第2話

 好きな人に、追い込まれた。


 実際、負けそうだった。


 まさか、屋内戦闘専用近距離短機関銃パーソナル ディフェンス ウエポン、略して、PDWを持ち出してくるとは。しかも、前より動きが機敏になっている。今まで余裕で捉えることができた距離で、ローリングから隠れられた。


 勝てなくなるかもしれない。


 背中が、ぞわっとした。


 好きな人に唯一勝てる要素が。


 なくなるかもしれないという恐怖。


 向こうは頭もよくて顔もいいのに。わたしは、唯一飛んだり跳ねたりがうまいってのが取り柄なのに。


「先輩」


 女の後輩。


「すごかったですね。最後、大ジャンプから、ばばばっ、て。空中で止まってるように見えました」


「そういう飛びかたをしたからね」


 屈んで、膝を起点にして大きく跳ね、空中で足を伸ばして腰を捻る。


「あとでおしえてください」


「あとでね」


 どうしよう。


 負けたくない。


 負けたら、好きな人に。


 置いていかれるかもしれない。


「先輩。どこへ」


「敵のほうに行くのよ」


「私も行きます」


「準備して待ってなさい。次はあなたたちでしょ」


 好きな人のところへ行くから。あなたはもう彼氏いるでしょ。言葉を、ぐっと飲み込んだ。

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