第16話 初デート?

 和也くんと初めて電話をした日から2ヶ月が経ち、8月になった。


 夏休みに入ってからみんなで遊びに行こうという計画自体はあったものの、テストや和也くんたちサッカー部の夏の大会があったことでのびのびになっていたんだけど、その約束がようやく実現される日が今日。


 正直に言うと、今これ以上ないくらいに緊張してる。二人きりじゃないとしても男の子と遊びに行くのなんて初めてだし、まさか相手があの前田和也くんだなんて、数ヶ月前は予想もしなかったな……。


 変じゃないかな? 

 まったく染めてない髪をアレンジする自信がなくて、いつもより念入りにとかしただけ。服もセンスに自信がなかったから、マネキンの着てたものをまるごと買った。


 珠希ちゃんは、きっと可愛くておしゃれな格好でくるんだろうなぁ……。私も珠希ちゃんにメイクやネイルを教えてもらうべきたったかな。


 まだ誰もきてない映画館の前で、無意味にスマホをいじってみたり、無駄に鏡をチェックしたりするけど落ち着かない。


「おはよ、早いね」 


 一人でソワソワしていたら後ろから声をかけられたので、あせりながら振り向く。声でなんとなく予想してたけど、案の定そこにいたのは和也くんだった。


 一番に和也くん来ちゃった……!

 挙動不審だったこと、気づかれてないよね?


「……か、和也くんこそ」

 

 今日も気持ちの良い笑顔を見せてくれた和也くんは、さわやかなブルーのシャツがすごくよく似合っていた。


 そういえば、和也くんの私服って初めてかもしれない。制服はいつも見てるし、サッカーをしてるときのユニフォーム姿は何回か見たけど、私服は初……だよね。


「なんだよ~。そんなに見ないで、照れる」


「ご、ごめんね……っ。

……あ、そ、そうだ。電話でも言ったけど、大会おつかれさま。おしかったよね、あとひとつで全国行けたのに。でも本当に、みんなすごくがんばってたよね、和也くんも圭佑くんもかっこよかった」


 私服姿の和也くんが新鮮で、気づかないうちにじっくりと見ていたらしく、和也くんから笑われてしまった。


 急いで話題を変えてみたけど、よけいに失敗したかも。もう本当に、珠希ちゃんでも圭佑くんでもいいから早くきてほしい。


 緊張して何話したらいいのか分からないし、間がもたないよ~……っ。


「応援にきてくれてありがとう。

嬉しかったよ」


 少し照れたような笑顔を見せる和也くんにどんな反応をしたらいいのかわからなくて、ただ、うんと頷く。


 うぅ……やっぱり二人きりだと緊張する……。

 珠希ちゃんたち、まだかな……。


「二人きたらどうする? 見たい映画とか、考えてきた?」


「あ、うん。みんなの見たいものがあればそれでいいんだけど、実は見たい映画があって……ちょっと待ってね、誰かから連絡きたみたい」


 ポケットに入れていたスマホが震えたのでそれを手に取ると、四人で計画を立てる時に作ったグループに新着のメッセージがきている。


「あれ? 珠希ちゃんこれないみたいだね。残念だけど、三人で……え?」  


 グループのトークルームには、どうしても外せない急用ができたごめん!と珠希ちゃんからのメッセージと土下座のスタンプ。


 珠希ちゃんがこれないのは残念だけど、せっかくきたんだし三人で遊ぼうと言おうとしたら、絶妙なタイミングで圭佑くんからも行けなくなった、とメッセージが来た。


 そんな……。珠希ちゃんだけじゃなくて、圭佑くんまで? みんなで遊べるの楽しみにしてたのに……。

 

 大事な用事なら仕方ないけど、でもやっぱり残念だな。


 がっかりしていると、今度はグループトークの方ではなく、珠希ちゃんと二人のトークのところに新着の通知がくる。



デート楽しんできてね(はあと)



 そのメッセージの後には、目がハートになったうさぎのスタンプまで送られてくる。


 ……え。もしかして用事ができたんじゃなくて、珠希ちゃんも圭佑くんも、わざとってこと?


 ……もしかしなくても、そうだよね。


「圭佑くんも珠希ちゃんもこれないみたいだね。どうする? 二人になっちゃったし……、またの機会にする?」


 とりあえず珠希ちゃんに困り顔のスタンプだけ返してから、苦笑いを浮かべた。

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