第59話 破導受けと必殺技
「……っ!! やったで! 今の見た?」
ヌルとの戦闘中、ノ・ヴァが飛び上がらんばかりに喜ぶ。
高速で振り下ろされた触手に対して、ノ・ヴァは破壊のエネルギーを打ち合わせる事で、攻撃の威力を対消滅させることに成功したのだ。
盾で言うところのジャストガード、パリィと呼ばれる技術である。
ヌルは表面上は、彼女が自分にダメージを打ち消したことを共に喜びつつ、内心は別のことに驚いていた。
ノ・ヴァはユニバースではトップクラスのプレイヤーだという。そして彼女は幾度の敗北を経てようやく触手を防ぐことが出来た。
では初見でヌルの攻撃を受け流したピースフルは一体何者なのだろうか。
先日の時点で彼のレベルが150に達していない以上、今後さらに強くなるに違いないし、今もどこかでヌルへの対策を練っていることだろう。
ヌルは
「………」
そんなヌルの様子を察したのだろう。
ひとしきり喜んだノ・ヴァとダイダロンがヌルを覗き込むようにして顔色を窺っている。
ヌルに顔はないが、触手が力なく下がっていて、何かしら思い悩むところがあると告げている。
「どないかしたん?」
「ダンナ、気分でも悪いのかい?」
ここでヌルは打ち明けるべきか迷う。
ノ・ヴァがジャストガードを成功させるまでに自分と何戦もしたのに、ピースフルの方が圧倒的に技術力があると告げてもよいものか。
彼女のプライドを傷つける可能性だってあるだろう。
しかし、現実世界は別として、ノ・ヴァの方がピースフルとの付き合いは長いはずである。
そんな彼女であればピースフルの強さの秘訣を知っているかもしれないし、彼女に相談する事でヌル自身もピースフルへの対策を積むことが出来るかもしれない。
理論的な思考の結果、素直に打ち明けることにする。
「実は…」
ヌルがピースフル対峙した時の様子、そして触手を簡単に叩き落とされてしまった事を話す。
彼の心境としては重い空気の話題となるだろうと思っていたのだが、返ってきた言葉は明るかった。
「なーんや、そんなん当たり前やん」
「ガハハ。あんだけ戦闘力のあるダンナにも知らねぇことがあるもんだな」
あっけらかんとした二人の態度にヌルは呆然とするが、ノ・ヴァが気にせず話し始める。
「あんな、ジャスガって要するにガードやんか? 盾を使ってるかどうかで難しさが全然ちゃうねん。例えば…せや。
ウチがこの、いかにも盾!っちゅう盾を装備してジャストガードしたるから、ニイさんはもっぺん攻撃してみてもらえるか?」
ノ・ヴァは右手の装備をバックラーに切り替えて、わかりやすくヌルに見せつける。
ちなみに“ニイさん”とはヌルの事で、ノ・ヴァは上司である魔王を呼ぶのにしっくりくる呼び名を模索中である。
彼女の意図をなんとなく察したヌルは、無造作にノ・ヴァ目掛けて触手を振り下ろす。
触手はかなりの速度を伴っていたが、ノ・ヴァに当たる前にパキィン…ッ!と音がして弾かれる。
「おお…」
適当な攻撃とはいえノ・ヴァは易々とジャストガードを成功させてしまう。
しかも、受け流しきれなかったダメージの分だけノ・ヴァのHPが減少していることから、一級品ではない普通の盾である事が分かる。
「この盾はジャストガード向きやねん。コイツのサポートがあれば今の腰の入ってないニイさんの攻撃くらいなら、ちびっ子野球のボール打ち返すくらい簡単にタイミングが掴める。
でな、逆に盾を使わんとニイさんの攻撃に対応するんは、鉄砲のタマを鉄砲のタマで撃ち落とすくらい難しなんねん」
「…いや極端すぎるでしょ」
「いやいやコレがマジなんよ」
「大マジだぜダンナ。盾なしでジャストガードなんておかしなことするのは野球で言やぁバットなしで打席に立つようなもんだからな」
例えが野球なのは置いておくとしても、2人揃ってそう言うなら納得せざるを得ない。
その話を理解したヌルだったが、新たな疑問が生まれる。
「だとしたらノ・ヴァさんは、銃弾を銃弾で撃ち落とすような難易度の高い防御をあえて選んでいるって事になると思うんですが、それはどうしてなんですか?
あまねくさんから少し聞いた事がありますけど、ノ・ヴァさんは俺と同じく両手にバリアを装備しているタイプの格闘型ですよね?
そのバリアを使えば今のようなジャストガードは可能なだと思うんですが」
「へぇ! ニイさんもダブルバリアやったんか、後でどんな盾使うとるか性能を見せてもらうとして……。なんでウチがバリア盾をやらんと無茶な戦い方をしよるのかって話やんな? 答えはコレや」
ノ・ヴァはビッと人差し指を立てる。
その指先には黒いモヤが滞留しており”破壊のチカラ”すなわち高出力エネルギーが集まっている事がわかる。
「コレは“攻撃そのもの”や。触れればダメージが入るし、敵に流し込めば大ダメージ間違いなしのエネルギーちゅうゴツいパワー。
おそらくやけど、このユニバースで一番高いダメージを出せる属性がこの“破壊”属性の攻撃なんやと思っとる」
ノ・ヴァはコロシアムの機能を使用して、腕試し用の小型ブロックを召喚すると、指先で触れる。
接触面から小さく時空を破るようなエフェクトが表示されてブロックが割れる。
ヌルはそれが自身もよく使う“圧縮合成”のエフェクトと同系統のものであると悟り、確かに“破壊”属性の威力について同意する。
「でな、ウチはこのエネルギー自体を武器として戦う方法を練習中なんやけど、面倒なことに、この“破壊のチカラ”はウチ自身にもダメージがあるんよ」
ノ・ヴァは証拠と言わんばかりに、再度“破壊のチカラ”を指先に纏わせる。
しかし、今度はヒビ割れのエフェクトが指先に表示されてノ・ヴァにダメージが入る。
破壊のチカラからダメージを受けた、という事だろう。
「コレな、いつもはウチがダメージを受けんよう“破壊のチカラ”のコントロール専用にカスタマイズしたバリアを使こうてん。だから、いきなりこのバリアをジャストガード用に切り替える事はできひんのよ」
「…なるほど。そう、なんですね」
一応の答えを聞いてヌルは理解の姿勢を見せるが、腑に落ちていない様子であった。
「ふふふ、ニイさん分かるで。おかしいなぁって思っとるんやろ?」
ノ・ヴァがまだ説明は終わってないという顔でニヤリとする。
「この“破壊のチカラ”を使って難しいタイミングでわざわざジャスガするより、バリアだけ使ってジャスガした方がはるかに安全で簡単やのに、なんでそうせんのや?って。
ニイさんの顔に書いてあるわ」
ヌルに顔はないが、ヌルの考えている事を確かに言い当てる。
未だ戦闘能力ではあまねくに及ばないノ・ヴァであるが、短期間でヌルの感情の機微を察せるようになったという点は、確実にあまねくよりも勝っているだろう。
一匹狼で知られていた四天王はヌルの心を察せるようになるまで、一カ月近くも時間がかかったのだから。
「ウチの目指す“破壊のチカラ”スタイルの完成系はな、単に防御で終わるような、そんなチャチなモンとちゃうねん。
ゆうても、口で説明するよか見せた方が早い。
物は試し、おっさん、ウチにハンマー撃ち込んでくれるか?」
ノ・ヴァがダイダロンに首を向けて「来い来い」と手で合図する。
普段のダイダロンなら断っただろうが、彼女の行いがヌルの疑問に答えるという目的につながる事から了承する。
ダイダロンが棒の先に鉄球のついたハンマーを取り出す。おそらく壁を破壊したりする用途で使われる道具だが、攻撃をわかりやすく見せるためのデモンストレーションという事だろう。
「ふんっ!」
掛け声とともにノ・ヴァの頭目掛けてハンマーが振り下ろされる。
それに対しノ・ヴァが額の前で両手首を交差させた姿勢を取る。同時に彼女の手を黒いエネルギーが包み込む。
そしてそれらが接触する。
「あっ!」
ヌルが驚きの声を上げたのは、攻撃したダイダロンのHPが大きく減ったからだった。
動体視力も強化されているヌルには何が起こったのかがよく見えていた。
ダイダロンのハンマーが触れる瞬間、その勢いが“破壊のチカラ”に吸収された。
それどころか“破壊のチカラ”がノ・ヴァの両手からハンマーを伝って、攻撃者であるダイダロンにダメージを発生させたのだ。
「おぅおぅ、容赦ねぇなぁコイツぁよぅ」
ダイダロンがメニューとHPを見つつ、自身の損傷具合を確かめる。
ログには相当のダメージが表示されているが、ダイダロンはタフさも売りにするプレイヤーであるため、致命傷にも慣れた様子であった。
それを横目にノ・ヴァはヌルへと向き直る。
「見ての通りや。ウチはコレを“破導受け”って呼んどる。この能力を使ったジャストガードは、相手に破壊エネルギーが逆流してダメージを与えるものなんよ」
「…なるほど。攻撃時に反転してダメージを与える以上、攻撃側が防御するのは不可能ですし、見たところダメージも高いようですね」
ヌルは腕組みをして納得を示す。
彼女の目標があまねくへの勝利である事を考えれば、この戦法の有用性は明らかだろう。
あまねくは攻撃しかしないのだから。
…もっとも、新武器『写術帝の幻刀』の仕組みを理解しないとノ・ヴァ不利は変わらない。
ヌルもあまねくが『写術帝の幻刀』を使っているのは知っているが詳しくは知らないので、この時点でノ・ヴァに対して具体的なアドバイスは持っていない。
とはいえ、触手の速度に対応してガードできたのであれば、ユニバースではほとんどの攻撃に対応できるということになる。
彼女の目指すビジョンがようやくヌルにも見え、その事にノ・ヴァは満足そうに頷くのだった。
──それは、なんとなくノ・ヴァが質問したことから始まった。
丁度ひと段落して、今後の予定を擦り合わせようというタイミング。
「そういえば、ニイさんの必殺技ってどんな攻撃なんや?」
「うん?」
ノ・ヴァにとっては普通の話だったが、ヌルにとっては覚えのない話題であった。
「だから、必殺技や。魔王ともなればごっついヤバいの持っとるんやろ?」
「そいつぁ、俺も見たいと思っていたトコロだぜぇ。ダンナ、どうなんだい?」
「勿体つけんと見せてほしいわ。まぁ切り札やしどうしても無理ならええけど…」
ヌルは依然として質問の意図が理解できなかったが、一応の答えを口にする。
「別に勿体つけているつもりはないですよ。
この“圧縮合成”というスキルが自分の必殺技です。…何度か見せてますよね?」
ヌルは腕試し用ブロックを拾って握り締める。
拳を中心としてエフェクトが発生し、粉々になったブロックが砂のように流れ出る。
ノ・ヴァは改めて見る圧縮合成の威力に目を輝かせつつ、続きを促す。
「うんうん。そのスキルを…どうするん?」
「…? 使いますけど?」
「そりゃそうやろうけど…どう使うん?」
「?」
「?」
お互いに相手の意図している事が分からず、首を傾げてしまう。
二人の認識には相違があった。
ヌルは必殺技とは決め手として使える高威力のスキルの事であると認識していたのだが、ノ・ヴァが言っている必殺技は別のモノを指している。
ユニバースでプレイヤー同士の会話で使われる「必殺技」とは「スキルを元にしてオリジナルの戦法・技術を編み出す」ことを言う。
例えば、ノ・ヴァの“破導受け”はまさしく必殺技と呼べるだろう。
身体から“破壊のチカラ”を放出する「崩震撃」を
ヌルで言うとすれば触手を使った超高速の変則軌道による立ち回りが当てはまるだろう。
もっとも、あの技術はスキルを使用していないため、明確には必殺技ではないが。
ヌルとノ・ヴァは互いに頭に疑問符を浮かべたまま会話を続けていたのだが、何かを察したダイダロンが「もしかして必殺技の意味を勘違いしているのではないか?」と発言したことにより、二人は正しい会話を取り戻した。
「──つまり“破導受け”はウチの必殺技で、組み合わせたスキルは三つほど。
同じスキルと装備があれば他人でもマネできるとは思うんけど、ウチと同じレベルで反射できる神経がないと成功せんから、実際にやれる人は殆どおらんやろうな」
「なるほど……」
「そういう意味では、ニイさんは能力値からして他にマネできる人がおらん一品もののパラメータや。どんな隠し球持っとるんか興味あったんやけどな」
「俺もだ。けどダンナは自分で編み出した技は特に無いって事だよな?」
「ええと、自己流でスキルを使うようなことはあったかもしれませんが、意識して使っているわけじゃない…ということになりますね。
ノ・ヴァさんのように目標となる人物を倒す目的で技術を磨いたようなことは今までなかったので」
「そいじゃあ、打倒ピースフルを目指す今が初めての機会って事かい? だったら、せっかくだしよ、この後の時間をダンナの必殺技を編み出す修行にしねぇか?」
ダイダロンが思いがけない提案をする。
ヌルは「ふむ」と考え込んだ。
行動決定権はヌルに委ねられているのだが、これはメリットとデメリット両方を持つ提案である。
“この後の時間”とは、本来の目的だった領地獲得のためのダンジョン攻略に充てる時間という意味で、それを取り止めて、ヌルの修行に充てるのだという。
ヌルの強化のために今日の予定を切り替える事が魔王軍にとってどう影響するか。
「ウチはええよ。“破導受け”は一応の完成を見れたし、ニイさんに任せるわ」
「そりゃそうだろうよ。当然のことを言わねぇでも俺は元からダンナに聞いてんだ」
ヌルはそんな2人を見つつメニューを開く。
フリーメモの機能に、ハチコが今後の指針を資料として残してくれている。
領域獲得も、四天王たちの『守護の間』作成も、一日で完了できるほど簡単な内容でもないだろう。
今、ヌルのために時間をかけるのは、むしろ建設的な考え方と言える。
そう考えれば、ヌルの出す答えは一つだ。
「そうですね、では自分の修行の付き合っていただければと思います」
そう返したヌルに、それぞれが同意する。
こうして始まった必殺技を編み出す修行だが、実際に何をすればいいのかヌルは見当がつかなかった。
しかし、ありがたい事にダイダロンが方法を提案してくれる。
「俺に考えがあるんだが…ちょいと試してみてもいいかい?」
「ええ、もちろんです」
ヌルの同意を得てから、ダイダロンはコロシアムの設定を調整した。
「コロシアムの特殊機能を使って、嬢ちゃんのジャストガード性能を最大まで底上げしたぞ」
そう告げたダイダロンの言葉通り、ノ・ヴァの頭上には特殊強化中という見慣れぬ表示が追加されている。
「今の嬢ちゃんは盾を持ってなくても、盾装備と変わらん状態にしてあるからな、ダンナの攻撃をほぼ100%“破導受け”で返すことができるハズだぜ。
…見ていた俺が言うのもなんだが、嬢ちゃんの“破導受け”はよく出来てる。防御系必殺技に限って言やぁ一つの
つまり、だ。
ダンナはどうにか
もし、成功すりゃあ防御の完成系を潰せるような必殺技だ、あのピースフルにも通用するに違いねぇ」
「なるほど…!」
「なんでウチの“破導受け”が破られる事前提で話しとんねん! 攻撃全部防いだるわ、見とけ!」
ダイダロンの提案が現実的であり、納得のいく内容であることにヌルは感心する。
また、ノ・ヴァが憤りを見せていることが、その意見の正しさを物語っている。
プンプンと怒るノ・ヴァが両手に破壊のエネルギーを宿す。
「ウチの腕前見せたる! どっからでも来いや!」
その言葉を皮切りにヌルとノ・ヴァの戦闘が開始される。
試しに触手を8本ほど、2本は囮で残り6本どれが当たっても次の攻撃の起点となるように打ち付ける。
先程までは触手5本を基本にしていたので、普段のノ・ヴァであれば捌くことは不可能だろう。
「甘いわっ!」
触手が届く瞬間、タタタタ…とフラッシュ撮影のように一瞬ごとにノ・ヴァの姿勢が変わって全ての触手をたたき落とす。
それぞれ“破導受け”による完璧なタイミングでのカウンターだったために、ヌルはダメージを受ける。
触手の先のビリビリとした感覚に新鮮な感動を覚える。
「おお…」
ダメージは僅かであるし、コロシアムの設定でHPは即座に回復するのだが、確かに先程のノ・ヴァに比べて強敵な印象を受ける。
改めてヌルはあまねくを相手するように攻撃を仕掛けることにする。
全ての触手を使う。
叩きつける攻撃と共に何本かはフェイント、数本は攻撃すると見せかけてノ・ヴァに巻き付いて拘束する動き。一本でも拘束が成立すれば即座に圧縮合成を打ち込む。
そして、本体は常に跳躍して相手の背後を取ろうと動き回る。
実際、あまねくであれば、異常な勘で攻撃しない触手を受け流して別の触手に当ててくるし、最近は3箇所までなら完全に同時に攻撃しても受け止めてくる。
“あまねくなら対応してくる”。
それを念頭に置いて攻撃したのだが、アッサリと圧縮合成が決まり、ノ・ヴァを倒してしまった。
消滅から復活した直後。
「ちゃう! ちゃう! そうやない!」
ブンブンと手を振ってノ・ヴァが否定する。
「ダンナァ、今のは確かに違う、そういう勝ち方じゃあねぇんだ」
ダイダロンもやれやれという顔をしている。
「えぇ…」
ヌルはなんとも腑に落ちない態度を見せる。
勝ったのに間違っている…無効試合と言われればこんな反応にもなろう。
「ニイさん、今のは“戦略”やねん。ウチらが目指しているのはそういうのとちゃうんよ。
あんな動きされたら確かに必殺技と呼べるかもしれん。そりゃ誰も対応できへんよ? でもな、ウチらは──」
「あまねくさんには防がれましたよ?」
「は?」
「うん?」
何かおかしな言葉を聞いたと固まる2人。
そんな反応が面白かったので、ヌルは証拠としてコロシアムのメニューから一本の動画を読み込む。
前回あまねくと修行した時のものだ。
「コレ、こないだ闘った時の動画です」
「なんやて!?」
「ちょ、ちょっと見せてくれ!」
ヌルの胸元に表示されたメニューを食い入るように2人が見つめる。
確かに動画の中ではあまねくは攻撃をいなし、躱し、受け止めることで生き残る。
ヌルの動きをどうにか攻略しようと全力を出し尽くし、ヌルも容赦なく攻撃を浴びせたところで手数の差に無理が生じてあまねくが被弾する。
その一連を写した動画だった。
短い時間を切り取ったものだったが、説得力は抜群だったようで、2人は顔を見合わせている。
「……もっぺん見せてもらってもええか?」
「ええ、まぁ」
もう一度同じシーンを見せる。
2人は再び凝視する。
それを見終えて顔を上げたノ・ヴァ。
不意に目が合ったヌルは、彼女の眼が燃えている事に気づく。
「ウチらが……間違ってたわ」
隣にいたダイダロンも同調する。
彼もまた何かに燃えている様子だ。
「そうだな。たかだかジャストガードに補正をつけたごときでダンナと渡り合えるって思っちまった。アンタは世界最強、そのレベルに合わせるんだったらこっちも最強にしなきゃなんねぇ」
そう言ってコロシアムの設定を調整し始める。
そのメニューにノ・ヴァが横入りする。
「待ちい。ウチが操作する。……ニイさん。
今からウチはピーさんの必殺技をウチに再現して戦ったる。それを余裕で倒せるくらいになって初めてニイさんの修行になる…と思う」
ピースフルの必殺技と聞いてヌルは反応する。
「ピースフルの……」
「せや。あまねく兄ぃも、いいや、今まで誰1人として打ち破った事のない必殺技やで」
言いながらノ・ヴァは自身のパラメータに数倍の補正を設定し始める。
「ピーさんは“本気モード”なんて呼んどるけどな、ウチらはこう名付けたんよ…」
ノ・ヴァが入力を終えると、彼女にパラメータ補正と様々なバフが大量にかかる。
「…“究極英雄”」
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