《 past 》
セツナは昔、とても引っ込み思案な性格だった。
両親共に仕事で、家にはずっと1人でいることが多かった。自分の行きたいところにも中々連れて行ってもらえず、欲しいものも買ってもらえなかった。家には何も無いし、ボーッとするしかなかったのだ。小学校に入ってから、クラスメイトの話についていけなくなった。「〜ちゃん、これ知ってる?……え、知らないの?……そっか…」何も知らないまま、時が過ぎていく。自分はそれでいいと思っていた。でも、ある日、自分のノリが悪いおかげか、いじめが始まった。登校すれば、下駄箱に上履きは入っていないし、教室につけば、椅子が無くなっていて、机を見れば落書きだらけで。もっと酷い時は、殴られたりもした。
「おい、お前なんか喋れよ!無口女!」
私が殴られた時の悲鳴を、クラスメイトは楽しんでいた。
「お前は時代遅れだ。」
「何も知らないただのバカ。」
「クラスの雰囲気を壊すな。」
そんな日がほぼ毎日続いた。
殴られてボロボロになった体で家に帰る。誰もいない。またお弁当が置いてある。どうして自分がこんな目に合わなければいけないのだろう。いや、元々家に帰ってこない親が悪いのだ。もうこんな家……出ていってやろう。セツナはお弁当を食べ終わり、何も持たずに家を出た。もう食べ物がなくたって、死んでもいいような気がした。しかしセツナには、ずっと気になっている場所があった。赤と白を基調とした建物。家からだいぶ歩いてたどり着いた。セツナは中に入ってみることにした。
Red Stable Moment
という文字が目の前に書かれていた。この建物の名前だろうか。恐る恐る中に入ってみると、人がまばらに立っていた。皆共通して赤い服を着ていた。するとそのうちの一人がセツナに気づいた。
「やぁ、お嬢ちゃん、どうしたんだい?」
セツナは何を言ったらいいのか分からなくて、弱く細い声で「助けて」としか言えなかった。
その人はジロジロとセツナを眺め、ポケットから携帯電話を取り出し、誰かと通話をし始めた。
「…はい……そうなんですよ……はい…ん?あ、少々お待ちください。」
携帯を握った手を遠くに離し、小声でセツナに問う。「君、名前なんていうの?」「ええっと…」
───セツナの記憶は、そこで途切れていた。
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