ライフル&トリガー

春嵐

第1話

 好きな人は、いつも相手。


 戦闘開始。


 ダンボールの影に隠れて、索敵。ゴーグル。0ヒット、0ダメージの表示。


 田舎の、公立高校。

 なんか市の予算編成が少子高齢化対策とかで変な感じになっていて、高校にめちゃくちゃな額の予算が来ていた。


 それで、なぜか市長や校長がノリノリになって作ったのが、この射撃場。柔道場に少し毛がはえた程度の大きさの箱に、雑に段ボールとか机とかが置かれている。


 実際のところ、そんなに金はかかっていない。せいぜいが学祭の出し物程度。残りは校長と市長が着服してる。


 それでもよかった。代わりに、このゴーグルと部活の設立を認めてもらっているし。


「うわっ」


 机の影に一人。あぶない。まだ0ダメージ。


 狙って、撃った。当たる。1ヒット。


「よしよし」


 ゴーグルは、自作。エアガンのレーザー部分にレーザーを少し改造したものを取り付けて、射線を読み取る仕組み。理系オリンピックと全国自由研究の両方に出して、両方とも金賞を取った。


 要するに、エアガンを相手に向けてトリガーを引いて当たると、1ヒット。当てられると、1ダメージ。BB弾も使わない。レーザーすら非照射型。誰が使ってもいい全年齢対象レベル。そこが理系オリンピックと自由研究の訴求ポイントだった。


 影。


 素早い動き。


「きたっ」


 好きな人が、攻めてくる。


 今日こそは、彼女に勝って。


 告白する。


 唐突な告白ではなく、しっかりと仲良くなって、これから先もずっと一緒にいたいという意味の、告白。


 高校生にしてはちょっと重たいが、それでも、ちゃんとOKしてもらえる自信は、ある。


 問題は。


「うわあああ」


 この強さ。


 ローリングして射線を切り、机に隠れる。この動きを身に付けても、まだ躱せない。ゴーグル表示。3ダメージ0ヒット。


「まだまだ」


 なんとかくらいついて。接近戦を仕掛けるんだ。恋愛と同じ。


 今回は特別チューンの近距離専用屋内戦闘変態短期間銃パーソナル ディフェンス ウエポンを持ってきている。名前が長いので略してPDW。


「うおおお」


 走った。


 賀名さん。


 好きですっ。


「おりゃあああ」


 連射連射連射。


 屋内戦闘には短く取り回しのよい銃器だ。


 4ヒット。


「いけるっ」


 動く相手をゴーグル越しに捉えながら走って追った。


「はっ」


 消えた。


 違う。


 浮いた。


 上空。


「なっ」


 好きな人が、跳んだ。


「しまっ」


 た。太陽が、目に入る。ゴーグルで遮光されるが、それでも好きな人との距離感が、一瞬失われる。


「うわあああ」


 めった撃たれた。


 15ダメージ。


 ゲームセット。


「うああ」


 惜しかった。PDWで追い詰めたのまではよかったのに。まさか太陽を背にしてジャンプされるとは思わなかった。


 また。


 まただ。


 告白できない。


 彼女に勝って、彼女に認めてもらえなければ。告白にも箔が付かない。


 まだだ。


 今度は、もう少しスコープの視野角を調整して、上まで捉えられるようにしよう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る