帰り道にて
南真奈と一応恋人関係となった日の帰り道。
俺と南は肩を並べて帰路を辿っていた。肩が触れ合いそうなこの距離感。付き合いたての初々しい男女の様に感じられ少しむず痒くなる。
……まぁ間違ってはないんだが。ビジュアルだけはいいからな、南は。
『可愛い女子ランキング』なんてものがあれば間違いなくクラスの男子全員が南に投票するだろう。
「……あの、そんなに見られたら恥ずい」
「あ、あぁ……悪い」
謝ると南はニコッと笑ってみせた。つい先日まで俺のこと馬鹿にしてた奴には到底思えない。
そんな訳ないなんて思っても、俺に好意があるのでは? と錯覚させられる。人格変わってると言われても不思議でない。
「……えっと陰月ってさ。家どっち?」
「あっち」
左右に分かれた道にでる。俺は右を指さすと南もどうやら一緒らしい。そ、そっかと躊躇いがちに言ってからついてきた。
……はぁ、なんでついてくるのか。右側の道は言ってはなんだが少し治安が悪い。進んでいくとゲームセンターが多くあり、壁はスプレーで落書きされている。
だから、普通は右の道ではなく左の道を選ぶのだが……はぁ。
「……この道、少し怖いね」
「……まぁ」
だったら何でついてきた……。内心で突っ込みを入れながら歩みを進める。
古びた建造物、なんて読むのか分からないスプレーでの落書き、レトロ感あふれるゲームセンター。
平然とした態度でそのあちこちを見ていると、南は震えた声で口を開いた。
「……あ、あのさ。少し急がない?」
「…………」
足元を見ると少し震えている。過去に何かあったのだろうか。顔も少し青ざめている。
会話も続かないこのなんとも言えない空気。
俺も居心地は良くないので南の提案を受け入れた。
「……じゃあ急ぐか」
「う、うん……(何でこんなに平然としていられるのよ)」
歩くペースをあげて南の方を直々確認する。
「大丈夫か?」
「え、あ……うん」
そう南に心配した瞬間だった。
「……え、え、兄貴っ!」
あぁ……最悪だ。生意気な妹にこんなとこで出会うなんて。
「なんで……兄貴がこんな美人とっ!?」
「…………」
俺は妹を無視して南の腕を掴む。
「……えっ」
「すまん……急ぐ」
南を引いて一目散に走る。妹に出会うなんて予想外もほどすぎる。
「……ちょ、ちょっと!!」
背後からそんな声が聞こえるが無視だ、無視。
俺はとにかく妹と距離ができるまで走り続けた。
くそっ……。帰ってからがめんどくさいな……。
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