Session03-07 ”憤怒”との出会い。
……どうしてこうなったのか。馬車を走らせながら自問自答する。
答えは決まっている。私があまりにも金を使い過ぎたからだ。
一介の
……仕方なかった。私とあいつの境遇が良かったとは思わない。ただ、それでも、機会を得ることができた。それにしがみつき、二十年。……二十年だ。やっと、ここまで来たのだ……。”同じ境遇の仲間”を見捨てる事ができようか。
馬車の中を見る。親子の奴隷が震えながらも抱き合い、我慢しているのが見える。男の奴隷の一部は、もしもの時の為に預けておいた剣を手にして、後ろの方をじっと見つめていた。誰しもが、この窮地に不安を抱いていた。買われなければ良かった。放っておいてくれれば良かった。希望なんてなければ絶望なんてしないのに。……色々思っているだろう。
気持ちは沈む。負の沼に意識が沈み込もうとした時、馬に乗った私が唯一、信頼している男が馬車に並ぶように走らせてくる。
「カイル!あの街の貴族の
絶望。その言葉が頭を
「ラース。……何とかできそうか?」
私の言葉に、彼は真剣な表情で首を横に振った。その表情は最悪の事態であることを
「俺と部下、そして男ども全員が死んでも無理だ。ただ、時間は稼げる。お前が女子供を連れて逃げろ。最後の最後まで粘って時間は稼いでやる!」
敵の数は多く、そして装備が整っている。ラースの率いる元
どうしたらいいかを悩みながらも、馬車を走らせ続けていると先の方でふっと灯りらしきものが消えた。
……灯り?
「ラース、見えたか?」
「……まだ諦めるのは早いかも知れんな。あの辺りまで行ってくる。もしかしたら、冒険者かも知れん!」
ラースがそう言って、馬に
◆◆◆◇◇◇
「そこの者達、何者か!」
闇を切り裂くように近づいてくる騎馬に乗った男が、
「我が名はバーバラ!
「俺の名はラース!一党”勇敢なる剣闘士達”の
ラースと名乗った男は真剣な眼差しで、そう言い切った。数は百。それは
「イーネ、ピッピ。あなた達は”
フィーリィの指示を聞いたイーネとピッピは、一度頷くと直ぐに走り出した。少し進むと、角灯の灯りの範囲から外れ、闇に
「あなた方についても何者かが明確でない以上、あくまでも、向こうの言い分を聞いてからになります。」
「承知した。申し訳ないが
慎重な発言に、ラースは内心で評価を上げた。すぐに
「……後詰として三十人近くが合流します。それまでは、残った戦力で
その言葉に、三人が
四人が
それに気づいたのか、止まれ!!という声が響き、馬車三台が少しずつ速度を落としながら停車した。騎馬に乗った者達も近づいてくる。警戒の為だろう、
そうしていると、一番手前の馬車を操縦していた男が、馬車を降り近づいてきた。
「……ラースの話を聞いて下さり、感謝致します。私は、奴隷を
「俺は一党”鬼の花嫁”の党主、アイルだ。こちらは
「……私が本来役に立ちそうにない奴隷を買い取りし過ぎたからですね。……私の持つ金を狙っているか、私達を殺して奴隷を取り戻せば、丸々金になると計算しているのではないかと。」
カイルは、何事でもないように……ただ後ろめたいことは何もないと、胸を張って言い切った。その眼差しと胸を張った姿……そして、カイルとその奴隷達を守るように、
「正当な答えが返って来ない限りは、カイル殿。あなた方に助力いたします。二十〜三十程、後詰めが参ります。それまで時間を稼ぎましょう。」
その言葉を聞いたカイルの瞳に希望の光が灯る。本来であれば、走り続けて疲れているに違いない。しかし、その疲れを見せる事なく、カイルは指示を出していく。馬車に乗っていた奴隷を下ろし、御者をしていた者と一緒に先程まで、アイル達がいた野営地辺りまで下げさせる。奴隷たちを移動させた後、道を
騎馬に乗っていた者達は、
特に短弓とはいえ、遠距離攻撃が出来る者が数名いたのだ。短弓に矢を
道の封鎖や、戦闘の為の準備をしていると、馬車周りの闇の先に、火が浮かび上がる。松明の火だ。闇の中からそこだけがぽっかりと闇が払われ、松明を持った兵士が浮かび上がる。その左右と後ろに兵士が続き、歩いてくるのが見える。そして、松明の火が踊り影が乱れ舞う。松明の明かりに照らされて浮かび上がるのは、他人の不幸が自分の幸福とでも言いそうな、ニヤニヤと浮かべる
それを見たアイルは、大声で誰何の声を上げた。
「我々は一党”鬼の花嫁”である!その方らは何者か!答えが無ければ
「我らはザスコ子爵の者である!ザスコ子爵の領地内にて奴隷を
「こちらには、ギルドにて購入を行った証書がある!そちらは捜査の指示書はお持ちか!」
証書については確認をしていないが、そう、口にした。そして、こういった
「ええい!!貴様ら、かかれ!かかれ!!あの
「おおおおおおおおおお!!」
男の欲望を刺激するその指示は、確かに部下の士気を高めた。娼館でも珍しいほど
その瞬間!
『構え!放てぇぇぇ!』
雄叫びを切り裂く様に、
目の前に
『魔法!』
『我との契約に従い、
「……!精霊語ですね……
フィーリィが
騎馬隊が向きを変え、いざ突撃!と
斜めに木が一斉に生える。不思議な光景だった。何よりも一番驚いたのは騎馬であろう。いきなり目の前に乗り越えられない
「
和式
「こちらも出るぞ!かかれ!」
アイルが大声で指示を出し、馬車を乗り越えてザスコ子爵軍の歩兵へ攻めかかる。その声に従って、バーバラ、ルナが駆け出し、ラース麾下の人数も、ラースを始めとして駆け出した。
フィーリィは乱戦のため弓は使えないと判断。”
アイルの棒によって頭を砕かれ、バーバラのメイスで身体を打ちのめされる。ルナの長剣で切り裂かれ、ラース達の持つ各々の得物によって
そして、後ろからは平塚と名乗った戦士率いる森人族が騎馬兵を蹂躙している。囲まれ、逃げるには森の中しかない。しかし、森の中にはチョトー近郊の”
自分たちが追っている相手は奴隷商だ。そして、これだけの護衛がいるのであれば、殺すよりは商品として売った方が良いと考えるのではないか?それに
「得物を捨て、両手を上に上げて
アイルが目の前の相手を殴り殺しながら、叫んだ。その叫びを聞き、皆が同様に叫び始めた。森人族達も叫んでいる。その言葉を聞いた兵士達は、顔を青くしながら持っていた得物を捨てて、手を上に上げて跪いた。騎兵の方は、今回のやり方にどんな意思が働いていたかがわかっていたのであろう。降伏することなく、全員が死を選んだ。
降伏した
「
平塚と名乗った男は自身の兜を脇に抱え、頭を軽く下げる。その礼は綺麗であり、きちんと礼法を学んだものだろうと思わせるものであった。先程まで使っていた槍は後ろに控えている森人族……
「俺が一党”鬼の花嫁”の党主で、アイルと申します。こちらがカイル殿で、商人です。そちらがラース殿で、一党の党主になります。ご用件の方をお伺いできますか?」
「おお。これはこれはありがたい。改めまして……
平塚の発言を聞いた三人は互いの顔を
「俺たちは、お前の判断に従う。……お前が俺たちに運を齎した。なら、その幸運の持ち主に従うまでだ。」
「私も同意見です。今の私達の代表はあなたです。あなたが決めた事であれば、私達も従います。」
その二人の言葉は、アイルの背を押すものだった。ラースの瞳を見て、カイルの瞳を見る。アイルの瞳に、意志の光を見た二人は力強く頷いてみせた。アイルも、それに対して頷いて応えて見せる。
「俺と、この二人と、フィーリィという
「承知した。では、ご案内させていただく。」
平塚はニッカリと
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