4:MAHRON_SIDE
アイレスはハヤブサを追って、矢のように落下していく。
全くもう、ハヤブサを見てないからこんなことになるのよ。
まぁでも...私もちょっと打ちすぎちゃったかも...頭に血が上ってたのは認めなきゃね。
だって、冷静ならこんな風に捕まらなかっただろうし。
っていうか、この状況マズいんだけど。
「離してよ!このまま地面に叩きつけるつもり!?」
「いえ、そんなことしたら私も危ないわ」
だったら早く離して。大事な翼を乱暴に握られるのはフリでも何でもなく嫌だから。アンタがフレンズじゃなければマヂギレしてるからね。
そうこう考えているうちに、オオタカの手が緩んだ。
今だ、お返ししてやる。
「隙あり!Shooot!!」
振り向きざまに最速で撃ったのに、既にオオタカの姿は無かった。
素早い...憎たらしいほど。
「なッ、どこ行ったのよ!」
オオタカの声は森の中から聞こえた。
「ふふ、海鳥の貴方には新鮮なステージよ」
確かに、こんな森で戦うのは、というか、見るのがほとんど初めてだった。
でも私は海の子。どこまでも広く、深い海の上で育った私が、こんな森に怯えていてはダメ。
「Dosen’t matter...首洗って待ってなさい!!」
翼にありったけの力を籠め、森へとダイブする。
でも、木々の海原は、本物の海の上とは全く違った。
「ッ...!!」
翼に、無数の枝が当たる。
翼の角度が無茶苦茶になって、バランスが崩れる。
しかも立て直す前に、次から次へと枝がぶつかる。
完全に制御不能.
目の前に地面が高速で迫る。
いくら慣れない森とはいえ、地面にぶつかって自滅は流石にダサすぎる。
一生アイレスに笑われる。
寸での所で翼を広げ、減速する。
迫りくる地面に肘と膝を叩きつけ、体がもつ勢いを殺す。
手足に凄まじい振動と衝撃を感じる。不時着も良い所よ。
それでも土を巻き上げながらも、コケることなく何とか停止した。
一息つこうとしたその瞬間、
「何ホッとしているのかしら」
どこからともなくドスの聞いた声が聞こえる。
正直、背筋に一筋の冷や汗が伝った。
「どこに居るの、出て来なさいよ!!」
「このオオタカが森に居るという事実、存分に味わうが良いわ」
こうしちゃ居られない。
銃を構え、必死にオオタカの気配を探る。
枝のこすれる音が邪魔。
風を邪魔する木が邪魔。
光を遮る葉っぱが邪魔。
なにここ。
鳥が飛べる場所じゃない。
何も束縛も邪魔もない、無限に広がる海の空に帰りたい。
でも、オオタカは飛んできた。
それも凄まじい速度で。
オオタカは小柄だけど、その気配はもはやモンスターだった。
「あぅ...!!?」
強力な衝撃に体がよろめく。
シールドが軋む甲高い音は、木々の合間に飲まれてゆく。
今ので半分は削られた。
うっそうとした森林。
全く予想不可能な方向とタイミングで、オオタカの一撃が飛んでくる。
相手はオオタカ一人なのに、木々の合間から数百の化け物に睨まれているみたい。
怖い。
何この感覚。
海の上では、こんな気持ち味わったことも無かった。
ダメ、止まってたら確実に狩られる。
兎に角この場所は相性が悪い。
出なきゃ。
渾身の力を翼に注ぎ、飛び上がる。
「ッ...!」
しかし、木々が邪魔で思うように羽ばたけない。
翼が大きすぎるんだ。邪魔が無ければ、開けた空なら誰にも負けない最高の翼なのに。
でもオオタカのコンパクトな翼は、こんな場所で高速で飛翔しても枝にかすりもしない。
「ぁあ゛っ!!」
また喰らった。
ここでは上手く飛べないのに、ちょっとは手加減しなさいよ。
まあ、してくれないのは分かってるけど。
「マーロン、戦う場所は大事よ」
「...!」
「私と貴方の特技は全く違う。私と戦いたければ、貴方は何が何でもこの森林を避けるべきだった」
「...」
「もう貴方のシールドは限界、次は正面から行かせてもらうわ」
正面…
この恐ろしい場所で、正面から打ちのめされる。
きっと絶望的ね。
いや、もしかしたら嘘で、背後から来るかもしれない。
じゃあせめて、絶対前から来るように仕向けちゃおう。
「...自分から言っちゃったら意味ないじゃん」
「どういう意味かしら?」
「前から来るって分かってれば、前に撃ちまくれば良いだけじゃない!!」
「はぁ...それで私が仕留められるかどうか、さっき見せたはずよ」
「...あれが本気だったと思う?」
「...あら、違うの?」
さあ、モンスター相手にビッグマウスを叩きつけなきゃ。
「地に足がついてる今、さっきとは狙いが段違いだから! カモン、オオタカ。ここで正面から来ない子は腰抜けよ?」
そう言い放った瞬間、森全体の雰囲気が刃のように私に向く。
何なの、オオタカ、アンタはこの森の主か何かなの。
「そんなに正面から来てほしいのね...私はフレンズ相手にイカサマするほど器用じゃないんだけれど」
「なら行動で示しなさい!!」
引き金を引き、正面に向かって銃を乱射する。
うっそうとした森林を七色の銃火がほとばしる。
見えた。
オオタカは木々を高速で縫いながら、弾丸を全て避けてる。
ホンット、どうやったらこの森でそんなことできんのよ。
「だから言ったじゃない、意味ないっt」
確かに当たらない。
でも、
「いいの、当てるつもりはないから」
「え?」
オオタカは困惑してるみたい。
「じゃあ貴方、何が目的で」
「照明弾、の役割って知ってる?」
「...!!」
「見えるわ、オオタカの姿」
私だって、考えなしに乱射してるわけじゃない。
高速で迫るオオタカに対処するには、かなり離れた距離からオオタカを見つける必要がある。
でもこの森は薄暗い。
でも「ともだち」がくれたこの銃火なら、目の前の闇を照らせる。
お陰で遠くの木々の向こう側を飛ぶオオタカの影が、はっきりと目に映った。
「...考えたわね、でも、見えても無駄よ?」
そう。見えても無駄。
どんなに撃っても、狙いを定めても、この弾は当たらない。
だって、よく見たらこの弾が飛ぶ速さよりも、オオタカの方が速い。
そりゃ当たらないよ…
でも、今までの戦いで勘が冴えた。今ならちょっとした”大技”が打てる。
次は本当に狙いを定める。
目標は、オオタカの足元。
「_Fire...」
強い輝きを持った幾重もの軌跡が、オオタカの足元の地面にぶつかる。
「西部劇ごっこかしら、一体何g...!!?」
その時だった。
弾が炸裂し、大量の土が飛び散る。
それはオオタカの前に、壁のように立ちはだかる。
「ッ...!!!」
オオタカは面食らったようだった。
今だ。
全力で地面と空気を蹴って、飛び上がる。
多少枝に引っかかれても、今すぐにでもここを抜け出す。突破する。
枝葉の合間から、空の、太陽の輝きが、どんどん大きくなって_
_ついに深緑の魔界を出た。
翼を広げても、もう何も邪魔しない。
無限に高く、広い空。
やっぱり私の故郷は、戦場はここだ。
「良い作戦だったわ、でも気を抜いていて良いの?」
森から何かが飛んでくる気配を感じる。
一々確認している暇はない。
振り向きざまに弾幕を張らなきゃ。
いや、弾幕を張っても、この弾速ではオオタカには当たらない。
仕方ない、オオタカに向かって急降下して、肉弾戦に持ち込もう。
加速する暇がない今、蹴りとゼロ距離射撃でしかオオタカとは勝負できない。
そう思って振り向いた視線の先には_
_オオタカではなく、木が飛んできていた。
「!?」
正確には葉のついた大きな木の枝。
何でこんなものが。
思わず腕を振るい、木の枝を払いのけ…
「うあ゛っ...」
腹部への重い衝撃と共に、情け無い声が漏れる。
枝越しに、オオタカの脚が腹部へめり込んでいた。
「地面への銃撃は良い機転だったわ。でも、もう少し経験が必要ね」
木の枝は私を混乱させつつ自分の姿を隠すための囮だった。
参ったわね...流石、あの物知り残雪の推薦なだけあるわ。
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