南 真奈

 物心ついたときから、私こと南真奈は自分ってきっと特別な存在なのだと思っていた。

 容姿端麗、文武両道、頭脳明晰。私に当てはまる誉め言葉なんてたくさんある。


 たいした努力なしで、なんでも上位クラスに入ってしまう自分。最初はそんな自分が好きだったし、周りにチヤホヤされてうれしかった。


『真奈ちゃん、すごいまた一位!』

『南、完璧すぎだろ……』

『バケモンかよ……』


 私が廊下を歩くだけで周りからは、崇められている気がした。優越感に浸れて気分が凄くよかった。


 けれど、それと同時に辟易とする自分がいるのもまた事実だった。


 南真奈だから、完璧。

 南真奈だから、綺麗。

 南真奈だから、出来て当たり前。


 誇りに思えばいいことなのかもしれない。だけど、どうにもつまらない……退屈だと思うようになってしまった。


 私を超える人っているの??


 全国、世界規模で見れば私より上なんてたくさんいるのは分かってる。だけど、身近な人で私を越せる人は男でも女でも誰でも問わずいなかった。


「はぁ。退屈ね」


 そんな一言で済ませられる中学3年間を私は過ごし続けた。

 どうせ、高校行ってもつまらないんだろうな。なんてそんなことを思いながら。


 けれど、それは裏切られた。一人の男によって。


『南真奈……お前可愛いな。俺にこの先ついてこい』


 何この男。イケメンってだけであとは大したことなさそう。


 それがこの男の第一印象だった。私の偏見だけれど、イケメンって顔が良くても他できないイメージだから。


 なのに、なのに………


『………この私が、に、2位っ!?』


 高校での試験。私は初めて2位なんて記録をとってしまった。


『けけっ。俺が一位か』


 ちゃらけながら笑い飛ばす彼。威風堂々としていたその姿を見ると本当に彼が学年一位なんだ、と確信した。


 初めてだった。ドキドキした。


 負けて悔しいはずなのに、何故だろう。なんで、こんなに嬉しいんだろう。


 それからというもの私は、自然とこのイケメン男—相澤誠を目で追うようになった。


……カーストもトップ。成績も優秀。運動神経も抜群。顔もイケメン。


 彼を観察するたびに、私は何においても彼に劣っている、そんな気がした。


 それが無性に嬉しくて。だけど、それがどことなく受け入れられなくて。


 ———だから私は。


『……格闘で勝負して』

『は? それ俺に何のメリットあんの?』

『私が負けたら、この先……私はあなたについていく』

『へぇ……そりゃいい。俺は相手が女だからって手加減できねーぞ』

『……分かってる』


 私は勉強とかよりも実は武術の方が自信がある。

 というのも、武術においては小さい頃から取り組み続けてきたものだからだ。


 これで負けたら私は本当にこの男に何一つ敵わないことになる……。


 そんな思いを抱きながら私は相澤誠と屋上で対峙した。


『けけっ。まあまあやるじゃないか、少し危なかった。けど俺の勝ちだ。だから俺についてこいよ? 南』

『……うん』


 結果は、完敗だった。約束しちゃったこともあって、もう私は相澤誠についていくことを決めた。

 この男には敵わない。


 もうそう身体が覚えてしまったから。


 この時はまだ誠のことは好きではなかったと思う。けど次第に私は惹かれることになる、この男—相澤誠の圧倒的な力に。


 ふふっ。誠って最高!!!!


♦︎♢♦︎


 誠と出会ってついていくようになって一年。

 私が誠の虜になってた矢先のこと。

 私は誠と対照的すぎる男を目の当たりにする。


 陰月……あっ、下の名前知らないわ。


 何をしても点でダメな人物。一体何をすればそこまで低レベルでいられるのか、不思議でならなかった。


 誠がその陰月を馬鹿にするもんだから、私も流れで彼をバカにした。


 『陰月は弱くてちっぽけで最下位野郎』


 クラスの彼の共通認識はきっとこれだ。内心では、何で最下位でいられるんだろう、可哀想なんて思ってはいたけど授業は寝るし努力してないし、馬鹿にされても仕方ないと思う。


 誠を崇め、陰月を馬鹿にする。


 これが、私の日課だった。これからも陰月のことをバカにしていく……はずだったのに。


「……南真奈。俺にこの先ついてこい」


 差し出される右手に物怖じしない彼の姿。

 それは誠と重なって。いや、誠を超えているかも……という片鱗を見ている気がして。


「ははは」


 乾いた笑いしかできなかった。


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