だった面々も、ではいざ真実薬を飲めと言われれば躊躇してしまう。
しかしそれは責められることではないだろう。
仮に「一般的な部分しか参照しないからアカウントデータを公開してくれ」と言われてもすぐに受け入れることは難しい。
ティオが変な質問をしないと頭わかっていても、抵抗を感じないはずがない。
「じゃあ、私が」
そんな沈黙を破った最初の1人が手を挙げる。
「エドンさん!」
事務方で目立ったところのない印象のエドンだが、最近は割と活躍を見せている。
対プロミネンス戦では文字通りティオの盾になって散った出来事が記憶に新しい。
ティオの四天王就任を機に、彼も挑戦を始めたというのが周囲の認識だった。
エドンは立ち上がると右手にグラスを持つ。
まるで騎士物語の貴族が乾杯の合図を待つような姿勢だった。
そしてティオを見据えた。
「あ……っ」
ティオはエドンの準備が完了している事を姿勢から悟る。
数度頷いてからティオは満面の笑みを浮かべ、両頬に指を当てる。
「エドンさんっ! ボクは誰でしょうか?」
その問いを受けて、エドンはにこりと微笑む。
そうしてグラスを口元に運ぶ刹那、故郷と決別するような、覚悟の極まった顔をする。
そしてグラスを呷る。
その一連の動きと表情はまるで老兵のようであり、エドンに抜け駆けされたと恨めしく感じた者達でさえ見惚れるほどだった。
グラスを飲み干して後、顔をティオに向ける。
「君はティオ・フォルデシーク。私の一番のアイドルだ」
はっきりと述べる。
真実薬によって言わされているのではなく、アイテム効果すらも従えるような態度。
自身の言葉に一切の迷いのないエドンの姿勢。
まさにお手本と呼ぶに相応しいものだった。
ティオはしばらく驚いたような顔をした後、爽やかな笑顔を浮かべる。
「えへへ…。エドンさん、カッコいいデス」
堂々と胸を張っていたエドンもそう褒められて姿勢を崩す。
そんなやり取りを周囲が羨ましげに見守る。
「エドンがこれほどのパフォーマンスを秘めていたとは…みくびっていたようだ。いや、最初に声を上げた者への報酬か」
「そうでござるな。エドン殿を例にするなら、我々は”そなたはティオ・フォルデシーク。拙者の一番のアイドルだ“という言葉で一致することになるのでござるな」
「オイオイ、勝手に武士口調で統一しようとするな」
「ゴタつきそうだし、前半は”君“が言いやすいし適当だろう。んで、後半の”私“は俺たち各々の言葉にするのが順当じゃないか?」
「まぁ…そうなるだろうな。…ティオちゃん、それでいいかい?」
「ハイっ! みなさんにお任せします!」
ティオの返事を以てセリフが決まる。
「では、我々は全員で幹部としての役目を果たすとしようか」
前例のエドンに倣い、着席していたメンバー全員が起立してグラスを手に持つ。
すでに役目を達成したエドンも足並みを揃えるため空のグラスを持って待機した。
ティオは全員を見渡す。
それぞれが覚悟の決まったいい顔をしている。
どこにも狼狽えたような困惑の顔がないのを改めて確認すると、目を閉じて俯く。
少しの間、ティオはそのまま動かない。
「………」
何名かがティオに声をかけるかどうか迷い、開きかけて口を閉ざす。
ティオが脳内で本番のライブをシミュレーションして精神統一している可能性に思い至ったのだろう。
ティオの行いを阻害しないように彼らも不動の姿勢で待つ。
幸い、幹部達が焦れるよりも先にティオが笑顔で顔を上げる。
頬に指を当てて自分をアピールする。
「みなさんっ! ボクは誰でしょうか?」
その言葉を合図にして全員がグラスを傾けて飲み干す。
エドンだけは既に飲んでいるのでフリだが。
そして一斉に声に出して宣言する。
「「「君はティオ・フォルデシーク」」」
「私の」
「拙者の」
「俺の」
「アタシの」
「我が」
「自分たちの」
「「「一番のアイドルだっ!」」」
これ以上なく統一された掛け声が会議室を満たした。
ティオは右から左へと幹部達ひとりひとりの顔をゆっくりと見回し、そして、ある2人を目に留める。
そして悲しげに目を伏せる。
「そう…だったんデスね」
てっきり大喜びするティオの姿を期待していた幹部達はリアクションの温度差に戸惑う。
そして彼女の視線が何を探していたのかを追いかけて各々に顔を右往左往させる。
やがて、彼らも仲間の中に異なる様相の者がいる事に気付く。
幹部のうち、ルークとヴァレアナの2名の身体から光のエフェクトが漏れ出ているのだ。
「ルーク氏から…光が…?」
「ティオちゃん?」
状況が全く飲み込めないメンバー達は見たままの疑問を口にするだけだった。
ティオはなおも悲しみを隠さず、それでいて諦めたようにルークに目を向けた。
「…ルークさん、ヴァレアナさん。
ボクは……誰ですか?」
その問いは震えるような声だった。
「えっ、そのっ」
名前を呼ばれたヴァレアナは明らかな動揺を見せる。
「………」
一方でルークは特に驚いた様子も見せず沈黙を保つ。
ーーーーー
「…ルークさん、ヴァレアナさん。
ボクは……誰ですか?」
私のレッドネメシス様が恨めしげに私を見つめてきました。
「えっ、そのっ」
隣のヴァレアナは大いに焦り、恥を晒します。
「………」
賢者である私は沈黙を守る。
ヴァレアナは同志としてそれなりに価値があったのですが、まぁいいでしょう。
せいぜい隠れ蓑に利用させてもらいます。
この呼びかけが動揺を誘う策だという事が理解できていない凡愚のようですし。
それにしても、逃げ場のない幹部会のタイミングで”真実薬“なぞ持ち出してくるとは…。
流石の私でも冷や汗をかかされました。
とはいえ、この程度では私の尾を捕まえることはできないでしょう。
わかっていますとも。
真実薬を用いて貴女の名前を呼べば、私は確実に「レッドネメシス」あるいは「本名」で呼びかけてしまう。
貴女は裏切り者がいるという確証を得たかったのですね?
しかし、まだまだ詰めが甘い。
私の話術をもってすれば、
そうして全員が同時に「ティオ・フォルデシーク」の名を呼んだのであれば、多くの声に紛れてしまって私が沈黙を保ったことを確かめる方法はないでしょう。
それに真実薬は使用制限のルール上、効果時間が非常に短い。
せいぜい30秒程度。
少し時間を稼ぐことができれば簡単に真実を述べる状況を回避できてしまうのですよ。
とはいえ口を開けば真実以外は言葉にできませんからね、今はこうして沈黙を貫くのが得策でしょう。
多少の違和感はありますが、薬が切れた直後に「ティオ・フォルデシーク」と唱えれば済む話です。
後から沈黙の理由を尋ねられても”エドンが羨ましくて、やはり個人で呼んでほしくなった“とでも言い訳すれば問題ない。
何より、ここにいる11人は私の有能さを完全に認めきっていますからね。
レッドネメシス様は私を疑うのでしょうが、貴女の一存で私を追放できるほど貴女がギルドを支配できていないことの証明です。
ふふ…。
今回の計画の実行については評価しますよ?
特に、このような思い切った行いができるようになった貴女が「終焉遊び」の続編を今一度手がけることになれば……。
ふふ…本当に楽しみですね。
おっと、危ない。
笑みが漏れてしまいそうです。
しかし、まだまだ完璧とはいえない計画です。
おそらく魔王軍の何某の入れ知恵でしょうか?
いけませんね。
このようなリスクのあるアイテムを使用した策を受け入れるほどに魔王軍の者を信用しているとは…。
早急に貴女から私への依存度を上げて、従順になってもらう必要がありますね…。
おや?
また睨まれました。
「もう一度だけ聞きます。ボクは、誰ですか?」
「………」
何度聞いても無駄なことです。
多少威圧を込めてみたのでしょうが、私にはその手は通用しません。
せいぜい、隣の捨て駒を追い詰めてください。
そろそろ効果時間が切れる頃でしょうか?
「黙っていても、ボクの『ティオちゃんレインボー』の効果が切れることはありませんよ?」
………なに?
思わず彼女と目を合わせそうになり、意志の力で己の動きを抑えます。
いいえ。
おそらくは
ヴァレアナは愚かにもメニューからステータスを確認するというミスを犯しました。
こうなっては言い逃れは不可能でしょう。
「いったい何の話なんだい?」
状況の分からぬ者が問いかけています。
やはり貴女の独断専行では出来ることに限りがあるのですよ。
ホラ、貴女自身、大変困っていらっしゃる。
「こ、この『ティオちゃんレインボー』ですけど…真実薬としての効果を発揮するまで…光のエフェクトが出続けるんデス。
ボクの名前を呼ばなかった、二人のように…」
たどたどしく、消え入りそうな声ではないですか。
誰かを詰問することが不得手なのですね。
ましてや私を裏切り者として炙り出す…なんて、とてもとても。
「ティオちゃん、いいかな? 私から話させて貰えるかい?」
エドン…だと?
影の薄い昼行灯がどうしてここでしゃしゃり出ようとする?
「さて諸君。最初に打ち明けよう。
このギルドには重大な規約違反を犯しているプレイヤーがいる。
その者はティオちゃんをネットストーカーし、現実世界での彼女の情報に手を出している」
そう言いながらエドンは私に目を向け、釣られていくつもの驚く顔が私を見ます。
私の崇高な目的を理解できない道化の分際で、言うに事欠いてストーカーなどとはふざけた事を抜かしたものですね。
しかし、これは安い挑発でしょう。
ここは効果切れを待つのが───
「ストーカーだと!? ナメるなっ! 私はただ×××××様に新作の動画を……あっ…」
ヴァレアナが見事に挑発にかかり、消滅しました。
音声が妨害されて聞こえない部分があったことから察するに、レッドネメシス様の本名を口走ったということでしょう。
そのような事をすればAIによる自動判定によって監獄に連行されることは間違いありません。
しかし、これは収穫でもあります。
まさに捨て駒が役目を果たしました。
エドンはこうして浅い挑発を投げなければ確証を得ることができない。
つまりは私の自白以外の方法では、私を追及できないという事。
これは沈黙で問題ありません。
「今、ヴァレアナはティオちゃんの名前を呼んだために投獄された。
ティオちゃんのことをゲームのプレイヤーじゃなく、リアルの人間で認識している証拠だ。
そしてルーク。
あなたも余裕ぶっているが、すでに状況は詰んでいる事を知るべきだ。
ティオちゃんが配ったこのドリンク…。
この効果は1時間持続する上、副作用としてログアウト不可がつく。
そして浄化アイテムによる消去が不可なんだ」
なん……だと……?
ありえない…。
いや、揺さぶりだ。
「嘘だと思うならステータスメニューを見たらいい。それでも…あなたに出来ることは、ティオちゃんの名前を呼ぶことだけだ」
くっ。
遺憾の極みですが、確かにこれほどの時間を経ても効果が切れないのなら確かめてみるしかないでしょう。
メニューを開き、私自身の状態を見ます。
『ステータス状態
・真実:発言(57:20)
・ログアウト不可(57:20)
・浄化無効(57:20)
・発光(57:20)』
信じられん…。
こんな効果をもたらすアイテムが存在するだなんて…。
この場所から逃げる方法が思いつきません。
すでに多くの目が私に疑念と敵意の視線を向けてきています。
私を…。
私を見下すなっ!
お前たち愚民とは生きる世界が違うんだ!
頭の造りが根幹から違う!
そんなに証明したいなら見せてやろう。
今まで影すら掴ませなかった私の実力を。
真実薬なんぞ精神の力で抑え込み、私にその目を向けたことを後悔させてやる。
「はぁっ…はぁっ…きみは…」
ティオ・フォルデシーク…!
その名を口にすれば良いだけだ!
ティオ・フォルデシーク。
ティオ・フォルデシーク。
ティオ・フォルデシーク。
「私の“宮原れつは”様。最高の……。
違うっ! お前たちは騙されている! なぜこの切なる願いが分からない!」
口にした言葉がもはや誰の耳にも聞こえていない事を悟る。
徐々に私の体が透けていく。
……!
レッドネメシス様の隣、誰もいなかったはずの空間に奴らが透明化していた。
そうか。
まさかGMと共謀していたとは……。
───以降、ユニバース内でルーク・ハーヴェストの姿が見られることは永遠になかった。
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