6. 光の翼
「ハヤブサ! アイレスを追って!」
「良いのか? 広けた場所に居るマーロンは危険かもしれんぞ」
「あの弾丸を避けながら近づくのは貴方には厳しいでしょう?何とか森に追い込むわ」
「...分かった。健闘を祈る」
空中砲台のマーロンはオオタカに任せ、先制攻撃を仕掛けたアイレスを追う。
さっきと状況は逆だ。完全に先手をとられ、速度は向こうに分が有る。
しかし私はハヤブサ。上昇力には絶対の自信が有る。
速度の差が縮まらない。
おかしい。向こうも上昇しながら、しかもあの高速からさらに加速しているというのか。
「ハヤブサ、もうすぐ空戦高度だ。楽しみだね」
「悪いが無駄な空中戦はしない。一瞬でカタをつける」
言動、戦闘方法、センスは有るがまだフレンズになりたてのひよっこだ。
少々現実の厳しさを、さっきも教えたがもう一度叩き込んだ方が良さそうだ。
「野生...解放!!」
体中に力がみなぎり、急激に加速する。
次の瞬間アイレスの背中が迫る。
実戦経験者を侮ると痛い目に遭うぞ。
渾身の爪を、右回転からの後ろ蹴りに乗せる。
その瞬間
「...アフターバーナー!!」
アイレスのポニーテールが逆立ち、輝く。
ジェット戦闘機の噴射炎か?
コイツ、野生解放できるのか。
そこからの動きはさらに目を疑った。
目にも止まらぬ速さで、かつ滑らかにその場で宙返り後転するアイレス。
渾身の蹴爪は、熟達した合気道のような要領で受け流される。
コイツの軌道は...私の学んだ空中戦闘機動「CCM」の上級項目「クルビット」。
一朝一夕でこんなに美しくできる技ではない。
しかも…実戦ではよりシンプルで同じ効果を持つ旋回技を使うのが定説。
ショーで使うための曲芸飛行だ...私相手の実戦でそれを使うか!?
「上昇しながらの攻撃は[無駄な空中戦]なんじゃないかな...疲れるしね。ボクならせっかちなキミだって退屈させない。さあ、踊ろうよ」
「生意気な...!!」
アイレスの体を突き飛ばす。
ダメージは入らない。単に自分の体の加速が目的だ。
視界の左端にアイレスを捉えたまま、左旋回上昇。
アイレスも上昇しているが、私の方が速い。
背を大地に向け、宙返りでアイレスのもとへ加速。
アイレスは上昇から降下へ転じる。
翼を畳み、相手を視界上部へ固定。急降下回し蹴り。
メインの蹴りはかわされるが、勢い余った回転で軽く殴打。アイレスのシールド軽く損傷。
アイレスが後転しながら降下...
ではない、上昇だ。海と空を見誤った。
高度を生かしたアイレスの降下上段回し蹴り。私のシールドをかすめ軽く損傷。
アイレス、そのまま高速の上方右旋回。
速い...!!
機動性を上げるため全身の力を抜き落下。
一瞬だけ放り投げられたマネキンのように落下する。
その速度を利用して加速。この速度レンジならアイレスと戦える。
すれ違いざまにアイレスの旋回連撃。
見えた、クロスカウンター。
相撃ち、互いにシールドの1/3程度損傷。
アイレス、角度60度程度の急降下へ。
引けをとってはならない。背面飛行からの急降下で追う。
互いにらせん機動で間合いを計りつつ真っ逆さまに落下、際限なく速度も伸びる。
右目の視界の端からアイレスが迫ってくる。
爪の輝き、寸での所で避ける。
耳を爪の風切り音がかすめる。
アイレスの腹部への右拳。命中するも衝撃を殺される。
間合いを体一つ分とり、左ストレートを放つ。
アイレスの顔面直前で止め、視界を防いで右膝を放つ。
膝は急におろされたアイレスの右ひじに弾かれる。厄介な反射神経と勘だ。
再び間合いが空く。
しかし地面も近づく。このまま地面に衝突すればシールドは一撃で木っ端微塵だ。
減速からの水平飛行へ移行しよう。
翼を展開し、空気抵抗を_
その時だった。
アイレスは私の前へ出た。
丁度良い、このまま地面に叩きつけてシールドを…
...できない。
加速できない...!!
アイレスが風よけになって、翼に十分な風が当たってないのか...!!!
「いくよ、コブラだ」
そう聞こえた気がした。
アイレスは翼の風切り羽を大きく広げ、急激に体を大地と平行に引き起こす。
空戦機動「プガチョフ・コブラ」。体を引き起こし進む方向と直角に向ける技。
急激な減速が可能だが、やはりクルビット同様ショーの技だ。
読めない、何をする気だコイツ。
アイレスは凄まじい勢いで減速し、私の体はアイレスの背中に飛び込む。
あわや衝突というところでアイレスは私の右へ回り込み、背後から羽交い絞めにする。
「お前ッ何をする!!」
「良いのかい? このままだと地面にぶつかるよ」
バカ野郎、心中する気か!!?
そんなことをすれば私のシールドも粉砕するが...お前も水平飛行に移れず終わるぞ!!
「いかれてやがる、自滅作戦は最低の戦術だ!」
「じゃあ問題ないよ。ボクは落ちない、ボクはシロハラクマタカだ!!!」
アイレスは翼を目一杯広げる。
その翼を見て、私は身の羽根がよだった。
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[シロハラクマタカ。
猛禽類としては小柄な部類だが、大型猛禽類「クマタカ」の称号を持つ。
その所以は群を抜く空中機動力である。
その翼は急降下のスペシャリスト「ハヤブサ」と森林空戦機動のスペシャリスト「オオタカ」の特徴を兼ね備え、状況に応じて形を変化させる。
これにより急降下でも格闘戦でも鳥類トップクラスの適合性をもち、自身の1.5~2倍大きな猛禽類に対しても一歩も引かない。
Noted by ミライ]
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コイツ、さっきまで急降下向きの翼だったのに格闘向きのオオタカの翼になってやがる。
可変翼...だからやたらと小回りが利いたのか。
アイレスの腕に引かれ、私たちの軌道は徐々に上向きへと変わる。
推定だが音速は越えてる、私と同じ体格のくせにフレンズ一人抱えてそんな翼力がだせるのか。
次の瞬間、アイレスは私を離す。
「さあ、上手く着陸するんだよ」
「!!?、クソっしまっ」
アイレスは私の背を蹴り、再び急上昇。
逆に私の体は超高速で地面に向かう。
追い落とし戦法か。一体いつの時代の戦法だ。
最大出力で翼を展開し、急減速する。
だが間に合わない。
地面を敵だと考え、渾身の蹴り5発を地面に叩きこんで減速。
弾ける砂利でシールドにダメージが入る。が、ようやくギリギリ着陸速度だ。
両足と右腕で3点着地、あまりの高速に地面を抉りながら減速する。
スーパーヒーロー着地とはこんな感じか。
手足に重い痺れをきたしながら、何とか静止する。
まったく、何てことしやがるアイツ…
アイツ…?
マズイ、この状況は非常にマズイ。
アイレスは遥か上空、いつでも最高速まで加速できる。
対して私はフルブレーキで疲弊した私の手足と翼。数秒間は反撃できない。
「ハヤブサ、終わりだよ」
数秒間なんて_
「クギリ流放鷹術奥義」
アイツ、いや猛禽にとって_
「紫電一閃レイ・マニューヴァ!!」
試合1ラウンド分にも等しいッ_
空に2つ目の太陽が輝いた気がした。
刹那の間に、凄まじい衝撃と共に蒼い光が何度も私を薙ぐ。
何度も旋回して私を切り裂くその軌跡は、上空から見れば蒼い花のようだろうか。
その花の中心で、私のシールドは儚く弾け飛んだ。
「さて、一回戦目のお返しはできたかな。どうだい、ボクと踊るの...退屈しなかったと思うけど」
キザな若鳥だ。ふざけやがって。面白い。
「ああ、退屈しなかった。お前は...速い!」
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