第52話 全面対決②

あまねく、ノ・ヴァと対峙するダークネスシャーク、雲ちゃん、プロミネンス。

ダークネスシャークを負傷させた攻撃…あまねくの放ったそれの正体が不明だったことによって3人は警戒を強めていた。

「今の…何?」

「斬撃なのは確かだけど、見えなかった」

完全に得体の知れない攻撃というわけではなく、あまねくが何か奇妙な動きをしていることを視認している。

あまねくはダークネスシャークの銃弾を切り落とすという超人技を見せたが、使用した刀は両手に持っていたうちの片方のみ。

そして空いたもう一方の刀は舞いのような流れる動きでいる。

“究極英雄”のメンバーであれば彼と交戦経験がある。

記憶にあるあまねくはカウンター主体の待機型だったため、そのような遊びのある動きをしたことに違和感を抱かせる。

しかし、斬撃が射出されたようなエフェクトは無い。歴戦のトッププレイヤーからしても、常識の外にあるような攻撃と感じている。


そうして3人が攻撃の秘密を解き明かそうと注視する中、あまねくはノ・ヴァに質問を投げかける。

「お前、誰と戦いたいか?」

「うん?」

あまねくはノ・ヴァに意識を向けているものの、微塵も警戒を解かず臨戦態勢のまま投げた質問である。

仲間の能力を気遣った言葉に聞こえるが、しかしそれは非常に傲慢な質問である。

ノ・ヴァが誰を相手にしても残り2人を同時に相手して勝てるという自信の表れなのだから。

対等な対戦相手であれば激昂しそうなものであるが、先の攻撃を見てもわかる通り、彼がこの中で頭ひとつ抜けた強者であることは誰の目にも明らかだった。

そんなあまねくの態度に、ノ・ヴァはニヤリと顔を緩ませる。自身が慕う男の強者然とした姿に酔いしれているのだろう。

そして意地悪そうな顔のままダークネスシャークを見る。

「…シャーちゃんかなぁ。決着ついてへんし」

「そうか、なら残りは俺が始末する」

「へへ…」

究極英雄の2大アタッカーとして君臨していたノ・ヴァとダークネスシャーク。

2人は仲の良いライバルでもある。

その時々で勝ったり負けたりを繰り返してきたために、明確な優劣はついていない。

何より2人が同じ陣営であったことで、どちらが強いかに拘る必要もないと判断したことが決着をつけなかった理由だろう。

しかし、今こうして敵として対峙したのであれば、以前と同じに振る舞う理由はない。


「アンタご指名じゃん」

隣にいるプロミネンスにそう呼びかけられてダークネスシャークはノ・ヴァを見る。

昨日まで仲間だった友との戦い。

彼女はノ・ヴァの裏切りに対して半信半疑で、何か裏切らざるを得ない事情があるのではないかと心配していた。──さっきまでは。

しかし、ノ・ヴァの吹っ切れたような様子から杞憂だったと判断した。

どんなきっかけがあったのか知れないが、彼女は全てを捨ててあまねくについて行くと決めたのだろう。

風の噂によれば、あまねくは一匹狼をやめて、他者との交流を避けなくなったと聞いた。それかもしれない。

自分だってピースフルに勧誘されれば同じようにしたのだろうから。

「……そうだね」

そっけなくプロミネンスに返事をすると、ノ・ヴァを見たまま歩き出す。

ノ・ヴァに対抗できる装備として対近接戦闘モードに切り替える。

とはいえダークネスシャークの職業は『射手』であって、完全な接近戦となってしまえばノ・ヴァに軍配が上がる。

そのため、どこかで距離を離して自分の得意な射程で戦う必要がある。

周囲の瓦礫と地形を把握しながら脳内でおおよその戦闘シミュレーションを行う。

ダークネスシャークの動きに呼応してノ・ヴァも同じ方向へと歩き始める。

少し離れたところに見える広場であれば戦いやすいと見て、そこへ移動を開始する。


2人がこの場を離れる様子を見守っていた雲ちゃんが笑顔で送り出す。

「行ってらっしゃぁ───」

途中で言葉が停止する。

突如彼女のHPが0になってしまったのだから。

その向かいで、あまねくがキンと小気味好い音をたてて刀を鞘に納める。

「───はぇ?」

呆けた顔の雲ちゃんだったが、そこはそれ、彼女も歴戦の勇士の一人である。

最終詠唱ラストマジック自己蘇生セルフリザレクション

自身の消滅が完了する前に、自分を復活する呪文を使用する。

状況がわからなくても、最善の対策を無意識に行う事ができるのはトッププレイヤーたる所以だろう。

しかし、その行動をあまねくが許さない。

「させるかよ。”呪文断ち”だ」

あまねくが魔法を失敗させるスキルで自己蘇生を封印する。

「あ……」

「お前が一番厄介だからな。最初に片付けさせてもらった」

消滅していく雲ちゃんにそう投げかける。

不満げな顔をして雲ちゃんが消滅するのを見届けてから、呪文断ちに使用した刀も鞘に納める。

その一部始終を3人が同じ顔でみつめていた。

突然の出来事に開いた口が塞がらないとでも言うべき様子だろう。

やがて最初に口を開いたのはプロミネンスであった。

「不意打ちだなんてっ!? アンタ、プライドはないの?」

これは完全に負け惜しみだろう。

彼女自身、あまねくは”ヒーローの変身中に気にせず攻撃する人物”であると理解していたはずであった。

しかし、ノ・ヴァに対戦相手を選ばせる様子から、2人が戦場に行くのを見送るものだと誤認していたのだ。

ゆえに、あまねくからは当然の答えが返ってくる。

「気を抜いたほうが悪いに決まっているだろう。戦闘中だぞ、ヨーイドンで戦うとでも?」

「くぅ…」

その悪びれる様子もない答えにプロミネンスは歯噛みする。

彼女のアイドルという職業はどうあっても”ライブ”というスキルを開始しないと行動を起こせない。

ライブさえ起動していれば雲ちゃんを蘇生することもできたハズだったが、今となっては油断と呼ぶほかない。

あまねくはノ・ヴァに質問を投げた時点で、プロミネンスの準備が整う前に雲ちゃんを狙うことに決めていたのだろう。

その行動を予想できなかったことで勇者勢は一気に形勢が悪くなってしまった。

本来3人での戦術あれば、雲ちゃんが環境を整えるのに合わせてプロミネンスが全体を底上げし、ダークネスシャークが決定打を放つというスタイルだった。

仮にダークネスシャークが抜けても、雲ちゃんさえいればプロミネンスがライブを起動する時間を稼ぐこともできたはずだ。

その起点となる雲ちゃんが退場してしまった。

「援護っ!」

同盟ギルドのプレイヤーが雲ちゃんが既に落とされ、戦端が開かれたという状況を把握する。

ライブを起動できていないプロミネンスを守る意図で、あまねくへと攻撃を開始する。

「邪魔だ」

あまねくが一閃するだけで幾つかのプレイヤーが退場することになる。

仮にあまねくとノ・ヴァのタッグを抑えるのであれば、名のあるプレイヤーを集結させなければ難しいだろう。


「チィッ! そういう魂胆?」

「ウチに作戦考えるアタマあると思う!?」

ダークネスシャークが悪態を吐きながらノ・ヴァの元を離れようとするが、一度戦うと決めた相手をみすみす逃がすほどノ・ヴァは優しくない。

不意打ちに加担したことは否定しつつもダークネスシャークとの距離を保って攻撃の機会をうかがう。

「セット、チャフII、ファイア!」

「のわっ!」

煙幕とレーダー攪乱のグレネードを周囲にまき散らすように発射し、ダークネスシャークがノ・ヴァを引きはがす。

それに乗じてプロミネンスがダークネスシャークと合流する。

プロミネンスはライブを起動しようとするたびに正体不明の攻撃を受けており、ライブを起動する隙がなかった。

それでも彼女が存命なのは周囲のプレイヤーがあまねくに攻撃を仕掛けることで相対的に身を守れていたからだろう。

「退くわよっ」

「させると思うか?」

言葉と共にあまねくが刀を振りぬく。

赤い衝撃波があまねくを中心として広がるが、突如として周囲の勇者勢のプレイヤーが一斉に消失する。

プロミネンスやダークネスシャークをはじめ、近くにいた瀕死プレイヤーなども含めて全てが居なくなっている。

「む」

自分が与えたダメージでの消滅とは手応えが異なることに違和感を覚える。

「これは…」

「間違いなくヤーさんやろなぁ」

「…ああ、ヤクトか」

「ゴメン、あまねく兄ぃ…逃げられた」

ダークネスシャークを名指しして決着をつけると口にしたにもかかわらず、簡単に取り逃がしてしまった。

ノ・ヴァは今回の作戦において活躍は必須であり、地位を確立する必要があるため、やや落ち込んだ風であった。

そんな彼女の態度とは裏腹に、あまねくは気にしない様子で答える。

「かまわん。総括のヤクトが自分で動いたということは、俺らを無視できなくなったということだ。囮としては十分な働きと言っていい」

「え…」

「何だ?」

「う、ううん。何でもない」

どうしても優しい言葉を掛けるあまねくに慣れなくて、ノ・ヴァは不自然な反応となってしまう。

あまねくは魔王軍にとっての最善を考えて行動するだけであるため、優しさを意識しているわけではないし、必要不十分な働きであれば容赦なく指摘するだろう。

「そんなことより、ヤクトが俺らを気にかけているんなら利用しない手はない。次の段階だ、少し早いがBチームを投入するように進言する。移動するぞ」

「はいなー」

あまねくの部隊は周囲の建物を瓦礫に変えながら次の目標での囮作戦に切り替えるのだった。


ーーーーーーー


一方、別の場所で起こった戦闘は意外な結果をもたらしていた。

「馬鹿者がっ! 貴様は何をした分かっているのか!?」

「なははは、俺はお前さんを倒すことに全力を出すのみよ」

ダイダロンとリックは空を飛んでいた。


────少し前。

あまねくとは別方向から青の街に侵入したダイダロンだったが、その正面に立ちはだかったのはリック・シモンズ率いるギルド“山崩し”であった。

「シモンズたぁ…大当たりを引いちまったか?」

「ダイダロンか…余はどうも外れを引きやすいらしいな。早々に片付けて魔王を探しにいかねばなるまいよ」

ダイダロンは囮としての自分の役目を果たせそうだと歓喜する一方、リックはつまらなそうに吐き捨てる。

この二名はそれぞれ有名プレイヤー同士である。

ピースフルやあまねくのように1位を争う実力とまでは行かなくとも、ランキングには必ず名前が載る程であり、互いに顔見知りであった。

そんな二人であるが、一対一で戦えばダイダロンが勝つ可能性が高い。

これは両者の戦闘スタイルの差が主な理由である。

ダイダロンは重甲騎士という職業の通り、圧倒的な防御力を誇っている。

防御がメインという点ではピースフルと近いが、すべての行動が盾に集約されるピースフルとは異なり、鎧にギミックを仕込むタイプの戦闘法を使用する。

鎧に仕込まれた魔法陣でカウンター魔法を発動するなどだ。

特に相手が物理攻撃の場合には高い適正があり、ヌルのような常識外のパワーや、あまねくの異次元の技術でなければ打ち破ることは難しいだろう。

一方でリックのステータスを見ると、次のように表示される。

『Lv.115 リック・シモンズ 人狼ウルフマン/獣使い』

この職業はモンスター、とりわけ獣に分類されるものを操作できるものである。

そして彼の種族である人狼は凶暴性と引き換えに高い機動力と攻撃力を誇る。

これらを組み合わせることで、凶暴化した自身を完全にコントロールし、常に高いポテンシャルを維持するのだ。

このため両者の相性から考えると、リックの高密度の連続物理攻撃をダイダロンは防ぎきれるために、ダイダロンが優勢と言える。


しかし、状況は完全にリックの有利に働いていた。

リックが本領を発揮するのは一対一の戦いではなく、多勢対多勢、軍隊同士の戦闘であり、味方が多ければ多いほど彼の獣使いの職業は力を増すのだ。

獣人系種族で構成された”山崩し”のメンバーが揃っている現在ならば、リックの尊大な物言いの通りダイダロンを”早々に片付ける”ことができてしまう。

状況はダイダロンに不利なはずだが、彼は気にする様子もない。

「安心しな。魔王様にアンタが会う事はねぇさ、俺がここにいるんだからな」

「フ…その愚直さを抱えたまま疾く退場するがいい」

そう告げるやいなや、リックはスキルを使用して味方全体を獣化させる。

山崩しのメンバーが次々と凶暴性を露わにした姿に変身していく中、リックも自身に力をため込んで巨大化し始める。

その状況にあって、突如ダイダロンはリックにとびかかる。

「なっ!」

ダイダロンは防御一辺倒で”待ち”の戦闘スタイルのはずである。それが自分から飛び込んできたことにリックは驚きを隠せない。

変身を解除して回避するべきかと一瞬逡巡するが、すぐにその必要はないと考え直す。

ダイダロンの行動はおそらく猫騙しのような威嚇行為で、こちらの足並みを狂わせる意図だろうと判断したからだ。

それに、先制攻撃だとしても、防御系職業の自発的な攻撃には警戒するほどの威力はないだろうと慢心している部分があった。


そして、この慢心こそが勝敗を分けた。

「へへ…こんなんだから魔王様には届かねぇんだ」

そう言って笑うダイダロンが、レスリングのタックルのような姿勢でリックの腰を捕まえる。

仮にこの姿勢からスープレックスを掛ければ、リックにいくらかのダメージを与えることが可能かもしれない。だが、ダイダロンが選んだのは攻撃ではなかった。

「いくぞ! ガイアスタンス!」

ダイダロンは防御力を上昇させ、姿勢を固定するスキルを使用する。

鎧が鍵を掛けた扉のようにかみ合った状態で固まる。

「何だ貴様、離せっ!」

ダイダロンが腰にがっちり食らいついてきたことで、ようやくリックは相手の狙いが単純な攻撃ではないことに思い当たる。

「…俺ぁよう。魔王様に会うまで勘違いしてたんだわ」

「何の話だ! とっとと離れろ!」

「真の強さってもんはよう、装備の性能やスキルなんかにゃあ出てこねぇんだな」

重甲騎士の特性である鎧のギミックが発動し、ダイダロンの鎧の内側にあったものが露呈する。

「な……!」

リックは絶句した。

ダイダロンの鎧には大量のブースターとロケットが仕込まれていたのだ。

もしこのロケットが全て起動したら、打ち上げ花火もかくやという高度まで飛び上がるだろう。

そしてそれはダイダロンにしっかりと掴まれたまま固定された自分も。

ここまで来てリックはダイダロンの狙いを読み取る。

「自由な発想が一番強ぇってこったな!」

笑顔のダイダロンが全身のロケットとブースターを起動する。

「そ、そんなことをしたら…!!」

点火と共に急激に直上を開始する。

ぐんぐんと速度をあげて空へと飛びあがっていく。

「名前をつけるほどのことじゃねぇが、ダイダロケット……とでも呼ぶかねぇ」

以前ダイダロンがヌルに空高く放り投げられたことで着想を得た奥義である。

ヌルはマトモに相手する必要がない場合や、の手段として相手を放り投げるのだが、ダイダロンはそれを自分の戦い方を見つめなおせというメッセージとして受け取っていた。

そして、あまねくに続いて2人目のとなってしまったのだった。

「馬鹿者がっ! 貴様は何をした分かっているのか!?」

「なははは、俺はお前さんを倒すことに全力を出すのみよ」

視界に雲が映り、風を切る音すら置き去りにして上昇する。

この高さから落ちたのだとしたら、着地を助ける道具やスキルを駆使しなければ絶対に助からない。

どうにか助かる方法を模索するが、ダイダロンが拘束していることで動きを阻害し、メニューの操作すらも行わせない。

しかしそれはダイダロンも同じことで、防御がどんなに高くても意味をなさないほどの高さである。

「貴様も死ぬのだぞ!?」

その問いにダイダロンは笑うばかりで取り合わない。

リックは大いに焦っていた。

彼の消滅は単純な戦力低下以上の効果を勇者勢にもたらす。

戦闘面において彼のギルド”山崩し”はリックによるコントロールを主体としているため、ボスを失った獣の群れのように手の付けられない状態となってしまうだろう。

特に、変身した仲間たちにコントロール系スキルを使用する前に打ちあがってしまった点が致命的である。

戦術面では痛手だが、変身して凶暴性と引き換えにパワーが上がっている分、戦力と考えるならまだマシである。

問題はギルド連盟”ホライゾン”の交渉や方針決定を担う人物がいなくなってしまう事だろう。

全面対決という大一番で行動決定権を持つ自分がいないことで生じる混乱と損害は直視したくないレベルなのだから。

一方で、ダイダロンはあらかじめ味方に自身の戦闘方法を伝えている。

自分がいなくてもAチームはもちろんの事、ギルド”鰹節連盟”はしっかり機能するだろう。

「ま、もうすこし空の旅を楽しもうや! なははははは」

すっかり戦い方が魔王軍に染まってしまったダイダロンはそう言って笑うのだった。


ーーーーーーーーーーー


「では、みなさん突撃デス!」

ティオの号令に合わせてBチームが青の街に突入した。

突入と同時にティオはライブを起動しており、

移動しながらの戦いとなるため久々にアイドル専用の機能である”ステージ“を使用している。

これは味方に大きめのコースター程度のシールを張り付けることで、その場所をライブ開場にすることができる。

本来はライブをしている状態の立体映像を映し出す機能なのだが、体の大きさを自在に変えられる種族:妖精であるティオが独自の活用法として編み出したものだ。

一度使用するとライブ終了までステージの外に出れなくなるデメリットはあるものの、ステージごと移動できるため臨機応変な立ち回りが可能となる。

以前、ヌルにくっつくために使用したが、ヌルの速度についていけず乗り物酔いになってから使用を控えていた。


ティオの周囲を固める部隊メンバーはすべて彼女のギルドメンバーで構成されているが、彼女のステージを運ぶ役目は「エドン」という人物が務める。

エドンは戦闘能力に欠ける人物である。

そのため今回の作戦には不向きだが、ティオを守るために身を挺した度胸と、逃げに転じる際の思い切りの良さを買われ、指名によって同行している。

同じ理由でプロミネンスに向かって自爆したゴザえもんというプレイヤーも同行している。

ティオは仲間たちが自分と一緒に青の街に侵入する様子を眺めつつ思案する。

(やっぱり……会議にでていたメンバーはシロということデスね…!)


ティオは自分のギルド内に敵との内通者がいる事を認識している。

ゆえに魔王城での会議で共有された作戦については、会議に出たメンバーだけに情報をとどめていた。

そして、ギルド全体には”今日は態勢の立て直しを図る“というウソの方針を伝え、いざイベントが開始した時点で”やはり総攻撃になった“と指示を変更したのだ。

「ティオちゃん……大丈夫かい?」

作戦について思い返していたティオに優しく声がかかる。

ティオのステージを運んでいるエドンだった。

(ボクは、ファンに恵まれていマスね)

エドンにウィンクで応える。

このエドンを含め、会議に出たメンバーには正直に”内通者がいる“と伝えた。

その折にギルドメンバーが最初にした事は犯人探しではなく、ティオのケアだった。

ギルドメンバー=ファンに裏切り者がいるという事実によって、ティオが傷ついているだろうと思って言葉をかけてくれていたのだ。

(負けない…!)

自分のファンとして魔王軍についてきてくれた人たちを絶対後悔させないと改めて心に誓う。

そんな彼女に、先行して案内する役目の者が近寄る。

報告すべき何かがあったということだろう。

「ティオちゃん、コイツを見てくれ!」

仲間の1人がマップを共有する。

青の街の内部、自分達のいる座標からさほど離れていない地点に青い宝石のアイコンが表示されている。

「わかるかい? 相手が宝珠を動かしはじめたみたいだ…!」

ティオはそのマップを凝視する。

僅かな移動速度を保って宝珠が動いている。

ハチコが宝珠を抱えて移動したように、こちらの侵攻に気づいた結果、敵が対策として打った一手なのだろう。

この宝珠に一番近いのは自分達であるが、Bチームの役割は囮である。

ここでの判断が、この先の展開に大きな影響を与えるだろうことは誰の目にも明らかだ。

このような状況で的確な指示を下せるほど、ティオは指揮官としての能力があるわけではない。

「ムム……」

ティオは判断に迷う。

そんな時だった。

正面の道、その奥から一団が現れる。

ヤクト、ダークネスシャーク、プロミネンスをはじめとした、古代の盟約イニシエノエニシの中核メンバーだった。

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