実力隠しの俺、勉強会
「……ほんとに勉強できるの? 陰月」
「まあ、それなりには」
日曜日。俺と南は少し学校からは離れた図書館へと来ていた。
古びた本の独特な香りと図書館特有の静けさを感じながら、勉強スペースを確保する。
「あそこが空いてるな」
「え、うん」
俺の背後に慌ただしい感じでつく南。
周囲をきょろきょろと見回しているあたり緊張しているのがうかがえる。
まあ俺自身もまさか、南と一緒に勉強する日が来るなんて思ってもみなかった。
これも全て実力隠し道のためなんだが。
「私、やっぱり陰月に教えてもらうことなんてないと思うんだけど」
向かい合う形で座ると、南はすぐにそう話を小声で切り出した。
はあ、まあ急にテスト最低点とってる野郎が実は実力隠してただけですって言っても誰も信じはしないか。
放課後の屋上。拳で語り合ったように、力で示すのが最善なようだ。まさに百聞は一見に如かず、だな。
「とりあえず、これをやってくれ」
「え、なにこれ」
俺はかばんから、去年の夏テストの過去問を取り出しそのまま南に手渡した。
「去年の過去問、難しいところには★印をつけといた。南がどの程度出来るのかはよく分からんからとりあえずやってくれ」
「か、過去問っ!? 陰月って人脈あったの!?」
うるさい。一々感に触る言い方をしてくるな。
それに声のボリュームを考えろ。
俺が露骨に嫌そうにため息をつくと、南は周囲の『静かにしろ』空気を悟ったのか耳を真っ赤にして俯いた。
「……とりあえず、やってみてくれ」
「……わ、わかった」
何か凄く言いたげな顔をしているが、知ったことではない。
南の学力レベルを測るのが先決だ。
南が問題に取り掛かり初めたのと同時に俺も自分の勉強を開始した。
♦︎♢♦︎
「……ね、ねぇ」
「……うん?」
手がちくちくするのを感じると、南がシャーペンでつついてきていた。
それ、地味に痛いんだが。
内心ではそう思うが俺は平静を装って南に聞く。
「……どうした? 分からない問題でもあったか?」
「……うん、あ、ここ」
南が分からないと言い出した問題は俺が★印をつけた問題の2つめだった。
これは二項定理の応用だな。やり方知ってないときつい。
ふっと少し口角を上げてから俺はやり方を瞬時に紙に書き、手短に説明する。
すると南は最初こそ硬い表情をしていたが、俺が説明しだすとすぐに柔らかい表情になった。
俺がそんな南の表情の変化を読み取っていると南は急に我に帰ったのか、
「……信じられないけど凄くわかりやすい。けどこれ元は陰月が用意したものだから、答え知ってて知ったかぶりしてる可能性も……」
「……まあそうかもしれないな」
大胆不敵に言ってみせると、南は黙り込んで問題に再度取り掛かり始める。
俺はそんな南の姿を見ながら、翌日からの動きのシミュレーションを脳内でするのだった。
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