第3話

「先輩」


 男の後輩。駆け寄ってくる。


「なんすか。その銃」


「PDWっていってね。狭いところで撃ち合うための銃なんだ」


「へええ」


 理系オリンピックや自由研究コンテストでは、彼の協力を得ている。彼には、かなり見込みがあった。ただ、田舎のいちばん大きな町工場の跡取り息子なので、本人に進学の気持ちはない。


 それはそれでいいことだった。地元に骨を埋めるのは、素晴らしいことだし。


「PDW。さわらせてください」


「うん。多少雑に扱っても大丈夫な作りだから、振り回してみてもいいよ」


 後輩が、PDWを持って、構える。なかなか様になっている。彼は、自分と違ってそこそこ運動神経がある。ただ、絶対に本気で運動をしない。


 後輩がPDWを振り回す。


「すごいですね。なんていうか、動かしやすい」


「取り回しがいいってのは、そういうのを言うんだろうね」


「次で使ってみてもいいっすか?」


「使ってもいいよ。でも今日は、町工場で仕込んだ長尺のスコープを試してみるんじゃなかったの」


「これに付けてみたいっす」


「そっか」


 この後輩には、彼女がいる。女の後輩。


 部員は全部で四人。


 そして、後輩ふたりは、ここに遊びに来ている。それでよかった。好きな人との居場所ができるなら、それで。


「先輩の仇取ってきます」


「君が勝っても、告白するわけでもないでしょ」


「そうっすけど、先輩の告白がうまく行くのを願って、ですよ」


「ありがと」


「工作室借りてスコープを付けてきます」


「行ってらっしゃい」


 部室。ひとり。


「ふう」


 後輩の戦闘も見ておけば、さらに変更点が見つかるかもしれない。


 少し休んで、集中力を持続させようか。


「ねえ」


「うわっ。賀名さん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る