第42話 再起を図る2人の魔王

敵陣にほど近い紺色の大地から、中間地帯である紫の大地へ至る道の途上。

そこには最強の魔王が2いた。

お互い向き合って立っているが、見た目には明確な差がある。

かたや決戦仕様のパーツ構成。鋼のような触手には禍々しい棘が生え、頭には宝珠がハマっている。

対峙するもう一方は、殆ど普段の魔王である。

黒い体表に赤い血管のデザイン、孔の空いた顔と背中の触手見慣れた姿がそこにある。

唯一おかしな点があるとするなら、右半身──腰から頭にかけて女性の石像が埋まっている点だろう。

苦悶の表情を浮かべ、何かに取り込まれるのを必死の抵抗したかのような人物の石像。

この石化したダークエルフの姿は、見る人が見れば、ソレがハチコであることに気づくだろう。


「……以上がアマルガムというスキルです」

「なるほど…」

ヌルは自分と同じ見た目の人物に話しかける奇妙な感覚を味わいながらも、スキルについてハチコに説明していた。

石像が埋まった方のヌルがハチコであり、名前が『Lv.255 ヌル=アマルガム 融合体』と表示されている。

当初、逆上したヌルに本当に殺されたのかと動揺を隠せなかったハチコだが、察しの良い彼女は急激にHPやパラメータが増えたことや、ヌルの態度から自身に起きた事を大まかに予想する事ができた。

「装備品は元の私のステータスが引き継がれているみたいですね。メイン装備も地図のままです」

先程まで口喧嘩をしていた2人だが、ヌルがスキルを使ったことによって状況が変わり、落ち着きを取り戻した。

どのみち、この2人が動かなければ魔王軍には勝ち目はない。それを理解しているのだろう、2人は自然と状況への打開策の話をするのだった。


「現在の状況を整理すると、魔王軍で生き残っているのは、私とあなた、そして橙1番の街であまねくさんの指示で留守番をしている人達ですね。

一応、壊滅状態の街から逃げ延びた人がいくらかいるのでしょうけど、それでも総数を考えると魔王軍は全体の30%程度まで減少したと考えていいでしょう」

ハチコが肉体の感覚を確かめながらも装備やステータスを確認していく。

「あっと、地図が冒険家じゃなくても使えるままなんですね。嬉しい誤算です。

んー、そうですね…全体の勢力差はおおむね私の予想と一致していますが、橙1番の街が勇者勢の支配下に切り替わっていますね」

いくつかのデータを確認したのち、ハチコはふと顔を上げる。

「殆ど四面楚歌なんですが……どうしたいですか?」

いくつかのデータを確認したヌル(の姿をしたハチコ)は本物のヌルにそう尋ねた。

「えーっと…自分がどうしたいか…ですか? 

そりゃ、勝てるものなら勝ちたいですが…」

ヌルはハチコの質問の意図が掴めず、聞き返してしまう。

ハチコは状況を立て直すか、一点集中の攻撃で勝負をかけるかという点を聞いたのだが、ヌルから返ってきたのは少しズレた答えだった。

その返答にハチコは笑顔を浮かべるが、ヌルを見て、いまは自分も顔のないキャラとなっていることを思い出す。

「ええと、それはもちろんなのですが、どうやって勝つかという話ですね。

味方の本陣を取り戻すか、あえてここで攻撃を仕掛けるかという選択になるかと思うんですが…。私はヌルさんの能力を詳しく把握しているわけではないので、ヌルさんの話を聞きたいですね」

ハチコは地図をヌルにも見えるように表示させて敵と味方の本陣を見せる。

敵本陣は索敵無効が発動しているのか、この位置からではハチコの地図を用いても詳細は知れない。一方で味方本陣は敵の存在を示すアイコンで埋め尽くされていた。

ハチコの地図で状況を見たヌルは即答する。

「ああ、そういうことでしたら、本拠地の立て直しを最優先にしたいですね」

「ほう…?」

きっぱりと言い切ったヌルの即断を頼もしく思いつつも、ハチコはその理由に疑問を持つ。

「何か作戦が?」

「あ…いえ…」

ハチコの素直な反応に、ヌルは急に歯切れが悪くなる。やがて、少し言いづらそうにしながらも、照れくさそうに打ち明ける。

「本陣の奪還とと言うよりは……陽夏の仇が討ちたいです…」

そんなことを言うヌル。

状況に変化があったとしても、ヌルは陽夏のことがずっと気になっていたのだ。

陽夏が死亡した遠因はハチコにあったが、そもそもの直接的原因は敵にあるのだ。

大事な場面を邪魔されたという怨みは忘れていない。

その様子にハチコは微笑ましい思いになる。

「ふふ…」

敵の襲撃を対処していたハチコは急激に悪くなる状況に青ざめる思いで、本陣から脱出した今もこの状況を巻き返さないといけないという責任にどこか焦燥を覚えていた。

そのせいで思考が空転するばかりだった。

ヌルの意見を聞きたいという態度で彼の判断を仰ごうとしたのもそのせいだった。

しかし、戦略や戦術ではなく、個人的感情を最初に置いたヌルを見て、目から鱗が落ちる思いだった。

やりたいだけやって勝つという目標を初志貫徹するヌルを目にして、ハチコは“意地の悪いアイデアで”頭が冴え渡っていく。

「分かりました! では、ヌルさんのその考えをベースにして、敵軍をめちゃくちゃにしてやりましょう。今なら私も戦力として活躍できるワケですしね!」

ハチコは自信に満ちた笑顔を見せたつもりだったが、表情は存在しないためにヌルに伝わることはなかった。

それどころか彼女の感情が細かい動きとして触手に反映され、無数の触手がざわざわと蠢いていた。

「ぅわ……、いや、そうですね」

普段は自分が触手を扱う側であるだけにその破壊力を自覚しており、ハチコにその気はないにしてもヌルは触手が蠢く様子に原初的な恐怖を覚えるのだった。

とはいえ何かを指摘するというわけでもなく、頷くに任せる。

ヌルから若干の恐れを抱かれているとは想像もしないハチコは、同意と受け取って話を続ける。

「でしたら、私達の行き先を分担をしましょうか。ヌルさんはまず最初に橙1番の街に寄ってもらって、今も待機中のあまねくさん配下の人たちを橙2番の街に奪い返すように指示を出してもらえますか?

敵がティオさんの街が占領した後もどのくらいの戦力が駐留しているのかは分かりませんが、味方の戦力を遊ばせておくも勿体無いですし」

「確か、あまねくさんの配下の7割が待機中という話でしたけど、どの程度の割合を出撃させましょう?」

「最低限の防衛だけ残して全軍を出撃で問題ないかと。橙1番の街はいますし、今更防御に戦力を割く必要はないでしょう」

ヌルは首肯する。

どのようにしてその事実に気づいたのかという点には疑問が残るものの、その理由は今気にするべきではないため、先の話をする。

「分かりました、自分はその街でササっと指示を出してから本陣に向かいます。ハチコさんは直接本陣に向かいますか?」

ハチコと2人で行けば敵の混乱に拍車をかけることができるだろうし、力の権化のようなこの身体の扱い方も伝授できると考えた。

しかしハチコはかぶりを振る。

「私は陽動として敵本陣の奇襲に向かいます。

ヌルさんが複数人いるという状況は離れた場所で活用してこそ輝くものですから」

「なるほど…。別れて戦うのであれば、せめて戦い方をいくつか教えておきますね」

「助かります。戦闘は下手ですが、強敵を見かけたらそれとなしに戦闘能力を測っておきますね」

2人はそうして話し合いをした後、ヌルの普段の戦法を確認してから別々の方向に歩き出した。

片方は自陣へ、片方は敵陣へ。

───イベント2日目の時間は残り1時間を切ろうとしていた。。


ーーーーーーーーーー


橙1番の街では混乱が起こっていた。

この街は四天王あまねく配下のプレイヤー達が構成員の全てを占める。

彼らは強さというルールのみに従って行動する集団であり、細かい取り決めなどをしない。

シンプルな方針のあまねくを快く思っていた。

彼らは警戒を指示されたために反対する理由もなく従っていたのだが、直属の四天王が死亡してしまった。

そこで今後の行動について意見の分裂が起こり、混乱に至っていたのだ。

彼らは強さのルールに従うものの、殆どはの者達は魔王軍に参画することによる利益が目当てで魔王へと参入している。、

故にトップの絶対性が揺らいでしまっている今、統率が乱れてきていた。


「他の街に偵察に出た方がいいかもしれないな…。あまねくが死んだ以上、この街に居続けるのはメリットが薄そうだ」

「そうだな、ウチはそろそろ動くが…一緒に行くか?」

「ああ、頼む。こっちも仲間を集合させる」

あまねくの配下にはギルドごと参加した者も多い。ギルド単位で行動すれば魔王軍の統率を外れても貢献度を稼ぐには足りる。

命令外の行動を咎める存在はもう居ないと判断し、自分達の利益を確保しようと行動するタイミングを窺う者がいる。

その一方で、

「宝珠の警戒を強めよう。ボスがタダで死ぬわけがない。相手を道連れにした上で、残りの雑魚をこっちに誘導したに違いないさ」

あまねくの強さに心酔し、慕っているが故に、与えられた命令を頑なに堅守しようとする者。

「なぁなぁ…順位戦しようぜ…? あまねくが居ない今ならラフなルールでいいからよ。俺ぁヤツへの挑戦権が欲しいんだわ」

戦況を一切気にせず自分の強さを追求しようとする者。

「別の街にいるギルドメンバーが死んでるのを確認したわ。魔王軍はおそらく負けよ。今のうち逃げちゃって、今からでも勇者側につくのはどうかしら?」

魔王軍を見限ろうとする者。

…と、あまねくが死亡したことに対する反応は様々であった。

指揮官不在の戦闘集団が統率を欠いて暴走するまであと幾許という頃。

───魔王ヌルが到達したのだった。


「ん? アレって…」

「魔王じゃないか?」

「魔王だ…」

ヌルが姿を見せると、さざなみのように反応が広がっていく。

ヌルはまず知っている顔、つまりあまねく直属の配下を探すが、見える範囲に居ないため宝珠のある拠点に向けて歩を進める。

多くのプレイヤーは初めて見る魔王の姿に驚き、道を譲ってくれる。ヌルが拠点を目指しているのが分かったからだろう。

一方で、現在の状況がある程度読めるものは魔王軍が劣勢なのではないかと疑念を持つ。

すなわちヌルから情報を引き出せないか、付け入る隙がないかを確かめるためヌルに対して不遜な態度をとる。

拠点に向かうヌルの道を塞ぐように身を乗り出す者がいた。

「なぁ」

とても好意的とは言えない声色で話しかけられたのだが、ヌルは無視せず足を止める。

自分のすることは既に決めているし、周囲の目もある。状況がどう転んでも、結論として周囲のプレイヤーに旧ティオ支配の街を奪還するように指示する点は変わらないのだ。

「あんた魔王だよなぁ? どうしてこんなところにいるんだ?」

生意気を体現したように絡んでくるのはレベル105の鬼の男性で、ヌルの知らない人物だった。

ヌルはちょうど良い機会だと思い、要件を伝える。

「あまねくさんが死亡したから指示を出しに来ました。何か問題でも?」

泰然と言い放つと、男はケラケラと笑ってからヌルを品定めするように周囲をゆっくりまわる。

「あまねくが死んだのは俺も知ってるヨォ。アイツは味方の救援に行くとか言ってたもんな。

でもって救援失敗してるんじゃねぇか?

それで、あんたは俺らにあまねくの尻拭いをさせるために来たってことじゃねぇか? 違うかい?」

ここまで露骨な態度であれば、あまねくに対してどんな感情を抱いているかは明瞭であった。

あまねくの行動をカバーしても彼自身には不利益はないはずなのに、その点を悪いことであるかのように指摘する人物。

ヌルは目の前の男の狙いが魔王軍の利益にないことを悟る。

こういう人物は話すだけ無駄であり、ここで時間を浪費することはヌルの希望するところではない。

故に結論を急ぐことにした。

「何が言いたいんですか?」

「…おぅ」

男はヌルの周囲をゆっくり回っていたが、瞬時にヌルが自分の方に振り向いたことに驚く。

彼はアサシンであり、気配を消すスキルと相手を観察するスキルを使用して、ヌルのステータスを暴こうとしていた。

もし魔王軍を抜けるならば”手土産“が必要と考えていたのだ。

謎に包まれた魔王のパラメータは、人によっては喉から手が出るほど欲しい情報である。

現状、ヌルのレベルが高すぎて観察が失敗し続けているのだが、彼はクダを巻いてヌルを注視する時間を伸ばそうと考える。

口喧嘩に持ち込んで激昂させることができれば、その分ガードに隙が生まれるだろうと判断した。

「あまねくなんかより、俺の方が役に立つと思うぜぇ? アイツは死んだけども俺は生き残ってる。生き残ることに関しちゃアイツより俺の方が上手ってわけだが───グェッ!?」

魔王が温厚そうな人物と判断して、多少煽ってみただけなのだが、既にヌルは陽夏との大事な場面を中断されて爆発寸前であった。(正確には一度ハチコとのやり取りで爆発している。)

今すぐにでも本陣に行きたいのに、ダル絡みのような遅延行為をされれば物理的に黙らせるのは当然だった。

ヌルは多少”強めに“男の首を掴む。

「はぁ……無駄な時間を使いたくないんだ」

「おおっと、魔王さんよ、周りを見てごらんよ? 俺をどうする気かしらねぇけど、配下をゾンザイに扱うと人望を無くすんじゃあねぇかい?」

ヌルを動揺させようと言葉を選んだのだが、確かに男の言う通り、周囲のプレイヤーたちはヌルと彼の動向を注視している。

魔王がどういう人物か知らないため、今後信頼できるのかと値踏みしているのだろう。

ここで乱暴に振る舞うことのデメリットを説いたのだろうが、しかし、最早ヌルには関係なかった。

ヌルは呆れたように口を開く。

「そもそも、あなたたちは戦闘能力を第一にする軍勢だろうに」

掴まえた人物を空に向かって投げ捨てる。

「のわぁぁぁぁぁっ!」

割と本気で投げたため、明後日の方向に飛んでいき一瞬で見えなくなる。

「強さ以外で俺にアピールして何の意味があるんだよ…」

そう言い捨て周囲を見渡すと、ヌルの膂力に呆然としている者が殆どだった。

アサシンは身のこなしに優れているため、簡単に捕まったり放り投げられたりする職業ではないのだ。

ヌルはこの呆然とする彼らに指示を出すにも難しい雰囲気かもしれないと感じる。

果たして命令に従ってくれるのかは疑問である、どう切り出すべきかと思案したが、予想外の人物が沈黙を破る。

「おおおおおおぉぉぉ!!」

人混みを掻き分けて、ヌルの前に1人のプレイヤーが姿を見せた。


「lv.113 ダイダロン・ダンダロイ 地底人アンダーグラウンド/重甲騎士」


開始前の会議でヌルに投げ飛ばされたダイダロンであった。全身鎧をガチャガチャ言わせながらヌルの前までやってくる。

兜を脱いでいるはずなのに、がっちりとした顔つきは兜と同じ形と思うほどにいかめしい。

しかし、そんな厳しい顔には朗らかな笑顔を浮かんでいる。

「魔王様よぉ! お見事な投擲ですなぁ!」

「えっ」

ダイダロンのまるで馴染みの商店の店主のような様子に、ヌルはギョッとする。

ヌルは彼に好感を持ってはいたが、このような態度ではなかったはずだと違和感を覚えたのだ。

そんなヌルをよそに、ダイダロンは厳しい顔に切り替わると背後に振り向いて声を張る。

「オメェら! この方が俺らの頭領だぁ、挨拶はどうしたぁ!?」

その声を受けてダダダダッと人混みから十数名が姿を見せる。全員が防御に自信がありそうな格好をした騎士たちだった。

「「「オス親分! 魔王のダンナァ、よろしくお願いしヤス!」」」

突如現れた屈強な騎士たち。

そして、見た目通りの元気のいい挨拶。

それに圧されたヌルはつられて返事をする。

「え、ええ、よろしくお願いします…?」

彼らの態度に少し困惑するヌル。

ヌルはここまで明確に上下関係を示してくる相手と接した経験が少ない。今まで関わってきた部活やサークルにそのような風潮がなかったためであり、その意識は四天王に対するフラットな態度にも反映されていた。

故に、まるで舎弟のような態度のダイダロンに新鮮味を覚えながらも戸惑いを覚えていた。

そんなヌルの困惑を読み取ったのか、ダイダロンが事情を語り始める。

「いやはや、俺は自分の防御に絶対の自信があったんですがねぇ、アンタにぶん投げられて気づきましたよ、まだまだ半人前にも届いてないってね!

そういうわけで、魔王軍でしっかり修行を積んで、今度こそ最強の防御を手に入れてやろうって思っとるんですわ」

「「「俺らも同じ気持ちでヤス!」」」

聞いていないのに周囲の騎士たちから合いの手が入る。

「俺ァ、あまねくとは何度か闘ってますがね、四天王の座をかけた決闘を申し込むに至らないくらいにはボコボコにされとるんすわ。

でもね、そのあまねくでさえも、アンタは格が違うって言ってたんすわ。その言葉にピーンと来てね、きっと魔王はメチャクチャな修行をしてるに違いないってね!

そこでどうです? もし俺がここで功績を示したらよぅ、俺とこいつら…ああ、「鰹節同盟」ってギルドなんですがねぇ、ソレをアンタ直属の配下にしてくれねぇですかい?」

ダイダロンはそう言い放つとヌルの顔を見つめる。

やる気と自信に満ちた顔をしており、な気配が全身から溢れていた。

ヌルはこの人物には元々好感を抱いていたし、彼の提案は魔王軍にとっても有益なものである。

一本気なダイダロンを認め、ヌルは頷く。

「分かりました。働き次第では、自分の直属の配下に設定させてもらいます。ちょうど、指示を出すためにこの街に来ていたところです。

じゃあ、あまねくさん配下の戦力をいくら出してもらっても構わないので、橙2番の街を奪還しつつ、全ての敵を排除してください」

「お安いご用だ。朗報をまっててくれや」

ダイダロンはニヤリと笑うと、兜を被り直して仲間たちの元へ歩いていく。

その姿をヌルは頼もしく感じるが、その背中にボソボソとつぶやくような声が投げられる。

「あまねくが死んだ街だぞ…勝てんのかよ…」

「無理難題なんじゃねぇの?」

その声をダイダロンは無視していたが、ヌルは気に障ったために声の方を向く。

魔王らしく険をはらんだ返答をする。

「自信がない人は街に残ってもらっても構いません。戦いに出ない人が全員出陣するよりも、あまねくさん1人の方が強いでしょうし」

「ああ?」

遠回しに臆病者と揶揄されたことを感じた者たちから敵意を感じるが、表立って反抗してくる者はいなかった。

ただ、投げかけられる声がある。

「はぁーん? じゃあ魔王様はさぞ強い相手と戦うんだろうなぁ?」

その声は不満からでたものだったが、ヌルには好都合だった。

ここで魔王の実力を示すことができれば、今後ダイダロンのように協力を得られる者が増えるだろう。

ヌルはハチコからもらっていた勢力図のデータを、周囲に見えるように表示する。

本陣には敵がひしめいており、敵の反応を示す赤いアイコンで真っ赤になっていた。

「マジかよ…」

「負けそうじゃねぇか…」

彼我の戦力差の実態を知った者達からざわめきが起こる。

驚く声を鎮まらせるようにヌルが地図を示す。

ヌルは地図の一点、自陣を指差す。

「ここを皆殺しにします」

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