第41話 家の建て替え

 ある日のことである。

 私は、いつも通り、朝早くから仕事のために、電車に乗って出勤した。


 そして、一日中働いて、いつもと同じように帰りの電車に乗って、自宅の最寄り駅で降りた。

 すると、今日は珍しく、母が、最寄り駅まで車で迎えに来てくれた。

 母は、何だかとてもご機嫌で、にこにこしていた。

 何かいいことでもあったのかと思って聞いてみたが、すぐに私にも分かると言って、詳しくは教えてくれなかった。


 車に数分乗り、自宅に着いた。

 車から降りて自宅を見ると、そこには、いつも見慣れているはずの家がなかった。

 そのかわりに、見慣れない新しい家が、いつも家があった場所に建っていた。

 これは一体どういうことなのかと思って、頭が混乱していると、運転を終えた母がやって来て、「家を新しく建て替えたのよ。」と笑顔で言った。


 私は、それを聞いて、とても驚いた。

 家を建て替えるなんて話は、今まで一切聞いたことがなかった。

 それに、建て替えるにしても、私が仕事に行っている、たった一日の間で、こんなにも簡単に建て替えられるものなのだろうか。

 普通に考えたら、ありえないことなのだが、現に今、目の前に新しく建て替えられた家が建っている。


 私が、新しい家を見て呆然としていると、母が家の中に入ろうと言った。

 家の中に入ってみると、いきなり階段が上の方まで、ずっと続いていた。

 結構、長い階段で、三階の高さくらいまで続いている。


 母は、その長い階段をどんどん上がっていくので、私もその後ろから、上がっていった。

 一番上まで上がりきると、ドアが一つあって、母はそのドアを開けて、中へ入った。

 私も、母の後ろから中へ入ってみると、今度は上がった分だけ階段がずっと下まで続いていた。

 結局、階段を下りるのなら、上がってくる意味がなかったんじゃないのかと思いつつ、そこは気にしないことにした。


 それよりも、私が驚いたのは、階段の一番上から下を見下ろすと、かなり広い空間が広がっていたことだ。

 階段は、三階くらいの高さから、一気に下に続いていたのだが、一番下の部屋が、とてつもなく広かった。

 下りた先の一階と思われる部屋の右側は、リビングになっていたのだが、ぱっと見る限りでも三十帖くらいはある。

 部屋の左側はというと、ダイニングになっており、そちらも三十帖ほどある。


 家の外側から見た時は、そんなに家が大きくなったようには思えなかったし、周りにも家があることから、土地の広さを大きくすることは無理なはずだ。

 どう考えても、家の外から見た大きさと、家の中から見た大きさが違いすぎる。

 地下でも掘ったのかと思ったが、そんな感じには見えなかった。

 どういう仕組みで、家の中の空間が広くなったのか分からないが、母が嬉しそうにしているので、詳しく聞くのはやめることにした。


 母の後ろから、階段を下まで下りていくと、そこには父もいた。

 父もまた、家を建て替えたことで、嬉しそうにしていた。

 私も、部屋が広くなったことは嬉しかったが、正直ここまで変わりすぎると、喜んでいいものか戸惑っていた。


 母は、戸惑っている私のことなど気にせずに、今度はお風呂場を案内すると言ってきた。

 そして、今下りてきた階段をまた上がりだした。

 どこに行くにも、この階段を上り下りしないといけないのかと思うと、少し複雑な気分だったが、何も言わずについていく。


 一番上まで上ると、次は、さっきのドアではなく、右側にあるドアを開けた。

 そのドアの中に入っていくと、やはりまた下へ続く階段があり、それを下りていった。

 下まで下りて、目の前のドアを母が開けると、そこには一般家庭にあるような浴槽というよりは、もはや温泉と言えるほどの大きなお風呂があった。

 そのお風呂は、浴室内の左側にあり、縦長にずっと奥まで続いている。

 そして、右側の手前と奥は、何か室内のようになっていた。

 母曰く、右側の手前の部屋は、サウナということである。


 いくら何でも豪華すぎないかと思ったが、さすがにこれだけ豪華な浴室を見せられると、私もテンションが上がってきた。

 これから、毎日、こんな広いお風呂に入れるのかと思うと、わくわくしてきた。

 さっきまでは、家の中と外の空間に差があることが気になって仕方なかったが、これだけ豪華だと、もうそんなことは、どうでもよくなってきた。


 ところで、肝心の私の部屋はどこにあるのだろうと思った。

 すると、母が浴室の右側奥の部屋に、私を案内してくれた。

 そして、なんと驚くことに、ここが私の部屋だと言われた。

 どう考えても、浴室内で湯気がもくもくしている。

 こんなところに部屋なんて作って、湿気でカビが生えないのだろうか。

 そう思っていると、母が、「部屋の中は、きちんと空気が循環できるようになっているから大丈夫よ。」と言ってきた。


 中に入ってみると、浴室内とは思えないほど、空気はからっとしていて、室内も広々していた。

 これなら、問題なさそうだと思った。

 しかし、部屋から出入りするときは、浴室内を通るわけだから、そこは何とも言えなかった。


 それでも、今後、この広い家に住めることを考えたら、たとえ毎日、浴室内を通ることになろうとも、気にしないようにしようと思った。

 これから、この広い家での生活が、新たに始まっていくのである。

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