第24話 告白

 珠希ちゃんには今週中に告白するって約束してたけど、結局私はギリギリの金曜になっても告白できていなかった。


 さすがに今日こそは告白しないと……。わざわざ土日に呼び出すのも申し訳ないし、また来週って後回しにしちゃったら永遠に告白できないような気がする。


 フラれて気まずくなったらどうしようとか、迷惑だったらどうしようとか、心配なことはたくさんあるけど……。考え始めると抜け出せなくなるいつもの無限ループに入る前に、今のうちに告白したい。


 そうしないと、いつまで経っても私は変われない気がするから……。


 思いきって和也くんを放課後の図書室に呼び出すと、和也くんは嫌な顔ひとつしないで来てくれた。


 テスト週間でもないし、みんな部活にいっているからか放課後の図書室には私たち以外誰もいない。


 たくさん人がいても話しにくいけど、全くいないっていうのもこれはこれで緊張する。


「いきなりごめんね。部活の時間大丈夫?」


「あ~……三十分くらいなら大丈夫かな」


 異様なほどに心臓もバクバクしてるし緊張するけど、あんまり待たせても申し訳ないと思ってそう切り出すと、和也くんは図書室の時計を気にしながらそう言った。


 部活もあるだろうし、やっぱり早くしないと……。


「あの、これ。手紙書いてきたから、あとで時間がある時にでも読んでくれたら嬉しいな」


 直接伝えるべきなのか、メールで告白しようか電話で告白しようか色々考えたけど、どうせなら直接告白したいなって思ったんだ。


 だけど、いざ告白となると緊張して言いたいことを言えなくなりそうなので、結局手紙を書いてきた。昨日何回も何回も確認してきたし、よっぽど変なことは書いてないはず。 


 震える手で手紙を差し出すけど、和也くんはなかなか受け取ろうとしてくれないどころか硬い表情でそれをただじっと見ている。迷惑だったのかな。


「これってさ……、手紙じゃなきゃダメな話?」


 そんなにキツイ言い方ではないけれど、困ったような表情の和也くんを見ていると、みるみる自分の気持ちがしぼんでいくのを感じた。


 そういえば、中学の時に和也くんに手紙を渡そうとしたら見もしないで突き返されたって友達が言ってたような気がする。


 和也くんと友達になって、やっぱり和也くんがそんなことをする人だなんて思えないんだけど、あれは本当だったのかな。


 手紙は嫌い……なのかな?

 メールもあんまりしないっていうし……。


 何時間もかけて書いてきた手紙を受け取ろうもしてくれない和也くんにもう告白する勇気がなくなりそうだったけど、でも、告白するって決めたんだ。珠希ちゃんとも約束したし。


「ご、ごめんね、......分かった。じゃあ言うね。

私ね、私……和也くんのことが、......好きです。もし、よかったら、付き合ってください」


 それは、自分でも情けなくなるくらいに小さな声だった。


 もっと言いたいことはたくさんあったのに。和也くんの好きなところとか、それから最初は憧れだったけど、いつのまにかそれだけじゃなくなったこととか、たくさんたくさん伝えたいことがあったのに、それだけしか言えなかった。


 だけど、ちゃんと言えた。理想の告白とは全く違ったけど、それでも言えたんだ私。


 しばらくの沈黙ののちに、和也くんは照れたように片手で顔を覆いながらも笑顔を見せてくれた。


「マジで? ヤバイ、すっげー嬉しい。俺も、」


 和也くんは何かを言いかけたけれど、私たちに遠い方のドアから、うちのクラスの担任が入ってきたのを見るとすぐに口をつぐんだ。


 さすがに先生の前でこんな話は気まずいよね。


「こんなところにいたのか、前田。探したぞ」


「なに? 俺なんかした? いま大事な話してんだけど」


「こっちも大事な話だ」


 和也くんは愛想笑いをしながらも先生をうっとうしそうにみるけど、先生はいたって真剣。いつもにもまして顔がこわい気がする。


 何かあったのかな? もしかして私邪魔になってたりするのかな。


「進路のこと真面目に考えてるのか? 今のままの成績じゃ、どこの大学も受からないぞ」


「スポーツ推薦でなんとかならない?」


「いくらなんでもこの成績では無理だ」


「じゃあ就職する」


 一貫して軽いノリの和也くんに、先生は大きなため息をつく。


 夏休みに補習受けたことは知ってるけど、そんなにひどいのかな?


 二学期になってから進路調査の希望の紙を出したり面接もあったりして、そろそろ私たちも進路を考えなきゃいけない時期なんだなとは感じている。だけど、まだ二年生なのに何もそこまできつく言わなくても......。


「今のままの成績だと、進学や就職が難しいどころか三年生にも進級できない。部活での活躍も考慮されて二年生には進級できたが、今年はそこまで特別扱いはできないからな」


 厳しい口調ではっきりとそう言った先生に、今まで軽いノリだった和也くんも口をつぐむ。


 和也くんって授業サボったりとかはしてないのに、進級できないってそんな……。


「それが嫌なら、次のテストはもう少し真面目に勉強しなさい」


「真面目に......やってるつもりです」


「真面目にやっていて、どうやったら全教科赤点なんてとれるんだ。それも毎回」


 消え入りそうな声で反論した和也くんに、先生は冷たく言い放つ。


「せめて授業内容くらい、しっかりノートに写しなさい。黒板に書いたことの半分も書いてないじゃないか。友達に写させてもらって、再提出だ」


 黙りこんでしまった和也くんに先生は英語のノートを押しつけ、自分は図書室から出ていってしまった。

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