迷子の白猫 ②


 慌ただしい足音が扉の先から聞こえて来る。

 そろそろ昼食の準備が整いそうだと言うことで、ジェフは浜辺に出掛けた三人を呼びに行くべく、屋敷の玄関扉に手をかけようとした所だった。


「ジェフ!シュニー様は戻っていませんか!?」


 勢いよく開かれた扉の先には、青い顔をしたセレナが立っていた。その後ろには、同じく青ざめた表情のアリーがいる。


「いえ。戻られていませんが、どうかなさいました?」

「…………」


 そのまま黙り込んでしまったセレナに訝しむような視線を向けると、彼女は血の気の失せた顔で言った。


「シュニー様が……居なくなりました」

「……はい?」


 小さく震え出したセレナに、これはただ事ではないと判断したジェフは、二人から詳しく話を聞くべく、まずは屋敷内のサロンへと案内することにした。



「殿下が居なくなった、と言うのはどういうことです?」


 ひとまずセレナをソファーへと座らせたジェフは、落ち着いた様子で尋ねる。ここでジェフまでもが慌てた様子を見せたら、彼女を余計不安にしかねない。


「アリーと二人で海にいて、気付いたら……」


 震える声で紡がれた内容に、ジェフは眉根を寄せた。

 セレナとアリーが波打ち際に居る間、シュニーは離れた所で待機していたようだが、気づいたら忽然と姿を消していたのだと言う。慌てて二人で辺りを捜し回ったがその姿を見つけることはできず、仕方なしに別邸まで戻って来たらしい。


 セレナの隣に腰を下ろしたアリーが、その震える背を優しく撫でた。


「状況は分かりました。とりあえずは連れてきた騎士隊に捜索させましょう」


 どこか抜けているようで本質は優秀なあの主人が、何も告げずに自分から姿を消すとは思えない。だとすると、何か事件にでも巻き込まれたと言うのか。


「わっ、わたしも捜します……!」


 そう言って腰を浮かしかけたセレナをジェフは制した。


「セレナ様はここに居てください。闇雲に探し回っても危険なだけです。あなたの立場もありますし、ここは本職に任せましょう」


 あとの事はこちらに任せてほしいと宥めるように言う。

 セレナの様子を見ているようにアリーに告げ、ジェフは部屋を後にした。

 まさか着いて早々トラブルが起きるとは。しかも、行方不明などさすがに予想していなかった。

 どうしたものかと頭を抱えながら、ジェフは常駐させている騎士たちのもとへと向かうのだった。


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