3:壁

試合開始の瞬間、鳥の翼に叩きつけられた空気は、砂浜を巻き上げながら拡散する。

その上空では、目まぐるしく描かれる4本の曲線が時折ぶつかり、爆発音を上げる。

空には虹色に輝く弾丸がまき散らされ、その隙間を神速の翼が行き交う。


「マーロン、打ちすぎだよ...! 相手に接近するコースに乗れない!!」

「これでもかなりセーブしてるのよ!? アイレスこそ邪魔よ!」


大声で文句を言い合う二人とは対照的に、オオタカとハヤブサは高速軌道のすれ違いざま、小声で素早く情報を交換する。


(オオタカ、あの二人、どう思う)

(個人個人は良い飛行センスよ。飛行特性はアイレスが私、マーロンは貴方に近い。でも、チームワークは無いわ。まさに烏合の衆ね)

(同感だ。だが弾幕が邪魔だ、どうやって終わらせよう?)

(ハヤブサ、急降下爆撃の準備をお願い。弾幕のせいでアイレスはうまく動けてないから、貴方が攻撃するまで私一人で相手できるわ。ハヤブサ、貴方はアイレスを仕留めて)

(ならオオタカがマーロンを? 相性悪いんじゃないのか?)

(ええ、でもそれは戦う場所によって変わるわ)

(...御意)


乱戦の中、一つの影が急上昇を始める。

鋭い先端を持つ高速の翼、ハヤブサだった。


アイレスは、弾幕の中オオタカを捉えようと必死で、ハヤブサの急上昇に気付かない。

しかし、マーロンはハヤブサの影を視界に捉えた。


「待ちなさい!!敵前逃亡は重罪よ!」


そう叫んだ時だった。


「あら、ハヤブサに下手な鉄砲は当たらないわ」


オオタカの煽り文句に、マーロンの額に青筋が浮かぶ。


「い、言ったわね!!アンタから水葬してあげる!!」

「待ってマーロン! 落ち着かなきゃ照準が合わない」

「だったら当たるまで撃ちまくりゃ良いのよ!!!」


マーロンの二丁拳銃が、オオタカに向けて七色の雨を浴びせる。

しかし、弾丸は全てオオタカの体をすり抜ける。

正確には、弾丸は全て、俊敏過ぎるオオタカの残像を貫いている。


「なんで、何で何で何で!!!!おかしいでしょ!!??」

「オオタカ...凄いね。嵐でも雨を避けて飛べるんじゃないかな」

「何冷静に解説してんのよ!!?」

「マーロンが打ちすぎてて動けないんだよ」

「じゃあハヤブサを追いなさいよ!!」

「え...あ! いつの間にあんな空に!?」

「見てなかったの!?」

「だから弾幕避けるので手一p(ry」


そう言う間に、マーロンの頬に手が触れる。


「ッ...!?」

「ほら、下手な鉄砲は当たらないわ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

オオタカ、それは日本を代表する猛禽。

短く丸い翼は凄まじい速度で羽ばたきを行うことができ、森林において無類の瞬発力と機動性をもつ。

その動体視力と機動性によって、日本の入り組んだ樹海を時速60 km以上で木々を避けながら飛翔し、最先端のジェット戦闘機よりも1.5倍苛烈な13 ~ 15 Gの急旋回を繰り返す。

鷹を用いて狩りを行う鷹狩の世界では、オオタカを育てられることが一種のステータスである。

Noted by ミライ]

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ちょっ何するの!?」

「大人しくなさい?」


オオタカは頬に添えた手をしなやかに翼に回し、その関節をロックする。

同時に体をマーロンの背後に回し、マーロンは一切抵抗も、翼を動かすこともできなくなった。

オオタカも羽ばたきをやめているので、二人の体は風に見放され、岩のように落ちてゆく。


「あっっお、落ち!!アイレス!!助け」


マーロンを解放しようと、体を翻し翼を広げるアイレス。

しかしその背後に、超高速の影が迫っていた。


「今助け...ぐぁ!!」


シールドに負荷がかかった特有の音と共に、アイレスの背中に衝撃が走る。


「キミの相手は私だ。よそ見をしているヒマは無いぞ」


痛恨の一撃を決めたハヤブサの影は、一瞬のうちにマーロン達を追い抜いて急降下していった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハヤブサ、それは世界最速の猛禽。

鋭く尖った翼は空気抵抗を最小限に抑え、急降下時に時速380 kmを越える速度を実現する。

その速度を乗せて放たれる蹴りは一撃必殺級の威力を誇り、自身より大型の鳥類であっても撃墜することがある。また、高速飛行時も効率よく呼吸できる鼻を備え、ジェット機の空気取り込み口はこれを参考に設計されているものも有る。

Noted by ミライ]

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ダメージはシールドが吸収してくれるが、シールドが破壊した時点で負けである以上、アイレスは大きな痛手を被った。


「くっ...マーロン、オオタカをお願い。僕がアイツをやるよ」

「嫌でもそうなりそうね...!shit...」


捨てセリフを吐くマーロンは、重力のなすがまま森へと吸い込まれていく。

アイレスは翼を畳み、急加速してハヤブサを追う。

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