第45話 魔王討伐作戦

魔王軍本陣にて、この地を占拠する敵を鏖殺するべく暴れ回るヌル。

高速移動を常に繰り返し、形を変え、姿を消す。

依然として彼の姿を捉えることは難しく、ヌルの全体像を把握できたプレイヤーは未だにいないほどであった。


とはいえ、この地にいるのは勇者勢の中でも熟達した者の集まりである。「何もできずに全滅しました」は、最高位ギルド連盟としてのプライドが許さない。

その場ごとの個人の対処では黒い塊を止めることはできないと決断した結果、多少の犠牲を払おうとも対応のための情報を集めるという方針に切り替わる。


ヌルから離れたところで、ダークネスシャークを中心として各ギルドの代表が集まっていた。

この場所を嗅ぎつけられないように、それぞれで姿や気配を隠蔽する手段を固めている。

「ヤクトさんから指示は?」

集まった者の1人がダークネスシャークに尋ねると、彼女は首を振る。

「ない。今の状況は伝えたけど、返事にこんなに時間がかかってるなら、向こうでも何か異変が起きたと考えていい」

「味方本陣も同じような状況になった可能性もある……と。情報がないなら憶測の域を出ないな。変に推測するより、我々は我々で独自に動いた方が良さそうだ」

「そうだな」

「私もそう思う。臨時の作戦本部とか、そういうのを建てていいよ」

彼女の言葉にそれぞれが頷き合う。

ダークネスシャークは、見た目こそ消極的な人物に見えるが、明確に自分の意見を述べることのできるハッキリした性格である。

彼女の意見を受けて、一人が決定を下す。

「では、我々でここを臨時作戦司令部とする。

……シャークさん、それで、どうするべきと思いますか?」

「それは私に仰ぐべき判断ではない。と思う。

ここにいるのはリーダーの役割の人だけど、私は戦闘員だから戦略の判断を聞かれても困る」

「…そりゃ、そうか」

「では我々が計画を立てたら、それに従って攻撃に参加してもらえると考えても?」

「うん。私の最後任務は、あっちの街の殲滅。それが終わった以上、この街でどう動こうとも問題ないハズ。どうせ帰還するし、アレを道連れにして自爆してもいいよ」

そう言ってメチャクチャに動き回るヌルを指さす。

周囲から「おお…」と感嘆の声が上がる。

この場の最大戦力を誇るプレイヤーが支持下に加わるという事実は、作戦を考える上で安心感と冷静さを取り戻させる。

「まず敵の正体は不明だが、アレは魔王であると考えていいのかな?」

「ああ、それは間違いない。味方からログを収集したところ、敵の名前が一致した」

「やはりか…今回は魔王の強さを図る良い機会とも言えるわけだな」

これまで魔王については多くが謎に包まれていた。その姿を実際に目にし、戦闘経験を得られるのであれば、他のギルド連盟よりも情報的に一歩先んじることになる。

「現状の戦力で倒せるかを検討しよう」

「先程から見えてるが、一撃で倒されてしまうスキルの仕組みがわからないな…」

「ふむ…確かに」

「何かの条件が揃った時にHP分のダメージを与えるか、即死効果を発揮するスキルだと俺は読んでいる。

流石にだろうさ」

「その予想が間違ってないとすると、排斥系のスキルってことか?」

「確かに排斥系なら論理アサシンタイプってことになるな。あの速さも頷ける。

攻撃を回避してるのは防御に不安があるからか? うまく攻撃を集中させれば倒せる可能性があるな」

「となれば我々はシャークさんを含めたアタッカーが最大火力をぶつけられるように、環境を整える必要があるわけだ」

「確かに…」

「では役割で部隊を分けよう。アタッカーが攻撃を集中できるチーム編成だとするなら…あと必要なのはデバフ、タンク、デコイ…といったところか?」

「悪くないな。俺は実働部隊に加わろう、ウチはデバフ系のプレイヤーが揃ったギルドだし、現場指揮も必要だろう。アンタのとこのメンバーもデバフに強いし、借りるぞ?」

「頼んだ。仲間にはメッセージを送っとく」

スムーズに今後の方針と作戦が決まる。

必要な要素を洗い出し、そのための手段を実行可能な範囲で練る。ここに集うのはそれぞれギルドのトップであり、別々のチームなのだが、まるで元々一つだったかのように相談が進んでいく。

エニシというギルド連盟の連携能力の高さが窺えるというものだった。


「申し訳ないが、今戦場にいるチームには運が悪かったと思って諦めてもらおう。こちらの動きを察知されては本末転倒だからな」

その言葉を受け取るのは、現状ギルドメンバーが戦っているギルドのトップであった。

「構わん。魔王の強さを実感できた点は、経験値的にはプラスだ」

「そう言ってもらえると助かるよ」

「まずは防御を固めたメンバーで敵の時間を潰させよう。タンクチームのスキルでバリアを張って、ターゲットを惹きつける」

その声に一名が頷き、各チームのメンバーに指示を出し始める。

「ほとんど同時にデコイチームを出撃させて、タンクを回復しようとする素振りを見せよう。

時間が掛かると見れば、先にデコイの処理を優先するハズだ」

「うむ」

「デバフチームで相手の動きを止める。相手のスピードを見た限り、ターゲットして魔法を唱える時間はないからな、大人数でスピードダウンフィールドを形成しよう」

「デコイチームでフィールドに誘導だな?

なら罠を張るのに良さそうな場所を検討する。詳細な地図出せるやつはいるか?」

「少し待ってくれ、スキルで出力中だ」

「スピードダウンが効いた隙が勝負だな。アタッカーチームで最大火力をぶつける」

そこまでの話を聞いていたダークネスシャークが頷いて口を開く。

「誰か、スキル時間を短縮するタイプのサポートない? 私あまねくを暗殺するのに使ったスナイプが充填中なんだ」

「うちのヒーラーがいけたハズ…呼び出しますね」

「よろ」

こうして彼らによる、魔王討伐作戦が開始されたのだった。



ヌルは相変わらず周囲のプレイヤーを殲滅し続けていた。

アンテナのような役割を果たすパーツによって周囲で回復魔法の発生を感知すると、その使用者を優先して倒すようにしている。蘇生魔法の詠唱にはそれなりに時間がかかるのだが、使用者を倒してしまうに越したことはない。

このアンテナは誰かがヌルに狙いを定めた場合にも感知できるため、視線を感じるたびに路地に入ったり、忍術を使ったりして姿をくらましていた。

しかし、徐々に隠れても張り付くような視線の気配が消えなくなった。

おそらく観測系スキルの持ち主が索敵を開始したのだろう。

「チッ…」

敵の狙いが戦闘よりヌルの情報収集に切り替わったことに不快感を覚える。

ヌルに集中していること自体は歓迎するが、相手が冷静さを取り戻すことは歓迎したくないのだ。

それにそろそろ『陽夏特製:究極のお弁当』の効果が切れる時間である。

戦闘方法を変える必要があるし、『圧縮合成』を連発できない以上、どうしても瞬間的な攻撃力が下がる。

敵の動きに変化があるのを察知したヌルは、こちらも頭を使う必要があると判断する。

「考えろ…敵の狙いは何だ…? いや違う、それを初心者の俺が探るのは時間の無駄だ…むしろ俺がやられて嫌なことを想定するんだ…!」

アイテム効果の時間が切れるまで敵を『圧縮合成』で散らしつつも考える。

戦闘と思考を切り離して行なっているあたり、もはやヌルのプレイスキルは初心者をゆうに越え、魔王と呼ぶにふさわしいものまで成長しているのだが、本人はまだまだ初心者の意識が抜けない。

「嫌なこと……時間の浪費だな。俺になくて、向こうにあるものは“人数と時間”……人数を消費して時間稼ぎに回られたらマズイか?」

自問自答をするが、案外的外れではない気がしている。

そのため、この考えを前提として、ヌルはさらに踏み込んで考える。

「仮に俺をどこかに閉じ込めて封印するとかができるなら、その魔法陣に誘導するハズ……敵に安易についていくのは避けつつ、全体的な数量を減らせればベストか?

とすると、逆にこっちが敵を釣って、一気に叩けば掻き乱せる感じか?」

そこまで考え、ちょうどアイテムの効果時間が切れたために路地裏に姿を消す。

張り付く視線は消えないが、周囲にプレイヤーがいないことを確認する。

念のために少し入り組んだあたりまで隠れる。

「この状況なら必殺“自爆作戦”だな!」

そう言うなりパーツを一つだけ組み替える。

毒の耐性を得るパーツを、フグ型モンスターのツノパーツへと付け替える。

フグにツノはないがモンスターにはあるのだ。

頭に関係するパーツは、モンスターのスキルを使用可能にする場合が多い。

そしてそのスキルこそ“自爆”である。

HPを全て失う代わりにステータスに応じたダメージを周囲に発生させる。ヌルのパラメータからすれば、巻き込まれて無事で済むプレイヤーはひとりもいないだろう。

しかし“自爆”である。

当たり前だが、使用すれば死亡する。

彼の死は魔王軍の敗北を意味するのだが、ヌルは意気揚々と作戦の準備を始める。

「まず取り出したりまするはこのケーキ…」

ヌルはメニューの所持アイテムから『天国のケーキ☆☆☆☆☆』を取り出すと、自分のパーツの口の中に入れる。

芳醇なミルク風味ときめ細やかな舌触りが天にも昇る心地を知覚させる。

一級品のケーキの余韻をこのまま味わっていたいが、残念ながら戦場であるため断念する。

これでヌルは仮に自爆したとしても、ケーキの効果で1度だけ復活するということになるわけだが、彼の作戦ここで終わりではない。


合成獣キメラティック:贈与ギフト!」

ヌルはあまねくとの訓練を除き、実戦で初めて使用するスキルを宣言する。

パーツ1枠を使用不可能にするのと引き換えに、そのパーツを核とした分身を一体作り出すスキルであり、アマルガム同様にヌルがもう1人増える。

核は先程付け替えたフグのツノパーツ。

つまり自爆できる分身が1体増えた事になる。

この分身は簡単な命令しか受け付けず、核にしたパーツ以外は引き継がない。

そして普段のヌルの変速軌道のような動きはできないため、戦力として数えるよりはスキルを使う盾のような扱いなのだが、特筆すべき点はなんとパラメータと能力変化を引き継ぐのだ。

つまり、この分身もケーキの効果によって一度だけ自動で復活するということになる。

ヌルは本体である自分自身のパーツをフグのツノから、元々装備していたものに戻す。

『合成獣:贈与』の効果により、この装備枠のパーツは使用不可である。付け替えてもあまり意味をなさないが、何かの奇跡で自爆する可能性を考えると付け替えておいたほうがいいと判断したのだった。

ヌルは分身に路地裏を進んでいくように命じ、奥まった少し広い場所まで出たら待機するよう設定する。

そして、ヌル自身は再び路地を出ると自動復活のおかげか、足取り軽く戦闘を再開した。


ーーー


防御を固めたタンクチームが大通りで魔王に攻撃を開始する。

純粋なダメージよりも妨害をメインとしたスキルを優先し、魔王がタンクチームを素通りできないように努める。

そして魔王の反撃を耐える間にデコイチームが回復を行い、囮とは気づかれないように魔王の気を引く想定だ。

タンクチームのHPが回復し続ける限り倒せないため、タンクチームから距離を取る形で捨て置いてデコイチームを追いかけるように仕向けるのだ。

彼らの立てた作戦は状況を見れば妥当なものであったし、判明している情報から考えたとすれば最善と言えるものであった。

しかし、唯一の失策はだろう……。


「うわああああぁぁぁぁっ!」

魔王の足止めをするはずのタンクチームがひとり、またひとりと宙を舞う。

互いを庇うスキルを使わせないようにする対策だろうか、真っ直ぐ垂直に打ち上げられたタンクプレイヤーが垂直に落ちてくる。

デコイチームのプレイヤーがスキルをかけようとするも、回復対象の相手が空高く飛んでいってしまう。

ターゲットを見失ったデコイチームが呆気にとられた途端、そのプレイヤー目掛けてタンクチームの1人が投げつけられ、瀕死のプレイヤー2人に増える。そのプレイヤー達を回復しようと姿を見せた別のプレイヤーも同じ有様になる。

或いは防御の高いプレイヤーをハンマーのように振り回して、防御力を攻撃力として武器にする。

先程の一撃必殺とは打って変わって、力づくでの大暴れであった。


「魔王がこんな化け物だなんて聞いてないぜ…どうしろってんだよ…」

自軍の惨状を見ていたシルバ・ウルフは狼狽えていた。

ヌルが強襲を開始した時、シルバの所属ギルド『銀風』のメンバーは彼を含めて入り口からは遠い場所にいた。

拠点の異変が発生してから移動を開始したこともあり、リーダーであるシルバ自身は遅れて“黒い塊”対策会議に出席した。

銀風はそれなりに経験を積んだプレイヤーチームであるが、発言権があるほど大きな規模のギルドでもないため、素直に魔王討伐作戦の指示下に入った。

会議で決定された通りに魔王討伐作戦が始まり、銀風はサポート系の能力を持つメンバーが多いため、タンクの煉瓦と、魔法メインのアリオンを除き、囮のデコイチームに参加していた。


シルバ自身、魔王討伐作戦は実現可能な計画であると認識していたし、魔王討伐のイメージもしっかり浮かんでいた。

しかし、想像の域を遥かに超えた強さを持つ魔王に手も足も出ていないというのが現状であった。

「ありゃぁ…ちょっと規格外すぎんよ…」

「に“ゃぁ…」

(そうじゃのう。今まで戦ってきた敵は、みんなで連携すれば死なないように立ち回れるもんじゃったが、儂ら全力で防御しても、どうもならんじゃろうな)

「そうだな…」

銀風メンバーは煉瓦が魔王と交戦してから動くつもりでいたのだが、動く前に煉瓦が即死してしまったために、その機会を逸していた。

とはいえ、何かをすれば魔王を止められるというわけではないため、他のギルドが連携を狂わされている様子を眺めるだけになっていた。

そんな時、シルバへ受信専用の音声メッセージがもたらされる。

『各ギルドのリーダーへ、臨時作戦司令部より通達……』

「おっと、通信だ。作戦変更かもしれん」

そう言ってメッセージに集中するシルバ。

いざという時はシルバを抱えて逃げられるように、カケルが構える。

『……観測手より。魔王が先程の潜伏で分身スキルを用いたことが判明。分身は身を潜めたまま動く気配なく、行動内容不明』

『対応を検討中。可能性としては隠れている方の個体が実は本体であり、交戦中個体の強さは本体から継続的に強化魔法を使われ続けている説が有力。

もしくは、大規模な攻撃の準備をしている可能性……いずれにせよ放置は危険と判断。各ギルドリーダー達、意見求ム』

「なるほどな…」

通達を聴き終えたシルバは腑に落ちたという表情で頷く。

「旦那?」

「ああ。あそこの魔王が実は分身で、本体が隠れて操作しているんじゃないかって情報がきたんだ。どうすっかな…?」

「にゃー」

(それは確かに怪しいのう。魔王が実はネクロマンサータイプで、レベル255分の強化能力を全てあの分身に注ぎ込んどるのなら、あの強さは頷けるというもの)

「ああ、俺もそう思う。宝珠を最強の分身に守らせておくのは魔王っぽいやり方だしな。

ギルドリーダーとして返答を聞かれているんだが、銀風としての方針はどうするか…」

「そっちの分身調べるのでいいんじゃね? どうせオレらは煉瓦が逝っちまったから暇だし。作戦も上手くいってねぇからよ」

「おなじくだなぁ」

「オッケー。返答しとくわ。んんっ。

”こちらギルド銀風だ。作戦司令部へ、分身を調査する方針に一票。怪しいと思う“」

『ギルド”ひのきやぐら“も同じく。このままでは作戦が上手く行く可能性は低い』

『同意見だ!』

銀風を含めいくつかのギルドから賛同意見が返ってきたことで、司令部が決定を下す。

『こちら司令部……皆の早い決断と返答に感謝だ。検討結果を全体に通達する。各ギルドリーダーはギルド連盟の臨時回線をパーティ通話に繋いでくれ」

シルバはメニューから指示通りの設定をする。

そして銀風のみならず、付近のすべてのギルドに音声によるメッセージが届く。

『こちら臨時司令部だ! 作戦を変更する。

デコイチーム全軍をタンクチームのサポートから、分身の討伐に切り替えよう。対象の座標を送るから直ちに向かってくれ。

デバフとアタッカーの2割を合流させて確実に仕留める。もし罠だった場合はデコイチームの能力を駆使して撤退してくれ! 返答不要、行動開始!』

通信を受けて、各ギルドが一斉に動き出す。

魔王の気を引かないように注意を払っての移動だが、魔王に感知されている者たちは移動をやめて攻撃を仕掛けようと動く。


銀風もまた移動を開始するが、最も足の早いカケルだけ目的地に到着する。

シルバと位置を交換するアイテムを使用し、その後にシルバがギルドメンバーを集結させるアイテムをする。

デバフチームにいたアリオンも集合するものの、司令部の想定内の行動だろうとして、アリオンもそのまま行動する。

そうして集まったのは目標がいると思しき座標から少し離れた場所。

建物の陰に隠れつつ、15mほど距離がある場所に魔王の本体と思しき存在を視認する。

見た目は交戦中の個体に比べて貧相だが、自身の能力を分身に明け渡したと考えれば説明がつく姿をしている。

相手がいる場所は複数の道がある路地のために、隠れやすく逃げやすい地形をしている。

その逃げ道一つ一つに各ギルド集合し、封鎖する。

建物の屋上にも展開し、完全包囲を達成する。

これほどに入り組んだ地形に隠れていることから、彼らはこちらの個体が本体であるという疑念を強める。

「司令部へ、各ギルド到着」

どこかでぼそりとつぶやく声がある。

その声を受けて全体が一斉行動できるよう、

司令部が音声メッセージでカウントダウンを行う。

『了解。行動開始カウント。5…4…』

カウントが流れる中、シルバはすでに勇者勢の接近を察知しているだろうに、依然として動かない目標に少しだけ違和感を覚える。

しかし例えば”一定時間本体が行動できない代わりに、分身を強化して操作する“スキルなどもある。ラジコンのようなスキルもあると考えれば状況的に無理のある状況でもないのだ。

『3…2…1…』

それに、こちら側が分身なのであれば、わざわざ分身を出して放置する理由が見つからない。シルバは頭の中の戸惑いを振り払うと武器を構え、移動を阻害するスキルの狙いを定める。

『……ゼロ!』

周囲の勇者勢プレイヤーが一斉に飛び出し、各々のスキルや魔法を使用する。


誰の攻撃が最初に命中したのだろうか。

魔術師が闇の魔法によって影から腕を生やして魔王の足を掴もうとする。

射手が、ダメージは低い代わりに次に当たる攻撃の威力を上げるペイント弾が発射する。

或いは、先端に鉤爪のついたムチを振るう者が渾身の一振りを───。

あまねくのように刀を構え居合からの斬撃を飛ばす者が───。

そしてシルバは魔法を使用できる指輪アイテムにて、指先から移動阻害の呪文を放った。

そうして。

誰かの攻撃が魔王に触れた瞬間。

──シルバは光に包まれたのを感じた。



ヌルはタンクチームの屍の山を築きながらも、自分の分身が”自爆“したことを悟る。

メニューを見るまでもない。

遠方に真っ白なドームが発生していたのだ。

マップを見ると、分身がいた場所を中心に半径50mほどの範囲が街ごとごっそりといた。

どれほどの敵を巻き込んだかは知らないが、ヌルの計画通り、敵を釣って爆発したのだろう。

「とんでもない威力だな……巻き込まれてたら、俺も結構ダメージ食らったかも」

能天気にそんな感想を漏らす。

一方、相手のタンクチームは目に見えて混乱に拍車がかかっている。

真っ白なドームを見つめる者、いなくなった味方に呼びかける者、戦意を喪失する者。

それを一人一人倒して回る。

物理的にも戦術的にもめちゃくちゃに振り回して申し訳ないが、ヌルは相手に慈悲をかけずに殲滅を続行するのだった…。

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