第57話 強者の理論

ダイダロンとノ・ヴァと共に、岩石地帯を訪れたヌル。勇者の軍勢とのラストバトルに備え、修行のために来たはずだったのだが、実際に始まったのは恋愛相談だった。


そして今、ダイダロンとノ・ヴァは向かい合って戦闘姿勢をとっている。

「ガハハ…。嬢ちゃんの読み違いだな」

「ナンボ喋っても、正しいのはウチやで?」

この二人はヌルへの恋愛アドバイスの是非を巡って討論となり、決着がつかなかったためにバトルによって決着をつけることにした。

修行するために来ておきながら、恋愛相談が開始され、その是非を決めるために結局戦闘を行うという不思議な理論で一周回って元に戻ってきていた。

因みに、ダイダロンはヌルの話を信じ切っているために、後一押しすれば告白は成功するのだと主張している。

一方、ノ・ヴァはヌルの話を都合のいい妄想と決めつけているために、必要なのは完璧なデートプランとアピールに適した言葉だと主張した。

ヌル自身はアドバイスがもらえるだけでありがたいため、2人の行動については流れに身を任せている。


「アンタとウチ。相性最悪なのは覚えてるんか?」

「……昔すぎて忘れちまったよ」

言いながらダイダロンはメニューを操作してノ・ヴァに占有状態を申請する。

決闘の申し込みである。

上級者同士のであれば、わざわざ闘技場を予約するまでもないため、現在地を中心とした一定範囲を戦場として定める。

ノ・ヴァは届いた申請内容をみて失笑する。

「ルールは範囲100mだけ…? あは…アンタ…ハンデ無しでウチに勝つつもりなん? ダイスロールの方がまだ勝率高いんとちゃう?」

煽るノ・ヴァだが、確かに彼女の言葉通りであり、この二人の戦績はノ・ヴァが23戦19勝と圧倒的優位に立っている。

これは二人の戦闘スタイルの差に起因する。

元々のダイダロンの戦闘スタイルは、全身鎧フルメイルで防御を主体にして戦うものであり、相手の攻撃に合わせて防御を固める事で反動ダメージを与えるのが基本の戦法である。

しかし、ノ・ヴァは破壊のエネルギーを直接扱う能力を持っているために防御が通用しないのだ。

噛み合わせが非常にノ・ヴァに有利に働いているため、彼女の反応も当然と言えた。

「さっさと承認を押しやがれ」

ノ・ヴァはダイダロンの態度から、何か秘策でもあるのかと怪しむが、戦えばわかることであるため、特段気にした様子もなく申請を受け入れる。

──実のところ、この時点でダイダロンの作戦は始まっていたのだが。


二人の正面にカウントダウンが表示される。

その様子をヌルは若干ワクワクしながら見守る。

自分の恋愛相談の結果がどうなるのかについては勿論注目すべき点なのだが、自分以外のプレイヤー同士が戦う姿を純粋に眺めるという経験が殆どないのだ。

ダイダロンはヌルに感化されて戦闘スタイルを変えたという話をしていたし、あまねくの推薦を受けるほどの実力者であるノ・ヴァの戦いにも興味がある。

双方が自信満々な様子で対峙するのを眺める。


カウントダウンが満ちた時、最初に動き出したのはノ・ヴァだった。

ダイダロンに向かって歩きながら両手を広げると、全身を包むように光が放出される。

光は波のように両手に向かって流れると、手のひらに向かって収縮しはじめる。

やがて全ての光が手に収まると、グッと手を握り込む。

そしてダイダロンに向かって駆け出した。

一方、待ち受けるダイダロンもカウントダウンがゼロを刻むと同時に、見えないバーベルを掲げるように両手を空に突き出していた。

その瞬間ダイダロンの全身鎧が変形して、中世の騎士のようなデザインだったものから近未来的なパワードスーツに姿を変える。

デザインは大きく変わったが、さらに目を引くのは両腕であり、実質的な体積が元々の鎧から比べて3倍ほど巨大化している。おそらくヌルの腕と比較しても太く大きいだろう。

そうして姿を変えたダイダロンは相撲のように腰を落として両手を前に突き出した姿勢でノ・ヴァを待つ。

ノ・ヴァは両手をだらりと下げた姿勢でダイダロンに接近すると、ギリギリ掠るほどの距離で巨大化した腕の内側を潜り抜ける。

そして心配蘇生のような所作で両手をダイダロンの胸の中心へとあてる。

「挨拶代わりや、崩震撃!」

ノ・ヴァが触れている箇所を中心として時空が割れるようなヒビ割れのエフェクトが発生する。

ノ・ヴァは手を充て続けて、そのエネルギーが拡散せずにダイダロンの内側で留まるように操作するが、巨大な右手がノ・ヴァの左腕を掴んで自分から引き剥がす。

「させるかっ!」

「遅いで! くらいやっ!」

ノ・ヴァが指をパチリと弾く。

その瞬間、収縮していた光がシャボン玉のように小さな球に変化するとダイダロンから溢れ出す。そして光の球が弾けて小規模な爆発が連続して発生する。

ドドドド…と爆発の連続がダイダロンを襲う。

「ぐぅおぉぉぉっ!!」

「防御一辺倒のアンタには抜群の威力やで!」

満足そうに笑みを浮かべるノ・ヴァ。

彼女の攻撃は防御力を無視することができるため、発動を阻止しなければ大ダメージとなってしまう。

攻撃をフルヒットで受けてしまったダイダロンは爆発のエフェクト効果だろうか口から煙を吐く。HPは残り4割にまで減少しており、初手から不利な状況となってしまう。

ヌルは二人の様子を見て、自分も破壊のエネルギーを操る術を獲得できれば、ピースフルにダメージを与えることができるかもしれないと考える。

(俺も習得できるようなら、後であまねくさんかノ・ヴァさんに相談してみようか? 

…待てよ、仮にそれが有効な方法なら、もっと早くあまねくさんが提案してくれているはずだよな? あまねくさんはピースフルに有効な手段に辿り着いたって言ってたっけ…)

そういえば…と考え始める。

そんなヌルの思考を遮ったのは意外にもダイダロンだった。

爆発によって上体を仰け反らせるも、その表情がまるで勝ち誇るように不敵な笑みを浮かべていたからだった。

その理由をダイダロンの右手に見る。

HPの半分以上を失うような大ダメージを受けたにもかかわらず、右手は変わらずノ・ヴァの左腕を掴んだまま離さなかったのだ。

(……いや、違う…、あれは掴んでるんじゃない)

ヌルは強化された視力によってダイダロンの右手が変形している事を視認する。

ヌルに遅れて、当事者であるノ・ヴァも気付いたようであった。

「なんやコレ!?」

ダイダロンの巨大化した手は、ノ・ヴァの腕をすっぽり覆えてしまう程に大きい。

その指先が手のひらと融合してリング状になっており、巨大な手錠のようにノ・ヴァの腕を拘束しているのだ。

正確にはパワードスーツがそのように変形していて、ダイダロンの手そのものは元々の大きさなのだが、ノ・ヴァが左腕が捕まっている事に変わりはない。

「ガハハ…。俺の…勝ちだァ!」

そう叫んで、ダイダロンは両手でバンザイするように両手を天に掲げる。

当然、左腕を拘束されたノ・ヴァも同じように片方の腕が空に向く。

そんなダイダロンの様子にノ・ヴァが腹を立てる。

「アホ言いなや! どう見てもアンタの負けやろが!」

ノ・ヴァの言う通り、ダイダロンは腕を拘束しているだけでHPが回復したわけでもなし、状況は有利とは言えないだろう。

それはヌルも認めるところだったが、ダイダロンはニィっと口を歪ませると、空を見上げる。

「外・装・変・形!!」

そう叫んだ。

その瞬間、ダイダロンの肘あたりの装甲が開き、ロケットブースターが出現する。

さらに腕の骨格をなぞるように小さい羽が出現する。

「おおおおおおおっ!!」

という雄叫びはヌルのものである。

男の子はいつだってメカの変形と合体が好きなのだ!

「必殺ロケット・パンチ!!」

ダイダロンは、それこそロボットアニメの必殺技の如く、高らかに宣言する。

そして、ゴゴゴゴ…という轟音と共にロケットブースターに火が点いた。

そしてそのままバシューーーーッンとダイダロンの肘から先が上空へ向けて射出される。

もちろん、拘束されたままのノ・ヴァを捕まえた状態で。

発射した側であるダイダロンはアームパーツを切り離しており、本人は今だ地面に足をつけたまま健在であるのに対して、ノ・ヴァと彼女を拘束した腕の装甲だけが猛スピードで上昇していく。

「うぉわああああぁぁぁっ!」

いつか見た光景をリピートしたかのような有様に、ダイダロンは満足げに頷く。

そして、今度は左腕の装甲を変形させて、手首の内側から機関銃を出現させる。

そのまま腕を上空に向けて、ブースターによって上昇中のノ・ヴァへ追撃を図るように銃弾を放ったのだった。



突然自分が打ち上げられてしまった事に動揺を隠せないノ・ヴァだったが、それはそれ、歴戦の英雄は対応力も一級品なのだ。

「くらうかい! “鋼身術-爆-”」

ノ・ヴァの体が銀色のオーラに包まれる。

これは次に受ける爆発系のダメージを極端に減らす効果であり、彼女はダイダロンの腕パーツが超高威力の爆弾であると判断したからであった。

爆弾を主武器とする場合、敵に確実にダメージを与えるのに有効な手段は、敵に爆弾を貼り付けてしまう事だろう。

ダイダロンは種族・職業的に足の速い構成ではないため、自分が爆発に巻き込まれないようにするには相手を遠ざける必要がある。

ゆえにロケットブースターによって自分を打ち上げる事で遠ざけたのだろう。……と彼女は考察した。

そしてその考えを裏付けるように、ダイダロンから追撃の銃弾が放たれている。

“鋼身術”を解除するために弱い攻撃を当てようとしたのだろう。

「アホかい! 空中では回避ができないから無防備だとでも思ったんか!?」

今もブースターは起動中で、左手を掴まれて釣り上げられている姿勢なのだが、片手を封じたくらいで弱体化するほど彼女は弱くない。

彼女は武器を持たない戦闘スタイルである。

それはつまり、全身が武器なのだ。

空間歪踏脚イマジンスタンプ!」

何もない場所を右足で踏み抜くと、その場所を中心として空間が圧縮され、足元に半透明なバリアが床として現れる。

空中に床を作りだしたわけだが、彼女は現在もブースターで上昇中であるため、そのバリア床は空中に置き去りになる。

それでも追撃で放たれた銃弾は全てバリアに弾かれノ・ヴァに届くことはない。

ダイダロンに向かって叫ぶ。

「こんな弱っちい豆粒じゃあ、ウチの脅威になんぞならんわっ!」

既に声の届かないくらいに離れているため、独り言ではあるのだが。

「…あとはこの邪魔なロケット花火をぶっ壊すだけやな…! てぇいっ!!」

爆発ダメージへの耐性が残っているうちに強制的に爆破させてしまおうと、左腕を拘束しているダイダロンのアームパーツを攻撃した。



ダイダロンはズーム機能のあるゴーグルを装着して上空を見上げ、囮として撃ち込んだ弾丸が防御される様子を眺める。

そして、ノ・ヴァがアームパーツに攻撃したのを確認し「勝った」と呟いた。

「え? どういうことですか?」

その様子をヌルが不思議そうに眺め、真意を問うと、ダイダロンは得意満面といった様子でヌルに振り返ったのだった。

「ガハハ。実はな……」



上空ではノ・ヴァが狼狽えていた。

「なんやコイツ!? いきなりエライ加速しよったで…!」

アームパーツを攻撃した直後、ブースターが勢いを増して上昇速度が急激に上がったのだ。

どんどん地面が遠のいていく。

爆発を予想していたのに実際にはダメージすらなく、肩透かしをくらったようである。

敵の意図がわからず、ノ・ヴァは苛ついた様子を見せる。

「何がしたいんや! ぐぬぬ、しゃーない…」

ダイダロンの置き土産のアームパーツを凝視する。

アイテム鑑定を行うのだ。

武器や防具は持ち主の手を離れてしまえば偽装効果が解除されるため、鑑定することが可能になる。

戦闘中に一箇所を凝視し続ければ大きな隙を晒す事になるが、彼女の周囲に敵がいるはずもないため実行に移す。

「…なんやコレ!?」

彼女の鑑定結果では、ダイダロンのアームパーツに付与されている能力は『受けたダメージを推進力に変換』というものだった。

ダメージを受けるほどにブースターが強化される、という事だろう。

自分が加速している状況の説明はついたが、この状況を用意したダイダロンの狙いが全く読めないままだ。

あと数発攻撃すればアームパーツを破壊できるはずだが、それがダイダロンの狙いの範疇であるかも判別できない。

もはや豆粒より小さくなったダイダロンを見据える。

状況を客観的に判断し、ノ・ヴァは一応の結論を出す。

「…やっぱり落下ダメージ狙いか? だとしたらナメられたもんやなぁ!」

体術もエキスパートであるノ・ヴァであれば、いくつかのスキルの組み合わせによって着地の衝撃を完全に殺すことだって出来る。

単純な落下ダメージは彼女の脅威にはならない。


──そんな時だった、彼女のメニュー、ログメッセージに赤い文字が表示される。

『警告:範囲限界付近です。ただちに戦闘可能エリア内に戻ってください』


「え……」

ノ・ヴァはその文章の意図することが何であるかに思い当たり、サーっと血の気が引いて青い顔をする。

「まさか…マズい! マズい! マズい!」

ノ・ヴァは自身にダメージが入ることも気にせず、渾身の攻撃で左腕ごとアームパーツを攻撃する。

攻撃を加えるたびに上昇速度がどんどん増していくが、気にせず壊し切るまで続行する。

そうしてアームパーツを破壊し、腕の拘束が解除される。しかし、既に乗ってしまったは止められない。

「ああ、あああ…」

この戦いの範囲はダイダロンが半径100mの球体として設定して占有状態を申請している。

通常、試合の申請をする際にわざわざ高さに制限は付けないが、ノ・ヴァはその情報をダイダロンが横方向に逃げ回ると見下して判断してしまい、特に警戒する事なく了承している。

まさか上方向へのリングアウトを狙われるとは夢にも思わず油断したことが、今の彼女を作り上げたに等しい。

「何か方法はないんか……っ!?」

無くした財布を探しような心持ちで、状況を立て直すのに有効な手段を探る。

「アイツここまで読んで…!」

ユニバースには空中で移動するアクションはそれなりにあるのだが、上方向の登る移動が殆どだ。

下方向に加速する技は滅多になく、ノ・ヴァは習得していない。彼女と戦ったことのあるダイダロンはそれを想定していたのだろう。

どうにか動きを止める方法を考えるが、その間にも、メニューは無慈悲なテキストを表示し続ける。

『警告:戦闘範囲外まで……3m……2m……1m』


ーーーーーーーー


「クソっ。こんなん…こんなんウチは…! マトモにダメージも食らわんと終わるなんて!」

ノ・ヴァが激しく不満をぶつける。

それをダイダロンは無表情で聞き流す。

戦闘が終了したことで地上に転送されたノ・ヴァのメニューには、『戦闘可能エリア外へ離脱したため、バトルを棄権、終了しました。』とある。

過程がどうあれ負けは負けである。

「うぐぐ…」

元々、ノ・ヴァは自分の技術とスキル、カスタマイズされたパラメータに自信と誇りを持っていた。山ほどの鍛錬を積み、ユニバース屈指の強者となり、最強のギルドの一員として活躍してきた。

しかし、どんなに経験を積もうが、技を磨こうが師匠である“あまねく・わかつ”には及ばなかった。

果てには禁忌と呼ばれる「メタ装備」斬撃無効まで持ち出したのに、あまねくは膝を折ることも刀を捨てる事もなくノ・ヴァに勝利してみせた。

打ちのめされた彼女へ追い討ちをかけるように、今度は格下だと思っていたダイダロンにまで負けたのだ。

それも、今までとは全く異なるアプローチによる決着……それも自分が勝つのではなく相手を負けさせる戦法を使用された事。

本来なら自分があまねくに対して見せるべき正解だった“工夫”をまざまざと見せつけられた。

戦法に固執して誇りを捨てた自分と、勝利だけを求めて戦法を捨てた相手。

そんな図式が頭の中で出来上がっていく。

その式の答えは相手の優秀さを証明する事にほかならないのだ。ノ・ヴァは認めたくない現実に、意図せずダイダロンに掴みかかる。

「アンタっ……!」

食ってかかったが、その先の言葉が続かない。

『こんな勝負で満足なのか』と『こんなのは負けではない』と言い張るのは簡単だ。だが、それでは彼女は永遠に自分の弱さと向き合うことはできない。

自分でも薄々わかっているのだろう。

しかし、だからといって肝心な一言である『どうすれば強くなれるか?』という問いが口にできない。

ダイダロンの鎧へ縋り付くように掴んだままノ・ヴァは言葉に迷う。

つまらないプライドだけがいつまでも邪魔をする。

その状況を見かねたのだろう、ダイダロンがノ・ヴァの手を払いのけるでもなく、かと言って諭すでもなく、朗々と独り言を話しはじめる。

「俺ァよ…鰹節同盟のトップだ。俺らのギルドは、どっかの英雄様ほどじゃねぇにしろ、上位ギルドとして名前が上がる。

だが実際には、営業して、宣伝して、悪名含めてようやくギリ一流ってなもんだ。これはあれだわな、ぶっちゃけ、俺様の力不足よ。

子分どもに満足いく活動をさせてやれねぇ俺の不甲斐なさに涙が出るってもんだ。

そんなもんでよ、魔王に会える可能性があるってわかったときにゃあ、無茶でも博打でもなり振り構わず食い込んでやるって意気込んだのさ」

ヌルはダイダロンが初対面の時に、絶対に無視できないタイミングで挑戦してきた事を思い出す。

口調や態度から粗野な人物と捉えがちだが、ハチコから嘱望されるほどに事務処理能力や情報処理に長けている。

計算高く自分とギルドをアピールできる機会を窺っていたという事だろう。

では、自分に従う姿勢を見せたのも計算なのかとヌルが考え始めた頃、ダイダロンの顔が輝き、溌剌とした笑顔にかわる。

「俺ァよ、この人にボコられて…視野が狭かったことに気付かされたんだわな。

うまいとこ鰹節同盟のプロモーションをできる環境を作りながら、戦闘面は防御メインっちゅうの成果を担保できるやり方で十分だと思ってたんだがよ…。

そんな細けぇ事を何もかもぶち壊して──」

ダイダロンはヌルによって目を覚まされたという旨の話を万感の思いで語り、ヌルも彼の態度が演技ではない事を知って安心した…のだが、一番この言葉の本質を見抜かなければいけない人物は解釈の仕方を間違えていた。

「つまり、アンタはこの人に負けた事で、ウチに勝つ戦法を思いついたゆうハナシなんやな?」

ノ・ヴァが不思議な結論に辿り着く。

本来、精神的に追い詰められ気味だったノ・ヴァに気を利かせて、ダイダロンが諭したはずだったのだが、残念ながら彼女はもっと浅い部分でしか理解できなかったのだ。

「あまねく兄ぃも、そしてアンタも、魔王と戦って強くなった。じゃあ、魔王は強くなるための試練っちゅう事やんな?」

ノ・ヴァはダイダロンに掴みかかっていた手を緩め、ゆっくりとヌルに振り返る。

その目に多少の狂気を認め、ヌルは寒気を覚える。

「なぁ、魔王…。ウチと…戦うよなぁ?」

「え、ええと…」

にじり寄るノ・ヴァの様子を見るに、これは戦わずにいられる状況じゃないだろうな…と考える。

元々ヌルは断る気はなかったが、ふと思い出す。

(そういや俺の恋愛相談はどうなったんだっけ? なんやかんやで毎回戦闘になるのも変な話だし、相談相手は考えた方がいいかもしれないな…。)

そう考えつつも、ヌルはいつのまにか落ち込んでいた気持ちが晴れている事に自身も気づいていないのだった。

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