南、襲来①

 昼過ぎの授業は眠すぎる。多くの学生にとって5時間目というのは睡魔との戦いではなかろうか。


「……眠い」


 寝ぼけ眼をこすりながら、先生の呪文を聞き続ける。5時間目の授業は英語だ。そのためもあってか、発言全てが呪文にしか聞こえない。


「……おい」


 寝落ちしかけたとこで、内田から声をかけられる。内田の方を向くと何やら二回に折られた一枚の紙をこちらに向けていた。


…… 受け取れってことか?


 こんなこと今までにはなかったことなので、少し警戒する。さっきの暁、夢島との昼食会といい、今日は何かと変わってる日だ。


 視線は先生の方に向けたまま、様子を見て紙を受け取る。


 …………ん?


 何やら紙を受け取った瞬間、南から視線を感じた気が……いや、気のせいか。あのリア充トップ女子の南が俺に興味を惹くなんてあり得るわけない。


 ふぅと少し息を吐いてから、紙を広げる。内容を見たその瞬間、俺はびくっと体が震えてしまった。


 いやいや、待て待て……。何かの間違いだ。


 目をこすってもう一度書かれてある内容に目を通す。


 く、くそ……同じ内容だ。一体……何のつもりなんだ……!!


 俺は内田の右隣に座る南に睨みを効かせた。

 なんだ……何かの罰ゲームか??


 書かれていた内容は次の通りだった。


 『陰月くんへ

 放課後、屋上へ来てください! 伝えたいことがあります!


 南 真奈』


 相澤の提案か? 俺は南の意図が分からなかった。恋愛に疎い俺でも分かる、これは所謂……告白ってやつだろう。



「………」


 丸文字で書かれた文に何度も目を通しながら思考する。全くおかげさまで眠気がとれちまった……。


 相澤? 家塚? 誰の入れ知恵だ?


 少なくとも本気マジなやつじゃないのは確定だ。とすれば………


 無視が無難か。


 普段から俺をなにかと馬鹿にしてくる南だ。

 無視くらい俺も許されるだろう。


 ふっと一つ息を吐いて思考を停止する。再びうとうとし始めると、俺の頭に呪いの言葉がフラッシュバックする。


『女子に恥かかせるつもり?』


 ……夢島のやつ、変な言葉かけやがって……。


 はぁ、とため息をつきながら力を抜く。まぁ、呼び出しだけで告白とは限らないしな。それに南の意図も知りたい。


 結局、南の呼び出しに応じることにした。

 決して、夢島の言葉のせいではない。決してだ。


♦︎♢♦︎


 陰月……ふふっ。焦ってる、焦ってる。

 私の書いた文を見て愛の告白される〜なんて思ってるのかな? 私の本命は誠なのにね、ぷぷっ……あぁーおかしいー!!


『あいつと偽の恋人になって、暁と夢島から引き剥がさせろ……ハニートラップだ』


 任せといてね、誠!!

 私が、あいつの気をひかせてみせるからっ! 私にかかれば余裕に決まってる!


 

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