実力隠しの俺、ピンチ!?

「……お前意外と足速かったんだな」

「ははは……」


 内田のタイムは6.9秒と比較的高水準な方だった。内田は全てが冴えないやつだと思っていたが足が速いという長所があるとは驚きだ。


 まぁ、足が速くてモテたり注目あびたりするのは小学生までと相場は決まっているはずだけどな。


「……けけっ。陰月とは違って内田は足速いんだな」

「最初こそ、陰月には驚かされたけど、ただのまぐれかフライングだろ」


 まっ、フライングなんてずるは勿論のことまぐれでもないけどな、相澤に家塚よ。あれでも手は抜いていた方だ。


 けど、なんだかんだで内田には助けられた。


 おかげさまで俺の足速いのすげーから、内田足速いのすげーに切り替わっている。



「おい! 女子は女子でしっかりやるぞ! 男子に負けるなー!」



 男子の走る姿をチラチラと見ていた女子の視線を感じなくなる。

 ふっ、いいぞ先生。その調子で頼んだ。


 どうやら女子は幅跳びをしているようだ。南の得点が凄いのか女子の皆が南を取り囲んでいる。


 いや……を除けば違うな。


 頬をピクつかせながら視線を向けるとそこには夢島に暁。


「……おい陰月」


 はぁ。一体あの二人にどう接してどうすれば俺から興味をなくすだろうか。


「おい、陰月ってば」


 ってかやっぱりさっきから眠いな。いつものことだけどさ。


「おい陰月!」


 はぁ。体育終わったら寝て……そこから夢島と暁の対策……


「おい、礼人!」

「は、はひっ!?」


 突然耳元で大きな声を出されたからか俺は思わず変な声を出してしまう。


 し、しかも礼人なんて呼ぶの親除けば以外にはいないしな……。

 まあ、に会うことはこの先あるはずもないけど。


「って、また自分の世界に入る気か? 陰月」

「……すまん。眠くて」

「お前なぁ……。相変わらずだな」


 目の前にいるこの男は、確か陸上部の青山陸だ。絡んだことはこれまでにないが……一体何の要件だろうか。


「……それで俺に何の用?」

「……実はさ。とーーーっておきの話があってよ」

「う、うん」


 聞き耳立てるように催促してきたため俺は少し中腰気味になる。

 青山の囁き声なんて男の俺には需要はないが

そう言うには言えないため、耳にする。


 なんだろう。嫌な予感しかしないんだが……


「……お前さぁ。学校での地位がその……。本人の前で言うのもなんだけど最低な訳だろ? けどそれを打開できる案があって……。それは陸上部に入ってお前の評価を改善させるって手でな」


 うわぁ……。陸上部の勧誘かよ。そんな予感はしていたが当然却下だ。


「こ、断……」

「大丈夫だって! お前には才能がある! 前半のお前のあのダッシュ……陸上部の次期エースの俺が言うんだ! 間違いないって!」


 今度は肩を掴まれ何故か前後に揺さぶられる。


 あ、あぁ……やばい。青山のやつ人の話を聞いてない。

 これは暁タイプか??


「……大丈夫だって! そのほら、お前も目を向けてたあのナイスバディな生徒会副会長も陸上部だから! あの人……にしか興味ないから! お前ならいける」


いや、グッドポーズとられても困るんだが。

 ってか、人の話を聞け。いや青山の場合、話もさせてもらえない感じか……。


「ひひっ。それじゃ陸上部の件考えてくれよ〜」

「だから、断……」

「え? 聞こえないぜ!」


 はぁ。これ……青山にも目をつけられたんじゃないのか??


 視界の隅には夢島に暁……。そして目の前には青山。


 はぁ……。


 俺は深いため息を再度もらした。

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