第23話 決意
答えに困っているうちに珠希ちゃんと和也くんが戻ってきて、そこでその話はおしまいになった。
どうして言えなかったのかな。
誰と付き合っても、和也くんが選んだ人ならいいんじゃないかな、って。どうしてそう言えなかったんだろう。
大好きで大切な友達の珠希ちゃんと和也くんがもしも付き合うことになったら私も嬉しいはずなのに、嬉しいどころか、なぜかちょっと嫌だと思ってしまうんだ。どうしてだろう。
圭佑くんには和也くんに対する気持ちは芸能人に対する憧れみたいなものと言っておいて、完全に矛盾してるよね。これじゃまるで私……。
そこまで考えて私は一つの答えにたどり着きそうになったけど、それには気がつかないふりをしてトイレ行ってくるねと立ち上がる。
*
カラオケのトイレの鏡で自分の顔を見ると、自然と大きなため息が出てしまった。
いつ見ても情けない顔だな。
「つっきー」
「……っ!? 珠希ちゃん。びっくりしたぁ」
うつむいていると、いきなり後ろから肩を揉まれたのでびっくりして振り向いたら、そこにいたのは珠希ちゃんだった。
「この前は本当にありがとうね。ほんと迷惑なやつだよね、あたし」
私の肩をもんでいた手を体に回すと、珠希ちゃんはぎゅっと抱きついてくる。
「そんな、迷惑なんかじゃないよ。珠希ちゃんから会いたいって言われたら、いつでも行くよ」
さすがにあんまり夜遅いとお母さんたちにバレた時がこわいけど、でも珠希ちゃんがさみしい思いをしてるのに放っておけないよ。
目の前に回された珠希ちゃんの手にそっと触れる。
「前から思ってたけどさ~、もしかしてつっきーってあたしのこと大好き?」
冗談っぽい言い方だったけど、そんな珠希ちゃんに私は真剣にうんと頷く。
こんな風に遊んだり、メールしたりするようになる前から、私は珠希ちゃんのことが大好きだよ。
「珠希ちゃんはね、私にとって特別なの。
一年生の時に何人かが私の陰口を言っているのを聞いちゃったんだけど、珠希ちゃんだけが言わなかったよね。その時から、珠希ちゃんは私にとって特別だった」
「ん~……、そんなことあったかな~」
珠希ちゃんは不思議そうな顔をしてから、必死に思い出そうとがんばってるみたいだった。
いいんだよ、珠希ちゃんが忘れていても。
そんなことで?って、人に言われても。
それでいいの。
人にとってはそんなことでも、珠希ちゃんにとっては忘れてしまうようなことでも、それでも私にとってはすごくすごく嬉しかったことなの。
みんなで誰かの悪口を言っている時って、自分はそんな風に思ってなくても、なんとなく自分も言わなきゃいけないみたいな雰囲気があるけど、そうしなかった珠希ちゃんが好きだよ。
自分をしっかり持ってる珠希ちゃんが好き。
たとえ弱い部分を持っていたとしても、珠希ちゃんが大好き。
「忘れちゃったなら、それでいいの。
それでも、私は珠希ちゃんが好き。珠希ちゃんがさみしい時は、いつでも珠希ちゃんのところにいくからね」
珠希ちゃんは明るくて強くて、切り替えが早いように見えて、でも本当は繊細な部分もあるんだってこの前気がついたよ。
珠希ちゃんが泣くほど悩んでるなんて知らなかったけど、でも強そうに見える珠希ちゃんでも私みたいに悩むことがあるんだって思うと、なんだか少しホッとしちゃった。珠希ちゃんでもそうなんだなって、親近感が湧いたっていうか。
「なに、照れるんだけど~。もうっ嬉しすぎ。和也の次でも嬉しい」
「次なんて……。珠希ちゃんは、和也くんのことを好きにならないの?」
ぐりぐりと私の頭を撫でてくる珠希ちゃんに耐えながら、気になっていたことを聞く。
好きにならないのって言い方は変だったかな。でもそれ以外どう聞いていいのか分からなくて、そんな言い方になってしまった。
ただでさえ和也くんは素敵な人なのに、珠希ちゃんにも優しくて、この前だってわざわざ夜中に学校まで来てくれたし、好きになってもおかしくないもん。
「まあね。正直に言うとね、和也にはちょっとグラッとくることもたまにあるし、この前のあれはかなりきてたけど、我慢した。
あたし、友だちの好きな人とらないよ?」
「私は和也くんの彼女でもないし、誰を好きになっても珠希ちゃんの自由だよ」
「そんなこと言って、あたしと和也が付き合ったら嫌なくせに。誰かに和也をとられたくないなら、和也の彼女になっちゃえばいいじゃん」
そんなに簡単に言うけど、彼女になろうと思ってすぐになれるものでもないよね……。
だけど、嫌なくせにと言われて否定できない自分がいることも確かだった。
和也くんは、憧れの人。私の気持ちは、ファンが芸能人に憧れるみたいな気持ちだった。
でも、和也くんと友達になって、見ていただけの頃よりも和也くんのことをたくさん知って、私の和也くんへの気持ちは……。
「うん……、嫌、かもしれない。
私、和也くんのこと好き、なのかな……」
とっくの昔に好きになってたくせに、自分でもそれに気がついてたくせに、どうせ好きになっても私と和也くんじゃ釣り合わない、むしろ私が和也くんが好きになるなんて失礼だから、とか色々自分に言い訳して自分の気持ちに蓋をしてた。
「好きだと思うよ? てか、それしかないじゃん」
だけど、どんな言い訳をしてみてももう否定できないくらいに私は和也くんが好きみたい。
珠希ちゃんから最後の一押しをされて、やっぱりそうなんだって改めて自分の気持ちを実感した。
「そうだよね。好き、なのかもしれない。ううん、好き。私は、和也くんのことが好き。彼女になれるかは分からないけど、告白……してみようかな」
和也くんがどう思うかは分からないけど、自分の気持ちを自覚してしまうと自然と伝えたいって思えた。和也くんならフラれるにしても友達ではいてくれると思うし、それに和也くんに彼女が出来てからあの時言っておればよかったって後悔したくない。
「え? うそ、マジで言ってる? つっきーってたまに思いきりがいいよね。いつする? 今日?今日?早速今日しちゃう?」
「今日はさすがに無理だよ。せめて明日……や、やっぱり一週間後で」
興奮したように私の背中をバシバシと叩いてくる珠希ちゃんから距離をとりながら、苦笑いでごまかす。
つい勢いで告白するとか言っちゃったけど、まだ心の準備も出来てないし、さすがに今日は無理だよ。
「え~? ……よし、わかった! じゃあ今週中ね! 楽しみ~」
絶対うまくいくよ、と珠希ちゃんは嬉しそうに笑顔を見せる。なんだか告白する決意をした私よりも珠希ちゃんの方がはりきってるみたい。
私も……、がんばらないとね。
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