Session03−02 鉄火場 〜アイル〜
ざっと60m先にトロール、オーク二匹の姿が見えた。足元辺りを見るとゴブリンの顔が見える。なるほど、
「フィーリィ、ピッピのカウントで、同時に行くぞ。」
「わかりました。」
「じゃぁ、行くよ。……ひと……ふた……み!!」
ピッピの声に合わせて、俺とフィーリィが立ち上がり魔法を発動するための
『眠り、
『我との契約に従い、
俺とフィーリィがそれぞれの言語で、詠唱を行う。俺は少しでも早く行動に移れるように
唱え終えると共に、体から魔力が抜けていくのが分かる。それに負けぬ様に立ち上がり、一歩、また一歩と前に出し、駆け出す。それに
「我が右を抑える。ルナは左を頼むぞ!」
「わかったよ!!
二人の声を横に聞きつつ、オークへ視線を向ける。近寄ってくる相手が両方とも女であることを理解したのであろう。下半身が盛り上がり、興奮していることがわかる。酔ってる上に、女が近づいてくるのだ。奴らにとっては、好都合としか思っていないだろう。……”手は綺麗に、心は熱く、頭は冷静に”……武術の
トロールの顔が
「おおおおおおおおおおお!!!」
俺はあいつの顔を
「いざ!!!」
◆◆◇◇◇◆◆
「おおおおおおおおおおお!!!」
”
ああ、”ボクの勇者様”!その声で心の底から勇気が
「グルルルアアアアアウ!!」
オークが雄叫びを上げながら、自身の得物で盾をガンガンと叩く。……ボクが”ボクの勇者様”に
オークが盾を正面に向け、身体を盾の後ろに隠そうとする。……それなりに経験を積んでいる相手だ。できる限り、自分の身体を隠して、少しでも有利に戦おうとしている。……だけど、わかるんだ。いやらしい視線をね。ボクはこれでもそれなりにスタイルは良いと思ってる。出る所は出て、引っ込んでいる所は引っ込んでいる。そして、”ボクの勇者様”が評してくれた、
長剣を両手で握り、ビュン!ビュン!と
「グアアアアアアア!!」
盾を前に構えながら、手に持った剣を振り上げボクを斬ろうと襲いかかってくる。下半身は盛り上がったままだ。嬉しくはないけども、ボクの
「せえええええええええい!!」
相手が迫ってくるのに合わせて、一歩前へ踏み出す。その一歩に合わせて、剣を振り下ろす!風を斬る音と共に、振り抜いてみせた。そして、下段に剣を構えながら、振り返る。オークが、何をされたのかと、ただの小娘か、みたいな表情を浮かべながら振り返ってきた。……うん。本当に、この長剣は素晴らしい。肉を断っているはずなのに、血がついてさえいない。
「グフフフ……グギャギャ?!」
笑い声を上げながら、ボクに近づこうと歩きだすと、
「……次は、バーバラの手伝いをしなきゃ……って、そっちも片付いたかな。」
隣で戦っている戦友の方へ視線を向ける。
ああ、やっぱり。
◆◆◇◇◇◆◆
「おおおおおおおおおおお!!!」
おお、おお!なんと
”
「我が名はバーバラ!お主の相手は我じゃ!さぁ、かかって参れ!!」
「グルルルアアアアアウ!!」
目の前に居るオークが我の声に応えるように吼える。ああ、嗚呼!そうじゃ、我がお前の相手じゃ!お主の運命と、我の運命!その
盾を構えながら腰を落とす。そして、そのまま駆け出す。相手も盾を構えて待ち構えておる。まずは押すとするか……横振りで一撃を入れようとしてみる。衝突音と共に、盾とメイスが弾ける。ふむ、ちゃんと抑えて来てるな……しかし、フィーリィの”
「グラアアアアアア!!!」
勢いよく振り上げた斧を叩きつけるように振り下ろしてくる。盾で受け流して、やり返すのが安定じゃが……。我もルナが言う、勇者の
「グアア……。」
一発叩きつける
「さて、ルナの方を手伝うか……。……まぁそうなるじゃろうな。」
隣で戦う戦友へ視線を向ける。
そこには……。
◆◆◆◆◇◇◇◆◆◆◆
「おおおおおおおおおおお!!!」
アイルの雄叫びが聞こえてきた。何だろう……今まで、感じたことのなかった
オーク二人にはバーバラとルナが。トロールにはあいつが向かった。ゴブリンの位置は……ああ、あの辺りか。……ぐーすかと眠っているな。あいつの”
「Zzzz……グゲッ。」
頭を上げ、首を
「Zzzz……グゴッ。」
二匹目。これも頭を持ち上げ、首を掻き切った。血が溢れて広がっていく。広がる度にビクンビクンと震え、そして、止まった。……よし、次だ。もう一匹の方へ近づいていく。頭を掴んで持ち上げ……。
「グルルルアア!!」
……しまった。油断した。ゴブリンが眠ったふりをしている可能性を無視してた。ゴブリンはあたしが頭を掴んだのを好機と見て、そのままあたしに飛びかかってきた。身長としてはあたしと同じくらいだ。飛びかかられると共に、ゴロゴロと一緒に転がることになる。そして、ゴブリンがあたしの上に馬乗りになった。二度、三度と殴りかかってくる。頬に数発、鼻に一発。鼻から血が流れ出る。痛みに涙が溢れるのがわかる。剣を落として、顔を守るように手をクロスして守ろうとしてしまった。
「グギャギャギャギャ!」
あたしの姿を見て、ああ、こいつはやれると考えたのか……股間を大きくした上で、舌なめずりをしているのがわかる。ああ、ゲスい。手に持った剣で、あたしの胸元に刃を通して服を裂く。……みんなと比べると出ていないけど、胸が
「ゲヒィ!?」
”酩酊”で酔っ払っているのは分かってた。だから、戦闘中とは言えゴブリンなら性欲に駆られると思っていた。その大きくした股間を思いっきり膝で蹴り上げてやった。……裏通りで鍛えた膝蹴りだ。久しぶりに繰り出したが”
「ゴブォゴブゥ……。」
喉元と、口から
であれば……。
あたしは、あいつのいる方へ目を向けた。
◆◆◆◆◇◇◇◆◆◆◆
俺は、トロールの前に向かって、長傘を構えながら進んでいく。
棍棒の一撃を喰らえば、ただでは済まない。鎧を着込み、盾を構えたバーバラだったとしても、下手をすれば腕が折れるだろう。ならば避けるだけだ。
「さぁ、
トロールの
土がかかるのを無視しながら、腰を落とし、気合と共に
「グオォ!?」
俺の突きを食らって身体がグラつく。……予想以上に皮が厚い。手応えが浅い……有効打にはなってないのがわかる。俺よりも大きく、重い。そして皮は厚く、そのままだと有効打になり得ない。……で、あればどうするか。急所と言われる場所はいくつか存在する。それが全部一緒とは言えないだろうが、身体の作りが似ている以上、似てはいるだろう。そう相手の身体を観察していると、ヒュンという風切り音と共に矢がトロールの目に突き刺さった。飛んできた方を見ると、フィーリィが次の矢を
「グルララアアアアアアア!!!」
トロールがフィーリィの横入りに対して激怒するかの様に吼える。自分の目を射ったであろう相手を探すように俺を無視して見回していた。そして、フィーリィの姿を見つけ、視線を固定した。
「グオオオオ!!」
「せえええええい!!」
俺を押し退けてフィーリィへ進もうとするトロールの手を避けながら、くるりと回って、トロールの片膝の後ろに石突きを叩き込んだ。膝は正面からの衝撃には比較的強いが人体の構造上、裏からの衝撃には弱い。そんな所に俺の気合の入った一撃を叩き込まれれば……。
「グオオオオ!?」
トロールが
「ふん!!」
気合いと共に足を踏み降ろす。狙いは……首。頭は頭蓋骨があるため、致命傷を与えるのは困難だ。だが、首は人の姿を取っている限り構造上弱い。そこに、気合の入った俺の踏み抜きが入る。皮は固くとも、その衝撃を吸収することはできない。ゴギンと鈍い音が響き渡った。トロールが驚きの表情を浮かべ、俺を見上げている。俺を引き倒そうと手を伸ばしてくるが、それを尻目にもう一度踏み抜いた。ゴギキンと鈍い音が再度響き渡る。そして、引き倒そうと伸ばしてきた手が止まり、トロールの目の焦点が離れた。
足をどけて、トロールに向かいながら構えを取る。……
構えをとき、周りを見回す。
バーバラはニカリとした笑みを向け、フィーリィは番えた矢をしまいながらこちらへ向かってくる。ピッピは裂けた胸元を隠すようにし、ルナは尻尾をぶんぶんと振っていた。
俺は皆に向かって、拳を突き上げて見せた。
俺たちは勝ったのだ。
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