1:アグレッサー(飛行教導隊)への挑戦

「お、アイレス、今日のちからくらべは楽しかったか?」


戦い終え軽食を取っているマーロン、アイレスに、褐色の翼をもつフレンズが話しかける。

腰まで伸びた茶髪には所々白髪が混じり、鋭いながらも優しさを含む瞳。


その持ち主は、屈強な翼で大陸間を渡る「マガン」のフレンズ「残雪」であった。


「ああ、残雪。そうだね、毎日退屈しないよ」

「いいライバルを見つけたもんだ。まさか海にこんなフレンズが居たなんてな」


残雪とアイレスは、マーロンの方へ視線を向ける。


アイレスは残雪の群れの一員だった。群れを統べる残雪としては、アイレスの特技である空中戦をさらに磨いてやりたいという思いが有った。アイレスも、得意な空中戦で切磋琢磨できる相手を欲していた。そのフレンズ探しの末に出会ったのがマーロンだった。


「私もびっくりだよ! 海じゃあ負けなしだったのに、陸にはこんなに戦える子が居るなんて知らなかったもん!」

「今まで色んなのと戦ってきたけど、マーロンはとてつもなく手ごわくて、楽しい」


盛り上がらる二人を眺め、残雪は一瞬、悟られない程度の笑みを浮かべる。


「ああ、今のお前らより速いヤツぁ、”そう”いねェ」


その言葉に、マーロンとアイレスは豆鉄砲を喰らったかのように反応した。


「そう居ない...って言ったね。残雪」

「じゃあ一人は居るってこと? そうよね、ねぇ!?」


残雪とアイレスは、互角のライバルを見つけるために長旅をしなければならなかった。

マーロンにしても、海の上空では退屈するほど負けしらずだった。

そんな彼女らが出会い、日々戦って腕を磨いたのだ。


自分たちより空中戦が強いフレンズが一人でも居るとあれば、興味沸かずにいられない。


「居るのかい、戦える子が。もしそうならどうして隠していたんだい?」

「ねえ、どうなの? 秘密にすることでも無いでしょ? 吐いてよ!」


興味のあまり若干問い詰め気味になる二人に気圧されることもなく、残雪はおもむろに口を開く。


「二人、居んだよ。空で滅茶苦茶強ェヤツ」

「何で黙ってたんだい? マーロンと会えたのは凄く良かったけど、ライバル探しの前に言ってくれても良かったじゃないか」

「そりゃあな、アイレス、そんなこと言っちまったらお前、何が何でも戦いに行っただろ」

「当然じゃないか。元々相手が欲しかったんだ」


次に残雪が放った一言は、アイレスの心に熱い篝火をともした。


「マーロンに出会う前のお前があの二人に挑んだら、自信無くしただろうかんな」


ジト目気味のアイレスが、一瞬目を見開く。

すぐさま元の落ち着いた目に戻るが、その奥には熱いものが宿っていた。


「残雪、二つ聞くよ?」

「ああ」

「そんなに強いんだね。うちの群れの誰よりも」

「単純なケンカならうちのマヘリが負けねェが、空中の機動、速さなら誰も敵わねェ」

「そっか、じゃあ_



_マーロンに出会った今なら、戦っても良いんだね?」


アイレスの琥珀色の瞳は、反骨心、期待、緊張で満たされていた。美しい瞳だった。


「ダメっつっても戦うだろうからな。お前がアイツらと張れるまで成長した時に伝えると決めていた」


二人のやり取りが落ち着いたところで、マーロンも口を開く。


「えっと、相手って二人なのよね?」

「ああ、コンビだ」

「私とアイレスのコンビと、その最強コンビのチーム戦ちからくらべってのはどう?」


マーロンの提案にアイレスが困惑する...ヒマもなく残雪が答える。

「最初からそのつもりだ。マーロン、お前が良ければ」


「ちょっと待ってよ、え、そうなの?」

「そりゃあ相手2対お前1はアンフェアだろ」

「そうだけど、一人ずつの一騎打ちじゃダメなのかい?」

「ちょっとアイレス、私と組むのはイヤなの?」

「いやそうじゃないけど...マーロンこそ何急に参加しようとしてるのさ」

「だって、アイレスより強いかもしれない子とちからくらべできるなんて滅多に無いもん」

「うーん...」


戸惑うアイレスを、残雪は諭すように見つめる。


「良いかアイレス。その強ェ2人だがな、確かに1人1人普通に戦ってもクソ強ェ。だが、基本ハナ島でもそうだったように戦いは一対一ってのはむしろレアだ。環境を最大限利用し、時に協力する。それに関してアイツらは超ド級だ」

「あれは本当に大変だったね...実戦力って奴かい?」

「ああ。アイレス、お前は環境や仲間を交えた駆け引きの経験が浅ェ。だからそれを学んできて欲しいんだ」

「難しい宿題だね...ボクは全力で戦うだけだよ。戦いながら環境とか協力とか、学び取る余裕なんて有るか分からない」

「それで充分。アイツらに全力でぶつかれば、お前なら何かを学び取れる」


アイレスはまだ戸惑っていたが、ダブルスで挑む他ない現実をとりあえず受け入れたようだった。


「分かったよ。マーロン、協力したことあんまりないけど、やってみよう」

「うん! 楽しみだね!!どんな子が来るんだろう」

「残雪がここまで言うんだ、間違いなくとんでもない子が来るよ」


残雪は、戦いの予定が決まった二人を見つめなおし、傾きかけた陽を背に朗らかに語る。


「よし決まりだ。アイツらには私から伝えておく。場所はまあここで良いとして、日時は決まり次第伝える」


次の瞬間、少しだけ残雪の目が厳しくなる。


「心してかかれよ。お前らが戦うのは_


_ジャパリパークの”アグレッサー”だ」

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