宣言

「まだあんたのこと認めたわけじゃないから」



 南の独白を聞いた後のこと。俺についてこい、なんてカッコつけたセリフを言ってみたはいいものの、南は意外と折れなかった。


 プライドってものがあるのだろう。今まで散々俺を馬鹿にしてきたからか南は態度を改めない。


「……格闘が得意ってだけじゃないの? 勉強とか点でダメでしょ。誠に比べたら」


 得意げそうに、そう言ってくる。


 何だよ……さっきまで「ははは」とか言って圧倒されてただろうが。


 話を聞いて分かったが、南の軸にあるのはやはり相澤らしい。


 だから、南を俺の味方にさせるためには相澤を完膚なきまでに潰す必要がある。


 だけど……南真奈。こいつのことを知れば知るほど。


「……だせぇな」

「………は?」


 真紅の瞳が大きく見開かれる。大の字になっていた南だが、俺のこの一言が不満だったのか急に立ち上がり睨みをきかせてきた。


「……調子に乗らないで? 陰月。あんた喧嘩は強いの認めるけどそれだけでいい気になってんでしょ」


「……はぁ。ほんっとくだらないんだよ。南、お前のその有り様が」


 言う気はなかった。南を言いなりの駒にすれば利用価値は計り知れない。だけど、南を見ているとどうにも無性に腹が立った。


 だってそうだろ?


 もう無理だ、できない、ダメだ。この人には及ばない。勝てっこない。


 それを言うのが許されるのは、常にな奴だけだ。


 格闘で負けたから?

 テストで負けたから?

 容姿で負けたから?

 カーストで負けたから?

 何においても劣っているから?


 それがどうした? それを目の当たりにしてお前は何をしたんだ?? 南真奈。



 




「……最初から勝負しようとせずに諦める、それがこの上なください」


「……な、何よっ!? あなたに私の何が分かるっていうの!? 誠には敵うわけがない! 私がどんだけ追いかけても追いつけない……私の憧れなのっ!」


「ふーん。敵うわけがない……か。お前本気で努力したことないだろ。それなのに直ぐに誠すごーいって……はぁ」


 俺があからさまに肩を落とすと南は


「……っっ! 偉そうに言わないでよっ! 陰月の分際で! そんな口二度と!!」


 と迫力ある声量で言ってから殴りかかってきた。


 胸元に飛んできた拳を受け止めると、パチンっという乾いた音が響く。


 南の目尻には涙が溜まっていた。


「……誠には、ね。敵わないの絶対。私が頑張っても……無理なものは無理なの」


 悔しそうに下唇を噛みながら床に両手と両膝をつく南。


 はぁ。しょうがない……見せてやる。もう南には実力の一部を知られてるんだ、今更だろ。


 お前の視野が狭すぎるってことを。


 実力隠しに憧れた、陰キャの本気舐めんなよ??



 ———カァカァカァ



 カラスの鳴き声がよく聞こえる屋上。両手、両膝をつく南に俺は宣言する。


「……絶対なんてないって証明してやる。次のテスト、勝たせてやる」


 俺は高々とそう言い放ち南に条件を突きつけた。

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