実力披露?①

 金曜日。晴れ晴れとした快晴にうんざりとしながら目を覚ます。


「ふあーあ。眠いな……けど、今日で勝負にでないと」


 働かない頭の中で考えるのは南の件。


 そう思うと、少し……いや大分躊躇われるがあの相澤への執着心に高すぎる演技力。


 手放すには惜しすぎる人材だ。それに暁と夢島から解放された昨日のこと。


 あの日はまさに快適だった。だから、それを続けるためにも……。


 制服に着替え、ネクタイをきゅっと締めながら俺は瞳を細めた。


♦♢♦


 そして、学校。数学終わりの休み時間。

 がやがやと賑わう生徒達を尻目に、俺は南に目を向ける。

 たまたま、ふとこちらを見てきた南と目があった。


「ん? どうしたの?」

「あ、あの……」


 身をもじもじとさせてから上目遣いをする。

 男のこんな姿に需要なんてないんだろうな、とほくそ笑むとともに


「耳貸して」

「う、うん」


 恥ずかしがっているふうを装い、視線は暁、夢島と絡んでいる相澤に向けながら口を開いた。


「放課後、一人で屋上へときてくれ」

「え……」


 少し肩をびくっと震わせたが、ゆっくりと南は頷く。


「じゃ、そ、それだけ。また」

「え、あ、うん」


 それだけ言ってから、俺は急いで自席についた。

 隣の内田がふーふーと口笛を吹いてから


「なるほど。そうきたか」


 なんて意味深に言うものだから、俺は少しだけ内田の警戒心を強めるのだった。


♦♢♦


 ふう。やっぱり暁、夢島に絡まれない日は快適だな。

 

 放課後の学校終わり。俺はしみじみとそう思いながら一日を振り返っていた。


 あの相澤に絡まれて露骨に嫌そうな態度をとる暁をみてしまうと、やはり南の存在は欠かせない。


 俺は頬をぺしっといっぺん叩いて、屋上へと歩みを進めた。

 人気のない階段を駆け上がること数分。屋上につくと、風になびかれながら夕日と相まった少女が一人。言うまでもないだろうが南だ。

 よそよそしさのある空気の中。南の方から口を開く。


「……それで、何の様かな」

「まあ。えっと単刀直入にいう。俺と別れてくれ」


 俺が何てことない感じでそういうと、空気ががらっと変わった。


「え……い、今なんて」

「だから、俺と別れてくれ」


 思ってもないことを口に出す俺。ほんとはこの関係性は最高だ、すごくいい。

 だって彼女がいるという事実が存在するだけで、俺の邪魔をするものは現れなくなるのだから。でも、これを言わないかぎり……。


「な、な、なんでよっ!? ……せ、せめて今日までは耐えないと」


 明らかに南の顔色が変わる。はあ、一体の何がここまで南に執着させるのか。


「……相澤の指示ってところだろ。暁と夢島を俺から離させることができるまで、俺の彼女役をしろというな」


「え、ど、どうしてそれをっ!?」


「初めから分かってた。わかったうえで、彼氏になった。だから振られる前にこっちから振ってやろうって思った、それだけだ」


「そ、そう……でも、今日まではあんたの彼女じゃなきゃいけないから」


 ぎろりと鋭い眼光が飛んでくる。先ほどまでの優しそうな瞳とはまったくもって違うな。


「なら、どうする? ってどうしようもできないか。俺は相澤に報告しにいくだけだけどな。南とは別れたって」


「させないっ!! 誠の……誠の頼みだけは絶対に!」


 すごい忠誠心だ。関心するよ、ほんと。


 そう半ば呆れながら南を見ていると、何か思い立ったのか二ヤリと不気味な感じで口角を上げだした。


「……ふふっ。そうだ、相手はあの陰月だもん。私でも力づくで止められるよね♡」


 わざとらしく甘ったるい声をだしながら拳を見せつけてくる南。

 たしか、格闘技経験あるんだっけ? 南って。


 だけど………


 ふっ。だ。拳で語り合おうか、南真奈。



 

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