5:青二才の逆襲
「さて、休憩は終わりよ」
体の火照りも落ち着いたところで、皆に試合再開の声をかける。
休憩はストレッチ、ハヤブサとの相談で終わった。
私がマーロン、ハヤブサがアイレスを相手に、あの二人の苦手な場所で追い込んで各個撃破する。
目標は一回戦目同様、二回戦目も取ってストレート勝ちを決める。
決めなければならない。
あの二人は危険だから。
マーロンは初めて森林に入ったのに、森林で生まれ育ち生き抜き戦ってきた私相手に、ハッタリからの地面への射撃という機転を利かせた。
しかも開けた場所での彼女のポテンシャルは完全に未知数。
でもあの大きな翼からして恐らく機動性はかなり高い。
ハヤブサが言うには、アイレスに最高速度の急旋回連続攻撃を仕掛けた結果、強力なカウンターを喰らったと言っていた。それだけ高い戦闘センスをもちながらハヤブサの急降下について行けるなら、警戒し過ぎなんてことはない。
砂浜で何やらお話してたアイレスとマーロンも、やがてこちらにやって来る。
作戦会議でもしていたのかしら。でも、相手に作戦が有ろうとなかろうと、私達は私達の戦いをするだけ。
「さあ、準備は良い?」
「もちろんだよ」
「All O.K.」
二人は真っ直ぐな瞳で返事をする。
ハヤブサも手足、翼を少し動かし、調整完了と言わんばかりに目配せをしてきた。
「それじゃあ、第二ラウンド開始よ!!」
ハヤブサとの息遣いを合わせ、翼に力を籠める。
そして二人に向かって加速しようとしたその瞬間_
彼女らは信じられない事をした。
アイレスとマーロンは激突し、空中戦を始めたのだ。
「...え?」
「何だあれは、仲間割れか?」
「...」
二人の軌跡が大空を翔け、時折七色の弾幕が爆ぜる。
そのスピードは凄まじく、客観的に見ても私たちに劣らない。
やはり、個々の能力はかなり高い。でもなんで?
ウォームアップにしても、第一ラウンドで十分やったはず。
「なあ、やっぱりさっきの勝負でわだかまりができたのではないか…?」
ハヤブサは、私の胸をよぎった思いと同じことをつぶやいた。
次の瞬間、その思いは確信に変わった。
大間違いだった、という確信に。
「マーロン、今だ!!」
「Go ahead!!!!!!!!!!」
空中で衝突した二人から、衝撃波と花火のようなサンドスターが弾け飛ぶ。
と同時に、アイレスは地面へ、マーロンは上空へ一直線に吹き飛ぶ。
そして真っ逆さまに落ちるアイレスの軌道と視線は、地面激突の刹那にこちらを向く。
明確な狩りの意志を持って。
「!!?」
空中での衝突のエネルギーを乗せたアイレスは空対空ミサイルのように飛んでくる。
避けなきゃ、そう思った直後、遥か上空から七色の弾丸の雨が降ってくる。
なるほど、でもこれじゃあ、前と同じよ。
弾幕で私達も動きづらいけど、アイレスの機動も制限される。
これならアイレスは私が相手をして、上昇力にすぐれたハヤブサにマーロンを_
「前見ろオオタカ!!!」
巡る思考をハヤブサの一喝が遮る。
思考に集中した意識が眼球へと移された瞬間、とんでもないことが起こっていた。
「避け...てる?」
アイレスは上空から降ってくる弾丸には目もくれず、それでいて全て避けきっていた。
そんな馬鹿な、私ですら正面から見ないと避けきれないのに。
もはや技術とか経験とか、そういうものじゃない。
「分かるんだ、いつ、どこに撃ってくるか。戦ってきたライバルだから」
そんな言葉が聞こえた気がした時、私とハヤブサのシールドに強烈な衝撃が走った。
「きゃ...!!」
「ぐぁっ...!!」
甲高い音がシールドから発せられる。
アイレスの影は既に私たちの背後、はるか遠くに居た。
「ハヤブサ! アイレスを追って!」
「良いのか? 広けた場所に居るマーロンは危険かもしれんぞ」
「あの弾丸を避けながら近づくのは貴方には厳しいでしょう?何とか森に追い込むわ」
「...分かった。健闘を祈る」
ハヤブサは、全力でアイレスの元へ加速する。
そして、ハヤブサの邪魔をさせないためにも、空の砲台を潰しにいかなきゃね。
翼に力を籠め、地面を蹴り、飛び上がる。
目の前から七色の雨が降り注ぐ。
でも、これぐらいの弾速なら十分見て避けられる。
避け…
ウソでしょう。
弾速が、上がってる。
一瞬気のせいかと思ったが、全力で避けてもいくつかかすめる。
第一ラウンドで手を抜いていた?
いや、それなら森で追いつめられた時、なぜこの弾を撃たなかった。
一体何を…
その答えはとても単純だった。
マーロンは高速でこちらに急降下しながら弾幕を張っていたのだ。
当然弾の速さにはマーロン自身が飛ぶ速度が加わる。
「どう? 私のスピードを乗せたBulletは!?」
「...刺激的ね。想定外なほどに...!!」
成る程、そりゃあ森の中じゃあできないわね。
開けた場所で彼女に戦いを挑んだのは少し失敗だったかもしれないわ。
でも、やるしかない。
弾数は多い。もう普通に避けるのは不可能。
本気を出すしかないわ。
絶対に狩れると信じ、本能に体の全制御を任せる。
「野生...解放!!」
フレンズが持つ技だ。
疲労とサンドスター消費は増加するが、自身の持つ戦闘力を最大限に引き出す。
視界がクリアになり、体中の血管、神経が白熱するのを感じる。
見える。
弾幕を避け、爪を叩き込むコースが。
翼で風を殴りつけ、体を無理やり加速させる。
余りの加速に、軽い羽根一本一本すら重ったるく感じる。
遥か上空に居たマーロンの姿が近づいてくる。
「くっ...これでも避けるの!!?」
弾速を上げる方法、よく考えたわ。
でも貴方と同じことをセルリアンがやったとしても、私たちは勝たなきゃならない。
そのための訓練をしてきた。している。これからもする。
さあ、結果は変わらないわ。喰らいなさい_
体を重心回りに一回転させ、脚先の爪の軌道をマーロンに合わせる。
その時だった。
「Full-Steam!!!!!!!!!」
マーロンが叫ぶ。
直後、私の蹴りは彼女を捉えた。
七色の閃光はあまりに強く、純白の閃光となって天に輝いた。
しかし、野生解放の力を込めた私の一撃は_マーロンの脛に受け止められていた。
マーロンの瞳には、セントエルモの灯の如く熱い光が灯っていた。
「貴方もできるのね。野生解放」
「当然よ! 森の中の私とは100味違うから!!!」
もう、手を抜いては居られない。
この子をセルリアンとみなし、全力で撃墜する。
その心づもりでなくては、この子に無礼ね。
全力をマーロンと交わる足に籠め、弾き飛ばす。
反動で私の体も後方へ飛び、マーロンとの間に間合いができる。
一瞬体の力を抜き、指先に至るまでの体の動きに集中する。
そして全身でタイミングを合わせ、ムチのようにして翼の先端に全身の力を流し込む。
辺りの景色が急激に揺らぐ。
野生解放前とは次元の違う速さ。
でもそれは、マーロンも同じ。
野生解放によって、弾速も飛翔速度も段違いに向上している。
目まぐるしく風景が流れる。
七色の銃火が飛び交い、空と海はブレて一体の青い何かに見える。
弾丸を避けながら、マーロンの背後を取る。
マーロンの背後を取りながら、一撃加えるチャンスをうかがう。
時に背後を取られ、背後から飛んでくる銃弾を空中機動で回避する。
それを何度続けただろうか。
「ハァ...ハァ...」
機動力に覚えがあると言っても、流石に一寸の緩みも許されない空中戦は神経と体力を消耗する。
ここからは根性ね。マーロン、泥仕合はできるかしら。
「Hey, オオタカ! スピードが鈍ってない?」
振り向いた彼女は、強がりらしき言葉を発する。
「これからがバトルのクライマックスよ?」
困った子ね。
本当に困った子。
その顔を見れば一目で分かるわ。
この子、強がりじゃない。
「フフッ、当然よ、ここからが全力を出すポイントなんだから」
対して私の言葉はただの強がり。
でも構わない。
チャンスを掴むまであきらめなければ、過程は関係ない。
どんなにヘトヘトでも、勝てばいい。
海面スレスレを、マーロンは蛇行しながら飛翔する。
私の攻撃を避けるためだろう。
しかし、甘いわ。
蛇行が単調すぎる。
最後の力を使う。
マーロンの蛇行が今から3回過ぎたところで、一撃で撃墜する。
1回目...背を曲げ、力を籠める。
2回目...翼を広げ、その間にありったけの空気を抱え込む。
3回目...サンドスターを翼に、これでもかというほど集中させる。
今だ。
翼にサンドスターをありったけ籠め、炸裂させる。
一瞬で、私の体はマーロンに追いつく。
蛇行するマーロンの死角から、前転打ち下ろしの蹴りを叩き込む。
しかし、一寸の差で私の蹴りは空を切る。
籠めた力、感じる風、全て計算通りに動けているはずなのに。
マーロンが僅かに、私の計算よりも先を飛んでいたのだ。
おかしい。
マーロンはほとんど羽ばたいていない。
どういうこと?
マーロンは羽ばたかずに加速できるというの?
もはや物理、自然の摂理に反している。
それはもう幽霊か何かよ。
ここは海上、セントエルモの灯の加護を受けているとでもいうの...?
「Dynamic soaring」
マーロンはつぶやく。
「アンタにとっての森林と同じように、私のステージはここ、海の上よ。私は海風がある限り永遠に飛んでいられるの。私はマーロン、アメリカグンカンドリのフレンズよ!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
[アメリカグンカンドリ。
体に対して、黒く大きな翼を持つ。その姿はさながら悪魔である。
実際、ほかの海鳥からは悪魔として見られているだろう。
大きな翼は、スピードを全く減じない効率の良さと、あらゆる海鳥を寄せ付けない機動性を有する。
狙われた鳥は、空中戦の末高確率で食料を奪われる。
分類上は猛禽類ではないが、洋上では猛禽と同様、恐れられている存在である。
Noted by ミライ]
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
振り向いたマーロンは、すがすがしいほどの笑顔だった。
全く、そういう所がまだ未熟なの。
そんな体勢をとれば減速する。
弾を何発か撃ってきているが避けられる。
弾丸が頬をかすめる。
バリアの強度はまだ数発の余力を残してる。
ならば、肉を切らせて骨を護る。
翼で空気をはたき、心の何処かが微かに感じる弾丸への恐怖を無視する。
「へぇ、当たる覚悟で来るの...? 」
2発か当たったが想定内。
あとコンマ数秒でマーロンの懐に入る。
遠くを狙うべく伸ばした腕とピストルは密着距離では無力。
「うーん、それはBad choice...」
マーロンの言葉と共に、視界に白い何物かが映る。
直感的に危険を感じ、攻撃態勢をキャンセルしてサイドスリップする。
「生まれも育ちも森なら、飛び交う水に濡れる恐怖は分からないでしょ?」
波しぶき。
森林の枝とは違って、海の波は絶えず大きく形を変える。
高速戦闘での疲労で、それを踏まえた軌道の計算が不十分だったようね。
最悪のケースよ。
「レインガン・ジャックポッド!!!」
背後から必殺技の名前と、けものミラクルの強力なエネルギーを感じる。
瞬間、背中に何発もの鈍い衝撃が走る。
ダメね、今から機動しても追尾される。
疲弊した体と翼では避けようもない。
「No Chance of Surviving.」
シールドは、波の泡沫のように儚く散った
「慣れないフィールドで戦う気持ち、Do you understand!?」
この子、いや、この子達...思ってたより遥かにクールよ。
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