第42話 恐怖のかくれんぼ

 私は、今、学校にいる。

 授業を受けに来たのかというと、そうではない。

 何故か知らないうちに、校舎の中に一人、立っていたのである。

 校舎を見渡してみるが、他には誰もおらず、しんと静まり返っている。

 本当なら、学生が大勢いて、賑わっているのが普通であるから、この静まりようは不気味にさえ思えた。


 何故こんな所に立っているのか分からないが、他に誰かいるかもしれないと思い、校舎の中を歩くことにした。

 普段は、感じたことがなかったが、校舎を一人で歩いてみると、すごく広く感じた。

 今、私は、真ん中の校舎の三階にいるらしい。

 この学校の校舎は三つあり、全て三階建てなので、私がいるこの階は、一番上の階ということになる。

 そして、校舎と校舎の間には渡り廊下があるため、そこを通れば、全ての校舎に行くことができる。



 私は、渡り廊下を渡らずに、今いる校舎の三階をうろうろと歩いてみたが、他に誰も見当たらない。

 そのため、二階に下りてみようと、階段を下りだした。

 すると、二階から私のよく知る同級生の男の子が、三階に向かって階段を上がってきた。

 自分の知る人が、目の前に現れたことに、私は安心感を覚えて、声をかけてみた。

 男の子はこちらを見ながら、階段を駆け上がってきたのだが、何だか様子がおかしい。

 物凄く必死な様子で、追い詰められたかのような表情をしていた。


「早く、隠れろ。」


 そう言われて、何のことだか分からずに、そこに突っ立っていると、男の子は私の腕を引っ張って、今私が下りようとした階段を、一気に上まで上がっていった。

 そして、廊下で左右を確認して、右の一番突き当りの教室まで私を引っ張っていき、その教室の中へ入った。

 中へ入ると、窓から姿が見えないように、男の子がその場にしゃがみこんだので、私も真似をして、しゃがみこむ。


 私は、男の子のただならぬ様子に、何か大変なことが起きているのだと察知した。

 しばらく、教室の中で、静かにしゃがみこんでいると、誰かが廊下を歩くような気配がした。

 男の子の様子から、かなり緊張している感じがした。

 そのまま、じっとしゃがみこんで数分が経つ。

 すると、廊下を歩く人の気配は消えた。


 私は、もう話しても大丈夫かなと思い、男の子の方を見ると、男の子から私に話しかけてきた。


「この学校には、変な人間がいて、俺たちを捕まえようとしている。」


 真剣な顔で、男の子はそう言ってきた。

 詳しく聞いてみると、変な人間というのは、人間の姿でありながら、身長が二メートルほどあって、髪の毛が生えていないという。

 そして、手足が長く、校舎の中をうろついている者もいれば、校舎の外側の壁を這う者もいるらしい。

 這うなんて聞くと、もはや人間ではないのではないかと思ったが、見た目は人間に似ているらしい。


 校舎には、私と男の子の他にも、何人か逃げている同級生たちがいて、みんな、なんで学校に自分たちがいるのかは、やはり誰も分からないらしい。

 分からないまま、校舎内をうろうろしていたところ、変な人間が現れて、次々と見つかって、何処かに連れていかれたということだ。


 私と男の子は、教室の廊下側の窓から、反対側の窓までしゃがんで移動し、向こうの校舎をそっと覗いてみた。

 そこには、確かに、校舎の中を歩く者と、校舎の外の壁を這う、得体の知れない者がいた。


 一番安全なのは、この学校を出てしまうことだが、出てしまうまでに見つかってしまうことを考えたら、容易には外に出られそうになかった。

 それでも、私は、何とかこの学校を脱出できる方法はないかと、真剣に考えてみた。

 普通に出入口を通って、外に出るのが危険なら、一階の窓から出ていけばいいのではないか。

 そう思って、その考えを、隣で一緒にしゃがんでいる男の子に伝えてみた。


 すると、男の子も、その考えに賛成してくれた。

 運動場の方を見ると、そこには誰もいなさそうだったので、校舎を出た後、運動場を突っ切り、裏門から出れば、外に出られそうだった。


 私と男の子は、さっそく今いる教室をそっと出て、さっきの階段のところまで静かに歩いていった。

 一階の窓から外へ出るには、今いる三階から、どうしても階段を使って、一階まで下りなければいけないため、この階段を使わざるを得なかった。

 あの変な人間がいないか、注意深く様子を観察しながら、三階から一階へと、どんどん階段を下りていく。


 そして、相手に見つかることなく、一階まで無事に階段を下りることができた。

 あとは、廊下の窓から外に出るだけだ。

 私は、男の子と一緒に廊下まで行き、周りを確認した。

 誰もいない。

 これなら、外に出られる。

 そう確信して、私は窓を開けた。


 すると、あろうことか、校舎の外の壁を這っていた、あの変な人間に見つかってしまい、その人間は窓から中に入ってこようとした。

 そして、廊下を見ると、私と男の子以外、誰もいなかったはずが、そこにも一人、変な人間が増えていた。


 私と男の子は、窓から離れ、廊下にいる変な人間とは逆の方向に慌てて逃げた。

 しかし、必死に逃げているうちに、私は男の子とはぐれてしまい、自分がどこにいるのか分からなくなってしまった。


 この学校から出るのは、無理だ。

 恐怖で頭が混乱しながら、本気でそう思った。

 そして、私はその後も、ずっと一人で、どこかの校舎の暗い場所に隠れ続けた。

 男の子や、他の同級生がどうなったのかも分からずに、ただ、ひたすら隠れ続けたのだ。

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