第50話 転がりはじめた石
イベント3日目が開始された。
どのプレイヤーも三度目ともなれば慣れたものである。いつも通りともいえる操作でメニューからイベントに参加し、一斉に中間大陸にワープする。
一方で、ワープした先はいつも通りではない。
前回ほとんどのメンバーが死亡しており、該当するものは余さず転移先が”墓地”であった。
いくらかのプレイヤーたちが初めて到達した墓地に世間話を弾ませる。
「ここが墓地かぁ~…。ははは、昨日の敗北へのあてつけかよ」
「そう言うなよ、周りのやつらもみんな同じだって」
「ここにいるやつら全員死んだんだろ? ヤバいよなぁ。俺たちもだけど」
遠足に来たというわけではないのだが、気楽に参加する者たちの反応はおしなべて同じようであった。
それに対し貢献度に貪欲な者たち、勝利を見据えている者たちは転移後すぐに移動を開始した。
ここまでに得た情報として、転移前にパーティを組んでいる場合、墓地ではパーティ同士で固まって出現することが判明している。
そのためギルド単位でパーティを組んでおき、メンバーが確認でき次第、赤の街に向けて移動していた。
それぞれが銘々で仲間と話したり、記念に一枚写真を撮ってみたり、わき目も振らずに移動したりとバラバラに行動している。
そんな中、一瞬の隙も逃さないよう緊張した面持ちの人物がいる。
冬雪である。
いつでも投擲フォームに移れる低い姿勢でタイミングを窺っているのだが、彼の緊張の理由はその役目にある。
彼はハチコを街に運ぶという重要な任務に就いているのだ。
死亡したプレイヤーは例外なく墓地に転送されるが、それはハチコも例外ではない。
ハチコはヌルのスキル”アマルガム”によって姿を変えたが、発動と引き換えにハチコ自身は死亡している。
このためハチコも出現位置は墓地なのだ。
そして彼女の存在は同じ陣営であっても他人には秘匿しなくてはならない。
このため、多少…かなり強引な方法ではあるが、”ハチコが出現した瞬間、姿を見られる前にヌルに向けて冬雪がハチコを投擲して、本陣でキャッチしてもらう”ことにしたのだ。
ヌルと冬雪、そしてハチコはパーティを組んでいる。墓地にいる2人は近い位置に出現するはずである。
そしてハチコはイベント参加受付時間ギリギリに申請して、出現を若干遅らせることで準備を整えた冬雪のもとにワープするように操作するのだ。
冬雪は近くの空間がゆがんだことで、プレイヤーが出現する予兆を確認する。
「ヌルくん、行くよ!」
『いつでもOK!』
ヌルの返事が届くと同時にハチコが付近に転移する。
「冬雪さん!お願いしま──ああああぁぁぁぁっ!!」
ハチコが出現した瞬間、スキルを全開にして彼女を投擲する。
いくつかのプレイヤーが空を飛んでいくハチコを眺める。
ハチコは黒いローブに装備を切り替えているため、黒い凧が風に流されているようにも見える。
あの見た目ではハチコと判別できるプレイヤーはおらず、高速で飛んでいく彼女の名前表示も捉えることは難しいだろう。
冬雪は周囲の様子から、ハチコを認識できた者がいない事を確かめる。
「……問題なさそうです。行きましょうか」
不測の事態に備え、あまねくとティオが近くで待機していた。
何かあれば目くらましの効果を持つスキルでハチコを隠すつもりだったのだが、その機会がなかった幸運に感謝する。
冬雪は待機していた仲間たちに礼を言うと、共に赤の街に向かうことにする。
赤の街。
魔王軍の本拠地として使われているこの地は、今はほぼ無人と化している。
昨日のうちに敵も味方も全滅し、今日はそれぞれの墓地に転移したからである。
あと5~10分もすれば墓地を出発したプレイヤーが到達するのだろうが、それまではヌルだけがこの街の住人だ。
そして他のプレイヤーがいない今のタイミングこそ、ハチコが街の内部に潜む唯一の機会と言えるのだ。
パーティ通話で冬雪の声が届く。
『ヌルくん、行くよ!』
「いつでもOK!」
ヌルはいつでもジャンプできる姿勢を保つ。
死亡したプレイヤーが墓地以外から開始できるのであれば、ハチコを投擲するなんて無茶な行いをする必要はなかっただろう。
そのことに想いを馳せる。
もうすぐハチコの叫び声が聞こえるはずで、その事を不憫に思ったのだ。
『冬雪さん!お願いしま──ああああぁぁぁぁっ!!』
ヌルは想像通りパーティ通話に悲鳴が聞こえたことで、作戦の開始を悟る。
マップ上に映るハチコを確認し、タイミングを合わせる。
そして、その場で飛び上がるとハチコを難なくキャッチする。
前回ハチコを逃すために行われた投擲に比べて目的地が近かったせいか、短い時間でヌルの元に届いた。
ハチコを抱えたまま着地すると、拠点となる中央の建物に向かう。
触手で建物の扉を開けて中に入り、進んだ先の会議室の中でハチコを降ろす。
もちろん会議室を含め周囲には誰もいない。
「一応生き残りの人も探したんですが、今のところ我々だけみたいです。
問題なく今日の作戦が開始できそうですね!」
冬雪から目撃者の報告がなかったことや、無事に運搬できたことに活気付くが、ハチコから恨み言が届く。
「……これしか方法がなかったのは承知しています。ですが、こんな…こんな無茶は何度もしたくありません!」
空を飛ぶ夢を見ているようなものだが、自分では姿勢の制御もできないため、分類するならば悪夢だろう。
ジェットコースターをはじめ、スリルのある乗り物は苦手な彼女には精神的疲労が大きい。
何も問題がないという状況ではない。
自分を客観視視点に切り替えるスキル「イーグルサイト」が使用可能だが、冬雪の投擲に代表されるような長距離移動では自身の位置が移動し続けるため、スキルの効果範囲外に出ることで効果が切れてしまう。
投擲した冬雪に対する恨み言だったようにも聞こえるが、ヌルはハチコの言葉に明るく答える。
「こういうのは慣れですよ。きっと」
謝っても仕方のないことなので、雑にだが励ます言葉を贈ることにしたのだ。
そんなヌルの言葉に対してもハチコは渋い顔をする。
「…そりゃヌルさんは慣れることもできるでしょうね? 昨日借りた体だって、動きが早すぎて目を回さないようにするので精一杯でしたよ。それどころか投擲よりもはやい速度でも移動できるんじゃないですか?」
ハチコはやや拗ねたように話す。
機嫌を損ねてしまったことでヌルは言葉を選ぼうとするが、彼が答える前に冬雪から通信が入る。
『こちらは大体の人たちが移動を開始したよ。僕らもそちらに向かうね』
この報告が来たことでハチコは気持ちを切り替える。
自前の高性能マップを表示させ、作戦の指揮を執るための準備を始める。
「今日の作戦、既に全体への通知は完了していますが、攻撃の
「まかせてください」
自信たっぷりにそう返答したヌル。
それに対してハチコは少し表情を暗くする。
「……? どうかしましたか?」
「私が昨日、あなたのご友人である、ピースフルさんと戦った話はしたと思いますが、本当に手も足もでなかったんです。ホントに気をつけてくださいね?」
「ええ、わかってます。まだアイツとは戦う時期じゃないですし、いざとなったら逃げてやりますよ。ハチコさんの言う通り、スピードには自信があります」
表情のないヌルの顔にかわり、宝珠がきらりと光るのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
多少の時間が経過して、改めて会議室にメンバーが揃う。
イベント開始前の魔王城で大まかな方針は共有されているが、詳細についてはイベント開始後に話し合うことにしていた。
これはティオの配下に内通者がいることを想定しているためであり、そのために会議に参加しているメンバーは四天王とヌル、そしてノ・ヴァとダイダロンであった。
後半の2名に関してはハチコの存在を隠す方がリスクが高く、今後の活動を見据えると真実を告げた方が良いと判断された。
冬雪がメモを取り出して話し始める。
「じゃあ、全体の流れをおさらいしますね。
まず決着となる勝利条件ですが、敵本陣の宝珠を奪うことになります。
もう一方の勝利条件である“敵陣営が設定した5人を倒す”ことの方が難易度としては簡単に思えるのですが、未だに対象の人物が判明していません」
そこで言葉を切って、冬雪はノ・ヴァに目をやる。
「彼女の情報によると、5人のうちの1人はピースフル氏であることがわかっていますが、残り4人は不明のままです。
闇雲に該当のプレイヤーを探すということは、敵勢力を全滅させるまで戦うのと同義ですから、現実的ではありません」
ハチコがマップを表示させ、サイズを最大化して全員に見えるようにする。
敵陣に焦点を合わせ、青の街の全体図を映し出しながら説明を引き継ぐ。
「宝珠の場所が台座から動くと特別な表示に切り替わりますが、その様子がないので中心地から動かされていないことがわかります。
ですので、到達が目標となるわけですが……敵の心臓部である以上、トッププレイヤーとの戦闘は避けられません。そこで正攻法では戦わず、隙をついて宝珠を奪い去る方法で行こうと思います。宝珠を強奪できるのは我々で最も速度のあるヌルさんが適任となります。
また、ダイダロンさんとノ・ヴァさんの情報から、ギルド連盟”エニシ”が防衛についていないことを確認しています。
彼らは昨日まさにこの場所を陥落させた実行部隊であり、最も警戒すべき相手です。その彼らがもし防衛に回ると仮定するなら、遊撃隊のように足りない箇所を埋める役割を担う形で配備されるものと予想しています。援軍というやつですね」
そこまで話すとマップにいくつかのマーカーを設置していく。
青の街の外周を取り囲むように8か所にマーカーを表示したあと、街を回り込んで背後をとる位置にひときわ大きなマーカーを置く。
「私が敵方の司令だとして、やられて一番いやなことは”判断力を削ぐ”タイプの攻撃です。……というわけで、我々は全軍で移動するフリをしつつ、別動隊を種まきのように相手の外壁に取り付けます。そして、この8か所を時間差で連続攻撃します。
全軍に偽装するのは陽夏さんの配下の方々で、ハリボテの軍勢を伴って移動してもらいます。
皆さんのように攻撃力を持つ方々は街への攻撃部隊をお願いします」
ハチコの話に合わせてマーカーが時間差で点滅する。
「敵陣の首脳部について話を聞く限り、我々のような独裁ではなく合議制のようです。つまり判断を下すべき事柄が増えれば増えるほど、指示を出せる役職の人物たちの話がぶつかってしまい指揮系統の能力は失われていくはずです。
我々は”連続でバラバラな攻撃”、”意味深な行動”、”虚偽の情報”を多用しまくって相手を疲弊させてやりましょう!」
ハチコは元気にそう宣言する。
彼女をもともと知っている者たちは納得とともにうなずく。
一方で、初めて会議に参加した2名は少し不満げにハチコを見る。
2名とも直属の人物以外から作戦指示を出されたことに引っかかる点があるのだろう。
ましてやハチコはレベルが60に届かない程度と、この中では断トツに低い。
格下のプレイヤーに命令されれば納得いかないというのは理解できる話である。
特にノ・ヴァはヤクトという”戦える司令官”を知っているため、懐疑的な態度をとっている。それに、もう一つ腑に落ちない点があった。
「なんとなく聞いとったけど…どうしてアンタが指揮してるんや?」
「……?」
ノ・ヴァの言葉の意図が掴めず、ハチコは首をかしげる。
「だってアンタ、あのハチコ・リードやろ?
そこにいるヌル何某に魔王軍追い出されたっちゅう元魔王の」
「あ、ああ……なるほど」
ハチコはノ・ヴァの言わんとしていることを理解する。
一般的に出回っている噂ではハチコは元魔王で、勇者の素質あるパスタを守りながら旅をするプレイヤーというイメージとなってしまっている。
ノ・ヴァはそれを真に受けているためにハチコの立場がしっくりこないのだ。
「ノ・ヴァさん。まず一つ勘違いを正させてください」
「うん?」
「あなたが私に対して抱いている人物像は、私がヤクトさんに誤情報を掴ませるために行った演技の結果であって、おそらく真実は一つもありません」
「……なんて?」
ハチコは当然といった風に告げるが、今度はノ・ヴァが意味を捉えられない。
それを補足するためにハチコが言葉を続ける。
「私はこの世界への知識力を買われて最初に四天王にスカウトされました。
その時から参謀という役割をいただいています。あと、付け加えるなら最初から魔王はヌルさんですし、もっと言えばヤクトさんが血眼になって探している勇者という職業はそもそも存在しません」
「うそやん……」
ハチコの言葉が真実であるなら、勇者勢はたった一人の人物の嘘に長い間振り回されているということになる。
それを引き起こしたのが、このような駆け出しに近いレベルのプレイヤーであるという事を認めきれない。
「ホントなんか?」
救いを求めるようにノ・ヴァは隣にいるあまねくを見る。
「当然だ」
あまねくがノ・ヴァに振り向くことなく答える。
ノ・ヴァが会議に水を差したことにより少し不機嫌であった。
だが、疑心暗鬼でおかしな動きをされるよりはマシと判断して、ノ・ヴァの尋ねるままにさせている。
「そ、そうなんか…。わかったわ、とりあえずアンタの事は参謀ってことで一旦納得したる」
「ふふ、そうですか」
ハチコはノ・ヴァがどうにも上から目線で話すことにクスリと笑う。
自分の演技に振り回されていた人物が取り繕って虚勢を張っているように見えてしまったためだった。
ノ・ヴァは一応の決着がついたことと、あまねくから答えを得たことで言葉を仕舞う。
「それで……」
ハチコは念のためダイダロンを見る。
彼にも同じように疑惑を向けられるかもしれないと推測した。
今後も顔を合わせる人物であるし、誤解があれば解消するに越したことはないだろう。
「あなたは今のうちに聞きたいことはありますか?」
「ん?」
ダイダロンは最初は自分が聞かれているとは認識できておらず、一拍おいてハチコを見る。
「おぉん。俺はアンタを疑っちゃぁいねぇが、その作戦ってのにちょっとギモンがある。そっちについて聞いてもいいんかい?」
「もちろんです。私だけで立てた作戦というわけではありませんが、見落としている点があるかもしれません」
思いの外、真面目な答えが返ってきたことにハチコは安堵する。
それはダイダロンにしても同じで、質問を許可されたことで新参者が蔑ろにされず、自分にも発言権がしっかりあると認識したのだった。
「じゃあ聞くがよ、俺らの最強はこの魔王様だろ? でもってさっきの8か所のポイントにはこの人の名前がなかったと思うんだ。どうして最強の戦力を出さねぇんだ? それにこの規模だと防衛戦力がほとんどねぇよな? その辺どうすんだ?」
ダイダロンはマップを眺めながら尋ねる。
確かにヌルの名前を書いたマーカーはなく、少し離れた場所に一応の待機場所が記されているのみであった。
一方、問われたハチコは少し感心した様子である。
「なるほど……」
てっきり彼自身の配置に関する質問が来ると思っていた。
8箇所のマーカーにはダイダロンの名前が含まれており、魔王直属の部隊を四天王が動かすことに異を唱えるものだと。
しかし、その命令を飲み込んだ上で全体がしっかり見えている。他人の動向を気にしながら作戦を遂行できるのは優秀な証拠だろう。
「そうですね。まずヌルさんについてですが、今回我々のカギはヌルさんの機動力にあります。
敵陣に入ってから中心地の拠点に到達する時間と、台座から宝珠を奪って逃げる速さです。
昨日ヌルさんがこの拠点を奪い返すために大暴れしたことで、敵はヌルさんの速さを知っています。
我々が警戒するべきはヌルさんへの時間潰し、いわゆる遅延行為です。妨害効果はほとんどレジストできるとは聞いていますが、高位の魔法であればその限りではないでしょう?
ですので、敵の混乱がピークになってからトドメとして投入するのが最良と判断しています。
…ちなみに、ヌルさんの能力でニセモノを出撃させることが可能ですので、直前にそちらを囮にしてエニシを引きつけるつもりです」
ハチコの言葉ダイダロンは静かに聴く。
反論なく受け止めているため、文句はないのだろう。
「それと、防衛戦力の話ですけれど。
この拠点…と言うよりどこの街にも防衛のための部隊は残しません。全軍を投入します。
こちらの敗北条件はヌルさんが死亡するか、宝珠を奪られるかですが、どちらも同じ意味ですので」
「ほぉぉ……」
言い切ったハチコに対し、ダイダロンは感嘆の声を漏らす。
普通、作戦は次善の策…失敗した場合を想定して予備を残しておくものだが、ハチコはそれを選択しなかった。
すなわち勝ちを確信しているのだ。
その思い切った態度に好感を持ったのだろう。
ダイダロンは数度頷き、ハチコを認めたのだった。
ーーーー
───青の街。
勇者勢は依然としてまとまりを欠いていた。
それもまた、ハチコの策の一つかもしれない。
「魔王が2人いる……?」
それはギルド連盟代表の会議にてヤクトが発言した内容から始まった。
「ええ。この街に攻め込んできた魔王のことは皆さんも記憶に新しいでしょう。
しかし、同時刻にも敵本陣に魔王が現れていたというのです。それも相当な強さで、我々エニシの精鋭部隊が悉く倒されてしまいました」
「バカな!? だってエニシの殆ど全ギルドが出撃していたじゃないか!」
「そうです。その殆ど全ギルドが本日は墓地からのスタートとなっているのです」
「異常な強さだな…」
「ううん…一体どんなカラクリが…」
ヤクトに対して好意的・協力的なギルド連盟の代表たちは危機として認識し、対策について考える。
「詳しい情報をもらえるだろうか?」
「ええ、加入ギルドからの証言をログに共有します」
そうして魔王の情報を集めようとする者がいる一方。
「待て待て。エニシが我々を出し抜くための策じゃないか? おたくはなんだかんだで今回のイベントもかなりの貢献度と利益を得ているよな?」
「確かにな、そもそもエニシが赤の街を一度占拠したって話からして怪しいもんだ。
占拠したのに宝珠は得られていないし、後から戻ってきた魔王にやられちまっただって?
赤の街に進行して向こうの強者に普通に負けちまったって話じゃねぇのかい?」
エニシに対して非友好的な態度のギルド連盟は情報そのもの疑っている。
彼らは抜け駆けされてしまったことを根に持っており、ヤクトに疑念を持っている。
彼の声に従うと、エニシのみが得をする可能性があると思っているのだ。
そしてその心は作戦の方針に現れてしまう。
「今度こそエニシに好きにはさせねえ。
昨日はあんたらが魔王軍に攻め入ったわけだ。
だったら今日は俺らが進軍したっていいはずだよな?」
発言者は当然といった風に言い切るが、その言葉にヤクトは焦る。
「ま、待ってください…! 今日はおそらく魔王軍による侵攻があるはずです。防衛のための戦力を残すべきです!」
「そんなわけねぇだろうよ? 昨日アンタのとこの連盟が敵本陣を壊滅させて、最強プレイヤーが魔王を追い払ったばかりじゃねぇか。
敵さんはここ数日は準備を整えるに決まってらぁ。このタイミングに攻め込まないでいつ攻め込むんだ!」
「ヤクトさんよぅ、流石にここでジッとしてろってのは、貢献度に貪欲過ぎるだろうよ?
俺んとこは稼ぎてぇからな。出撃するぜ」
「ウチもだ。昨日の遅れを取り戻すために出撃するぜ」
「我々も進軍しよう」
ヤクトの言葉に耳をかさず、次々とギルド連盟の代表たちが進軍の方針を固める。
「なんて…愚かな……」
ヤクトがそう歯噛みするが、耳を貸す者はエニシ協力関係にある者ばかりで、実に勇者勢の半数もが本陣の防衛を離れて進軍することに決定したのだった。
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