Session02-07 ”策士、策に溺れる”
ハルベルトの街も、夕方から夜に変わる
その通りを、
特に冒険者や傭兵であれば、魔物を倒し、その素材であったり、討伐証明部位を回収する必要があるため、量が多くなれば頭陀袋へ入れて持って帰るのは日常的な話であった。
大柄な男は、言わずもがなダールである。周囲に視線を向けて警戒をしつつ、歩いていく。路地裏へ入り、人気の少ない方へ進んでいく。暫く歩き続けると、とある店の前に到着した。”
ダールが”小鬼の賽子亭”の扉を開けて入る寸前、親指を立てて見せた。そして、扉を押して入っていく。少し後を追いかけていたアイル達も、足音を忍ばせながら、入り口の扉の近くに潜んだ。ピッピが片手を上げて皆の動きを制しながら、ゆっくりと扉を少し押し開ける。普段であれば、柄の悪い男達の
「さぁ、あんたの依頼の通り、孤児院の修道女を
「……他にいた四人はどうした?」
ダールが中にいるであろう依頼主に報酬の
「……へっ、五人で一人頭金貨二枚ってのも良いが、一人なら十枚。そっちの方が良いだろう? 流れの傭兵だ。剣を抜いての
ダールのその発言に依頼主は笑い声を上げた。腹を抱えて笑っているような下品な笑い方だった。
「……なるほど、強欲だな。報酬をくれてやろう……おい!」
「て、てめえら!?何のつもりだ!!」
「流れの傭兵のお前に、私の引き立て役の地位をくれてやろうと言うのだよ。このバウエル公爵家の次男、ラークス様のな!!」
名前を明かすまでは予想はしていなかったが、好機であった。名乗ったのを耳にしたタイミングで、ブルズアイが
そして、アイルを先頭にルナ、ピッピ、ブルズアイと続き、マーリエ、ダールが店に入ってきた。それを見た、ラークスの取り巻き三人は戦いにならないと、
「……どうして、マーリエを攫おうとした?」
アイルは自身の感情を面に出さないよう、無表情を意識しながらラークスへ問う。アイルの質問に、我が意を得たりと彼の抱えていた考えを洗いざらい口にするように言葉を述べ始めた。
「九の時に私から付き合いを申し出てやったのに、受けられないと断って来た後、豚のように丸々と肥えたという話を聞いてな。ざまぁみろと思っていたが、最近になって見られる姿になったと言うではないか。私ももう十五。婚約者などが居てもおかしくはない歳だ。そして、そこのマーリエは貴族の間での交流が絶えており、そう言った話もないであろう。そんなマーリエが攫われ、それを私が助け出す。さらには昔から
アイルは改めて、自分自身の
「……おい、ラークス。ベルンシュタイン辺境伯の三男を覚えているか。お前と同い年の奴だ。」
そう声を投げかけながら、一歩一歩近づいていく。
「ベルンシュタインの三男だとぉ?……たしか、
そして、ラークスの目の前でピタリと立ち止まった。
「……アイル!?」
「そうだ。そして、マーリエは俺の嫁だ。その嫁をけなすような発言をしたお前を俺は許さん!」
その言葉と共に、
「アイル!!」
マーリエが、アイルの名を呼ぶと共に胸に飛び込んだ。アイルは名前を呼ばれた時点で振り返り、飛び込んできたマーリエを優しく抱き止める。
「……我慢できなかった。」
ただ、それだけをマーリエに伝えた。その言葉だけでアイルが、マーリエを心から心配してくれていた事が分かる。
「……ありがとう。」
マーリエも、ただそれだけをアイルへ伝えた。そんな二人を気遣うように、ゴホンと咳払いをするブルズアイ。それを聞いたマーリエは頬を赤くしながら、パッと離れる。
「……俺は何も見ていない。こいつが勝手に転んで大石に左頬をぶつけたのは見たがな。……お前らもそうだろう?」
ブルズアイは、自分の部下、ラークスの取り巻き、ルナ、ピッピ、ダールに向かってそう言った。その言葉に、全員が一度頷く。あくまでも、
「お
マーリエは、取り巻きの三人を
「……あなた方、女性ですね?」
マーリエは三人に問いただした。確かに、美少年と言えるような
「あなた達と、ラークスとの関係を教えてくれるかしら?」
マーリエに問われるままに、三人は順番に経緯を話していった。長男とずうっと比べられており、
「……わかりました。三人が首謀者ラークスの指示を断ることができない立場であったこと、最後の最後に潔く降伏をしたこと、経緯を包み隠さず話したことを
「私、ルーはマーリエ様に変わらぬ忠誠を誓います!」
「僕、ターニャはマーリエ様の為に
「俺、ケイはマーリエ様の剣と、盾となってお守り致します!」
三人が自身の名を名乗りながら、マーリエに誓いの言葉を捧げる。それを聞き、頷いたマーリエは、ダールを手招きする。そして、三人にダールが上官となることを告げた。
「彼の名はダール。私が騎士として
「ハッ!……しかしながらマーリエ様、俺の技術となると流派とかそう言ったものじゃない
「騎士として、正々堂々として挑んで死んだら意味がありません。ルナ殿なら理解頂けると思いますが、どんな手を使ってでも勝つか、せめて生き延びなければ意味がないのです。死ねば全て終わりです。……彼女達が戦わなくてはならなくなった時に、生きて帰れるようにしてください。」
その言葉に、ダールは心を強く打たれた。名誉や名声ではない。人材が一番大事であることを示してくれたのだ。改めて、胸に手を押し当てて敬礼する。
「……ああ、それと、ダールは三人から礼儀作法を教わるように。貴方は私の騎士として重要な立場になります。そう言った時に礼儀がなってなければ侮られますからね。……三人も、礼儀作法については教官として、手は抜かない様に。」
「「「はい!!」」」
その返事と、満面の笑みを見て、ダールは
「……お手柔らかにお願いしやす。」
そう言って、
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