実力隠しの俺、背に腹は変えられない??
「……で、何の用? 君の方から来るなんて珍しいね。目立ちたくないのかと思ったけど」
とある空き教室の一室にて。きつそうに胸元の果実が抑えられている女子が前に一人。体操服姿ということもあってかどうしても目が胸にいく。
……相変わらず凄いな。
思わず目を細めてしまうが、俺は咳払いを一つしてから本題に入る。
「あの一つ頼みたいことがあるんですけど」
「ふぅーん、言ってみな?」
挑戦的な瞳で捉えてくる彼女。はぁ、やっぱりこの人はどこか掴めない。
できればあまり関わりたくはなかったのだが頼める上級生ってこの人しかいないからな。
「……去年の夏テストの過去問って持ってますか?」
「あるけど」
「……なら貸してくれま」
「そんな簡単には貸さないよ」
途中で言葉を遮られる。ふぅと息を吐きながら服をパタパタとさせている彼女。
時折、『あつい』と口ずさみながら汗を滴らせる。その姿がやけに妖艶に見えた。
一筋縄でいく相手とは思ってなかったが、ここで折れるわけにはいかない。
夏テストの過去問は必須だ。
俺には不要なものだが、南には絶対にいる代物。
南に昨日、相澤に勝たせてやると保証した以上、手段は選んでいられない。
はぁと深めのため息をついてから俺は妖艶な副会長に声をかけた。
「……どうしたら、貸してくれますか?」
「……ふふっ。今年の体育祭。対抗リレーで私と対決するって条件を呑むなら貸してあげてもいいかな」
「……………」
冗談じゃない。体育祭? 対抗リレー? あの大衆の前で実力を出せと??
いくらなんでもそれは無理だ。
南に対してでさえ、実力披露には躊躇ったのに。
その条件を呑んだら俺の実力隠し道の雲行きは怪しくなるばかりだ。
それに……この人。
やっぱり、危険だ。
俺は瞳の奥底で睨みつけながら、彼女に問う。
あの時の俺の走りで、一体あんたは俺をどこまで見透かしていたんだ??
「ふふっ。そんなに警戒しないでよ。今のは冗談だから」
「……はぁ。そもそも俺、足遅いんでリレーには出れませんよ」
「まっ、そういうことにしてあげる。あんまり表立って君に活躍されると会長に目つけられちゃいそうだし」
「…………」
「そうだなぁ。貸し一つってことなら貸してあげてもいいよ」
出来れば無償で副会長の好意で貸してくれるのが一番よかったのだが……。
この際は仕方ない。
「……わかりました」
「そうっ。ならこの後時間ある? 陰月くん」
うん? なんか嫌な予感しかしないのだが。
余裕ある笑みでクスクスと笑う彼女。森美幸という人を見ると、裏と表がある人のようにしか思えない。
副会長としての森美幸と、プライベートというかそっち系の森美幸。
ギャップがありすぎて少し呆気にとられてしまう。
苦笑いをしてはぐらかしていると副会長は頬をぷくぅと膨らませた。
「……時間あるでしょ?」
「……勉強が」
「私がみてあげるから」
は?? え??
一瞬、頭が真っ白になる。こ、この人一体何を言い出すんだ?
俺の思いを悟ったのか、彼女はくすりと笑ってから続けて言う。
「夏テスト……家にあるし。陰月くんも勉強したいっていうから、私の家こない?」
くっ。ここで断ったら夏テストが貰えないかもしれない。
思考を巡らせた末に俺はトホホと肩を落としながら頷くことしかできなかった。
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