南、襲来②

 南の呼びかけがあってからか、それからの授業は眠くなかった。


「くくくっ」


 帰りのホームルーム。相澤が下衆な笑みを浮かべながらこちらの様子を伺っているのを見るとやっぱり、南の呼び出しには相澤が絡んでいるか。


 予想通りというか、なんというか……つまらん奴らだと再認識して頭を抱える。


「よかったな、春がきて」


 横を見ると、内田が口角を釣り上げていた。


「そんなんじゃないっての……」

「……嘘つけよ、いいなぁ〜。俺たちは仲間だと思ってたのに」

「………はぁ、はいはい」


 相手するのが面倒なので適当に流す。窓の外を眺めると綺麗な夕日が瞳に映った。


 かぁ、かぁ、かぁ。


 外に意識を集中させると、カラスの鳴き声が耳に響いてくる。

 カラスは別に好きではないが、夕日とセットのカラスはどこか好きだった。


「……それでは帰りのホームルームを始める」


 気づけば先生が教壇に立っている。俺は名残惜しさを感じながらも、意識を前方へと向け直した。


♦︎♢♦︎


 ホームルーム終了後。気だるさもありながら、俺は階段を上がっていく。


 ……はぁ、これで南のやつ来なかったら俺本気でキレるぞ……。


 南からの呼び出し。それに応じるため俺は屋上へと一人向かっていた。


 屋上に到着すると、そこには一人の美少女が立っている。

 言うまでもない、南真奈だ。


「……ふふっ。来てくれたんだ」

「まぁ……」


 夕日がバックだからだろうか。いつもより南が可愛く見える。まっ、ビジュアルだけな。


「……私ね……ふ、ふふっ。なんか恥ずいなぁ……」


 柔和な笑みを浮かべながら髪を耳にかける仕草をする南。

 男子のツボをよく理解しているのだろう。不覚にも少しドキッとした。


「……何の用なんだ?」

「……それはね」


 身体をもじもじとさせ、上目遣いをされる。

 焦ったい……早く要件を言ってくれ。


「……私っ、本当は陰月くんのこと好きなの」


 はぁ、やっぱり告白だったか。


「…………」


 嘘告だと確信していることもあって、俺は冷静に思考を巡らせる。

 告白の返事について考えていると、南は焦ったのか早口気味で口を開いた。


「え、えっと……私、陰月くんのこと馬鹿にしてきたよ……でもね、じ、実はそれ演技で誠、いや、相澤くんたちに同調しちゃってて……それはごめんなさい! だけど、これからは馬鹿にしたりしないし、陰月くんの味方になるからっ!」


 ひ、ひどい慌てようだな……。そこまで俺と付き合えないと困るのか。


 でも、まぁ……そうだな。

 案外、付き合うのも悪くないかもしれない。



 ニヤリ、と口角を上げ自分の邪心を隠すように慌てた素振りで口を開く。


「……あ、え、えと……よろしく……」

「……ほ、ほんとに? ありがとう! こちらこそよろしくね(あーちょろすぎる……陰月って)」

「……うん」


 茜色の空の下で付き合うことになった俺と南。どちらもお互いのこと好きではない歪な関係。


 でも、それでいい。

 実力隠し道に一筋の光が見えた俺は嬉しさに浸っていたのだった。

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