第20話 夜中の待ち合わせ

 夏休みの間、和也くんはほとんど毎日のように電話くれた。


 今日は部活でこんなことがあったとか、補習の時に先生が変な服を着てたとか。


 内容はそんなたわいもないことだったけど、和也くんとの電話はいつも楽しかった。電話は苦手だったのに、いつのまにか和也くんとの電話を楽しみにしてしまっている。


 和也くん以外からはめったに電話がかかってこない私のスマホに珍しく違う人からの電話がかかってきたのは、夏休みが終わる三日前のことだった。


 日付が変わる二時間前。お風呂から上がって部屋に戻ってくると、スマホに着信があったことに気がつく。


 はじめは和也くんかなって思ったけど、和也くんはいつももっと早い時間に電話をかけてくれるし、そもそも和也くんとはお風呂に入る前に電話をしたばかり。


 誰だろうと思ってスマホをタップすると、画面には佐藤珠希と表示されていた。


 珠希ちゃん? めずらしいな。

 いつも連絡はほとんどメールなのに。


 少し不思議に思ったけど、すぐに珠希ちゃんに折り返すと少し間があってから珠希ちゃんに繋がった。


「もしもし、珠希ちゃん? さっきは電話かけてくれたみたいなのにごめんね。ちょうどお風呂に入ってて」


「ううん全然。あたしこそいきなりかけちゃってごめんね。わざわざかけ直してくれてありがと」


「うん、それで何か用事だった?」


「あの、さ……。つっきー今から出てこれない?」


「え……?」


 珠希ちゃんにしては珍しく遠慮がちに聞かれたことにぎょっとしてしまった。


 だって、今からって……もう22時過ぎだよ?

 

「ごめんごめん。無理だよね。忘れて、ちょっと聞いてみただけだから。じゃまた学校で」


 私が黙り込んでいると珠希ちゃんはあわてて電話を切ろうとしたけど、そこでようやく私はいつもの珠希ちゃんとは少し違うことに気がつく。


 なんか珠希ちゃん……元気ない? というよりも、もしかして泣いてる……?


 本当に何でもないことなのかもしれない。

 ただ暇だったから電話してみただけなのかもしれない。こんな時間から出かけたら、どう考えてもお父さんにもお母さんにも怒られるだろうし。


 だから、またねと電話を切ってもよかったのかもしれない。だけど……。


「待って。今から行くよ。どこに行けばいいの?」


 どうしても、珠希ちゃんのことが放っておけなかった。


 いいよいいよと遠慮する珠希ちゃんを説得し、学校に待ち合わせをすることに決めてから電話を切る。


 それからお風呂上がりで着替えたばかりのパジャマから私服に着替え、お母さんたちにはバレないようにこっそりと家を抜け出した。

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