1章 旅立ち

第3話 意思疎通

 みんな嫌いだ。

 僕は神になりたいなんて思ったこともない。

 そもそも能力だってない。

 学園の成績だって良い訳でもないし。

 学園のみんなだって何かの間違いだと思ってる、こんな落ちこぼれが神になるなんてあり得ないって陰で言ってるの知ってるんだ。

 こんなのあんまりだろ。

 これが運命だって言うなら、神の座なんていらない。

 僕は、ただみんなと同じ目線で接してもらいたい、遊んだりしたい、それしか望んじゃいないんだ。


「ルーン、君はいつも僕のそばにいてくれるね。君だけはどこにもいかないでね。」


 目から溢れる温かい滴が頬を流れるのを感じつつ、ルーンのひんやりとした首を撫でると、ルーンは優しい声を返した。


「私はどこにも行かないよ。」

「えっ!?」


 周りを見渡したが誰もいない。というか、いるはずがない。サイルとさっき別れて、ルーンの背中に乗って学園に向かってるのだから、僕とルーン以外にいるはずがないんだ。


「私だよ。ルーンだ。」


 どこか楽しそうな声で話している。


「本当にルーンなの!?そんな、ドラゴンが話すなんて聞いたことないよ。どうなっているんだい?」

「そんなに驚いてくれるとは嬉しいねえ。私の知る範囲で教えてあげよう。」


 ルーンは、得意げに旋回をして、背中に乗る僕の顔を覗き込んだ。


「キラの涙には、力が宿っているんだよ。神の力ってやつかな。心の底から想うことを、神になればなんだって具現化できる。でも、キラにはそこまでの力は今はない。ただ、今回のは相当想いが強かったんだな。涙にその力が宿ったんだ。」

「そんな、そんなこと僕にできるの?信じられない。」

「能力のない者を次代の神とするほど、神界の人間は落ちぶれちゃいないよ。キラ。お前は、間違いなく神になるべくして生まれた存在だ。」


 信じられない。今までこんな能力が発動したことはなかった。本当にこんな力があったんだ。


「これって、もう、いつでも使えるってことかな?想ったことを具現化できるようになったのかな?」

「ガハハハハ!馬鹿言っちゃいけないよ。そんな簡単に神と同じことができる訳ないだろ。そもそも神交代の儀式さえ行われてないんだから、それまではキラにその力はないよ。今回のは偶然だ、偶然!!」


 偶然だとしても、これは僕にとって最高の偶然だな。唯一の友達であるルーンと意思疎通ができるなんて、夢みたいだ。


「ありがとう、ルーン。これからもよろしくね。」


 思いっきりルーンの首にしがみつくと、ルーンは鼻を鳴らした。


「さぁ、道草はここまでだ。一直線で学園に向かうから、振り落とされないようにな。」


 ルーンは、言い終わらないうちに一気に加速し、学園へ向けて飛行した。

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